↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
入学編
PR
39/400

39.心配の種

「そういえば、貴方と話したことはあまりなかったわね」

「そうですね」

「いつもサティやニールと一緒にいて、鬱陶しくならないの?」

「二人といて不快に思ったことはありませんね」

 アイリーン嬢は、俺の予想より遥かに積極的に話しかけてきた。歩いて五分もかからない道のりなので、会話しなくていいと思っていた自分の考えがあまかったようだ。

 サティやニールに対しては、兄に対する年頃の妹みたいな心情なのだろう。サティは大分わかりやすくアイリーン嬢を可愛がっているが、一人前に扱ってほしい気持ちもあって冷たい返事をしていることが多い気がする。サティはその反応も面白がっていたけど。

「今度の料理教室、楽しみにしているわ」

「ありがとうございます」

 取り敢えず相槌を打ちつつ、気付かれない程度に歩くペースを早くする。会話に夢中になっているので、アイリーン嬢は特に違和感もなく付いてきている。

「……ねえ、聞いてるの?」

「聞いてますよ、アイリーン嬢」

「……もっと砕けた口調でいいわ、サティ達と同じくらい」

「そうですか」

 あと少しで到着だ。王子たちの姿がぼんやりと見え始めたというのに、アイリーン嬢は急に足を止めた。エスコートに差し出していた手が後ろに引かれ、しまった、失敗したと思って振り返る。

 彼女は何か言いたげな目で、じっとこちらをにらんでいた。

「わたくしの話を、きちんと聞いていなかったの?そんなにわたくしと親交を深めるのが嫌なのかしら?」

 そういえば、アイリーン嬢は公爵家であり王子の従妹という立場から、同世代から遠巻きにされがちだ。その影響で親交を深めるためにも対等な口調や呼び名などに結構こだわるのだとアサヒが言っていた。キッドマン子爵令嬢がアイリーンさん呼びをしていたのもこだわりの結果だろう。

 さて、どうしようか。このまま多少強引に王子の所まで連れ戻してもいいが、恨みが残るような方法を取ることはしたくない。かといって、公の場で口調を咎められでもしたら言い逃れできない。まあでも、目の前の女の子に悲しい顔をさせるような奴は紳士とは言えない、と何かで読んだことがある。

「……アイリーン、もう少しだけ頑張って歩ける?」

 目線を合わせて、そう尋ねると彼女は嬉しそうに頷いた。此方は結構気恥ずかしいのだが、美人の笑顔を見られたので良いとしよう。

「ええ、勿論よ。行きましょう、フタバ」


 機嫌が一気に回復した彼女は、王子たちの方向へ意気揚々と歩き始める。段々と見えてきたのだが、残っているメンバーの数が思ったよりも減っている。野次馬根性でミフネ嬢は最後まで残っているかと思ったのだが、アサヒとニール、そして王子しか残っていない。

「やっと戻って来たか。……サティはどうした」

「寮まで送り届けるかの見張りに行った。今ならギリギリ追いつけると思うけど」

 こちらを見つけるなり、ニールは真っ先にサティの所在を確認した。余計なことをしていなければいいが、とため息をついている姿は保護者にしか見えない。追いかけないということは、多分大丈夫だと判断したのだろう。

「二人ともありがとう、マーカスは大丈夫だった?」

「ミナトが嫌がるような行為はしておりませんでしたわ」

「その言い方だと嫌がらない行為はしたように聞こえるのだけど…」

 困ったように手を口元にあてた王子に夜空の星の解説をしていただけだと伝えると、ほっとしたように笑った。自分の側近候補が一般の貴族女性に問題行動を起こしていなかった安心と、幼馴染が失敗しなかった喜びが入り混じったような表情だ。

 こういう時に、純粋な個人の気持ちだけでなく立場的な問題も心情に絡んでくるのが貴族の難しい所だな、と改めて思う。純粋な感情だけでは生きていけないのだ。だからこそ、真っ直ぐに恋愛をしているマーカスを応援したい。

「で、アサヒは何か変わったことあった?」

「ミフネさんがユーリスと帰った以外、変わったことはないよ」

 珍しい、ユーリスは基本的に王子とマーカスと一緒にいるので、女子、しかもミフネ嬢と行動するのは驚きだ。俺ともクラスで位しか話さないというのに、接点が殆どないミフネ嬢と一緒に戻って沈黙の重さに潰されていなければいいのだが。

「なんで二人は先に戻ったの?」

「………それは聞くな、フタバ」

「え、なに、むしろ気になるんだけど。ニール、こっそり教えて?」

「今は駄目だ」

 アサヒが何かやらかしたのかと思い、じっと見つめてみるが心当たりがなさそうに首を傾げるだけである。一瞬の沈黙ののち、無言で王子が歩き始めたので俺たちも慌てて歩き出した。


 寮に戻ってからニールが教えてくれたのだが、複数人で空に祈る際、その人たちの中で最も一致している特徴が魔力に現れやすいらしい。

国を守りたい、という四人の魔力が今も国を守っている様に、研究熱心なアサヒとミフネ嬢だと新生物でも生まれかねないので止めたそうだ。そして、このことを伝えると確実に実行に移すので、箝口令が敷かれたのは言うまでもない。


次回更新は7月14日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。