3.再開のお茶会
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今回は少し長めになりました。
一月というのは早いもので、いよいよ今日が王族主催のお茶会の日と相成った。準備期間の間に様々なことを学んだ。
まず、年が明けてからは社交シーズンだということ。前世の記憶が戻ったのが年明けの十日前。年が明けると一歳年を取るのは昔の日本と同じである。つまり俺は、五歳だったので一つ歳を取って六歳になった。
「生まれた日が大晦日だったら、次の日には一歳になるのは良いんだろうか…」
と思ったのは置いておいて。年月という概念があると分かったので、年明けのタイミングで、自作のカレンダーを作っておいたのだ。曜日は分からないが、過ぎた日数分バツ印を書いている。
「えっと、今日は、二十日!」
バツの数を数える。直近の数個は大分歪んだ形だ。それも無理はない。それらは馬車の中で書いたから、揺れで歪んだのだ。
「やっとか…」
馬車に数日間揺られた理由は単純。王に年初めの挨拶をするためにこの時期は貴族が王都に集まるのに、俺も今回は同行したからだ。
ふたつめ、現在の第一王子について。第一王子は王妃様との間の初めての子供で現在は七歳、そして今回のお茶会で社交デビューとなる。
「七歳って、小学一年生くらいだよな。無理ではないか」
それに合わせて年の近い貴族の子女たちも社交デビューすることとなった。因みに実家、カドガン侯爵家は自分と父母と姉が直系なので、現在の跡取りである俺にお茶会回避の選択肢はない。
「そこそこ良い家の跡取りだから、仕方ないとは思うけど…」
面倒ではある。本来、正式なデビューは15歳過ぎからとは言われているが、年々早めに子供をデビューさせることが増えている。それも王子と面識を持たせるためだろう。
「恐らく、お茶会という名前の面接かな」
有力貴族がこぞって参加する中、第一王子とその二歳年下の第二王子の婚約者候補と側近候補選びが行われるのだろう。不穏分子だと見做されない程度に振舞おう。
「フタバ様、失礼します」
侍女がノックの後、部屋に入ってくる。手に持っているのは今日のお茶会のための新しい服だろう。貴族の常識的には催し物がある度に新しいものを仕立てるのだろうが、勿体ない気がしてしまう。
勿体ないということを絵本で読み聞かせられていた二十年近い記憶と今世五年の記憶の常識が戦っている。段々慣れるしかない。
「お召し物です」
「ありがとう」
ひっそりとため息を零し、されるがままに着替えていく。昨日の晩から侍女によるエステなどをフルコースで受けていた姉に比べたら、指定の服を着て髪を整えるだけで良いのでマシである。生まれ変わったら女の子になりたいなんて言ったことがなくて良かった。
あの後、馬車に揺られ王都の屋敷を後にして王宮に向かい始めた。なんでも王宮の中の王妃様が賜っている宮の中庭を使うらしい。簡潔に言うとすごい場所である。
「そろそろ到着しそうね」
自分は勿論、これまでに何度かお茶会に参加している姉も王宮に立ち入るのは初めてらしい。煌びやかな光景に、先ほどからうっとりとしたため息を零している。
「楽しみだわ…」
「そう、ですか?」
「フタバは緊張し過ぎよ」
会場では、受付に名乗ったのちに個別に案内された。親たちは大人同士でのあいさつなどもあるらしく、少し離れた場所にテーブルと軽食や飲み物が用意されていた。子供たちも年齢によって場所が違うらしく、姉は中心から少し離れた場所のテーブルに案内されていた。
「フタバ、私は行くけれど、粗相のないようにね」
「はい、姉上」
フタバは年の割に落ち着いているから大丈夫だと思うけれど、と姉は少し此方を見遣ってから案内役についていった。去り際にウインクも忘れずに。身内なので気にならないが、他の男性にウインクをするとはしたないのではないのだろうか。
「……ま、いいのかな」
まだ子供だし、と気にしないことにした。
自身が案内されたテーブルは中央にある王子たちのテーブルにも近く、座っている子供の年も五歳から八歳程度に見える。ただ、今まで家族と使用人以外関わったことがなかったため、他の貴族の見目華やかさに圧倒される。
「……煌びやかだ」
神の祝福を得ている貴族ほど美しい色の髪や瞳を持つとされているが、四大元素のうち地属性のカドガン家は髪や目の色も茶色が多いので地味である。赤、青、緑はそれぞれ火、水、風属性の家だろう。金色は王族と近い血筋の貴族のみが持つ色である。他の色は、自分と同じ黒色が一人と、白色が二人である。
「黒は兎も角、白は珍しいな」
一応その二人は隣のテーブルのため、同じテーブルに座った人に挨拶する前に他人の話題を口に出すのも微妙だと判断し小声で呟く。
白い髪の二人の男女は、どちらも紫色の目をしていた。血筋が近いのだろうか。男の子の方は大して周りも気にせずにテーブルの上のお菓子をつまんでいる。そろそろ各テーブルでの挨拶が始まるのに暢気なものである。
「さて、すべての参加者様がお揃いになったので、皆様どうぞ親睦を深めてください」
主催である王妃様の一言を皮切りにそれぞれのテーブルでの挨拶が始まる。俺のテーブルでも、緊張した声で赤い髪の女の子が挨拶を始めた。
「…です、よろしくおねがいします」
「此方こそ」
「よろしくお願いします」
今回は領地のある貴族しか参加していないため、伯爵家から順番に名乗っていく。伯爵といっても貧乏な伯爵から軍事力を持っている辺境伯まで幅はあるため、序列順に名乗る際に順番が乱れたりすることはないようだ。
「…男爵家の、……と申します」
「わたくしは…」
どうしても先ほどから白髪の子が気になるため、隣のテーブルにちらちらと目線を遣る。女の子は俯きがちな視線を必死に名乗っている相手に向けていた。
「なんとなく、似てるというか…」
白髪を低めの位置で二つに分けている髪型は、懐かしさを思い起こすものであった。幼馴染の旭を小さくして髪の毛を白く染めたような印象の子である。
そう思うと目が離せず、凝視していると視線に気づいたのか、その子の紫の瞳が此方をとらえていた。
「あ」
そう小さく声を出したのは彼女の方だろうか。咄嗟に向かおうとしたものの、まだテーブルでの自己紹介は終わっていない。やっと伯爵家の挨拶が終わったので簡潔に家名と名だけ伝える。
「…カドガン侯爵家、フタバと申します」
若干雑だったかもしれないが、そこまで変でもないだろう。今は時間が惜しいのだ。公爵以上はこのテーブルにいないので後は一人だけだ。気持ちが急いている。
「ランシー侯爵家のクインテットと申します」
と穏やかな声音の緑髪の女性で挨拶は終わり、用は済んだので足早にテーブルを立つ。最後に名乗ったランシー侯爵令嬢は焦っているのが伝わっていたらしい。
「すみません、少し外します」
というと、気にせずに席を外していいと声をかけてくれた。侯爵家は自分と彼女だけなので許可があれば問題はない。問題はないが空気は悪くなるかもしれないな、と思っていると、
「…丁度男性がいなくなりましたし、女の子だけでお話していましょうか」
と、俺がいなくなったからこそ、女性らしい会話を楽しもうと提案していた。気を遣ってくれたようだ。次に出会ったときにはお礼を言おうと心に誓った。
挨拶が終わったばかりの隣のテーブルに突撃し、白髪の女の子の前に立つ。近くで見ると顔立ちがよく見え、一層旭に似ていると感じた。
「カドガン侯爵家長男、フタバと申します」
本来ならば爵位が低いものから名乗るべきだが、男性が女性に声をかけるときはその限りではない。口説いているように思われる可能性はあるが、子供同士であるから問題にはならないし待つのは嫌だったので丁度いい。一礼して顔を起こすと、彼女は泣きそうな、縋るような目線を向けてきた。
「わ、私は、ホーソーン伯爵家長女、の、アサヒ、と申します」
途切れ途切れの名乗りで確信した。彼女は間違いなく旭だ。どうしてこの世界に転生したのかはわからないが、出会うことはできた。
前世を今この瞬間、または先ほど目が合ったときに思い出したのか、少しパニック気味に見える。安心していいと笑いかけると笑顔が返ってきた。
『言ったでしょ、何があっても、何回やり直しても、双葉と友達になるって』
そう言った昔の旭を思い出す。それなら、俺だって、と笑って見せる。
『大丈夫、俺が一緒だよ、旭』
次回の更新は6月8日17時予定です。