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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
アサヒ編
251/400

251.緊張の緩和

 結局、俺達はフィッシャー伯爵子息の関与が立証できないまま、武芸大会当日を迎えることになった。昨日今日と休日とはいえ、外泊許可は出なかったため、早朝に貴族院を出発することになる。

「……さっすがに、ねむい」

「駄目だよ、フタバ。そろそろ馬車が来ちゃう」

「起きろ」

 今は、馬車を待って門に揃っている。ユーリスは今日の午前中は宰相様の手伝いで本番を見るのは決勝戦だけになりそうだという。後から関係者用の場所に合流するそうだ。

「アサヒは来てないの?」

「今日使う剣の準備とかがあるって言ってたから、もうすぐ……」

「見えてきたな」

 そう言っていると、女子寮の方向からアサヒが少なくない量の荷物を抱えて走ってきた。本当に荷物を持っているのか疑いたくなるレベルの足の速さだ。

「……ごめん、おはよう」

「おはよう、アサヒ」

「あ、おはよー!」

「重たくないか?」

 ニールがアサヒの荷物を受け取った。剣の手入れ用品が入った鞄らしい。荷物を受け取ったニールが真顔だが、大分重たいようである。

「あ、丁度馬車来たね」

「先に荷物を載せた方がいいね」

「ごめんね……」

 荷物を持ったニールとアサヒが先に馬車に乗り込んでいく。アサヒは謝っているが、一番体力を温存していないといけないのだから、気にしないで良いと思うんだけど。すぐに謝るのは昔からの癖だから仕方がない。

「アサヒ、随分荷物が多いけど、何を持って行くの?」

「剣と、手入れ用品と、着替えとか、必要そうなもの」

 アサヒの持っている剣は、いつもの木剣でも、訓練用の刃を潰したものでもない。武芸大会では、お互いの安全のために貴族院で使うものと同じ決闘用の魔術道具を使う代わりに、真剣を用いて勝負するようだ。

「白銀の剣?」

「ホーソーン伯爵家の剣だよ。直系には一振りずつ作られるの」

 白銀の剣に、紺色の鞘が付いていて、鞘から見える柄の部分に紫色の宝石が輝いている。結構大きいが、普通の石では中々無い色だ。

「白銀の剣に紫色の宝石……、魔法石?」

「本人の瞳の色に合わせた石を嵌めて送るのが慣習だよ」

 サティが楽しそうに剣を眺めている。そう言えば、サティの趣味は銀製品を磨くことだっただろうか。手入れが大変そうだが、綺麗な剣である。

「魔法石が嵌っているってことは、魔術道具の効果はあるのか?」

「成人してから魔術道具にするから、まだ効果はないよ」

「……そうか」

 魔法石だといった瞬間、今度はニールが楽しそうに剣を眺め始めた。多分、魔術道具の効果を決めるときに呼んでくれ、とでも言いたいんだろう。

「会場ってどこだっけ?」

「王宮騎士団の訓練場を借りる予定だよ」

 つまり、距離はそこまで遠くないはずである。話し込んでいる間にも馬車はそれなりに進んでいるので、もうすぐ到着するだろう。

「……一つ、頼んでもいい?」

 会場が見えてきた、という所で、アサヒが小さな声で言う。俺達の顔を伺うようにしている。もしかして、本番前のルーティーンのあれだろうか。

「どうしたの?」

「……大丈夫って、言って」

 小さな声で言ったのは、簡単なお願い。だが、緊張している本人は真剣そのものの表情でのお願いである。丁度、馬車の動きがゆっくりになってきた。俺達は三人で顔を見合わせてから言った。

「「「大丈夫」」」

「……ありがとう」

 そう笑ったアサヒは、次の瞬間には鋭い眼差しで剣を力強く握り、開かれた扉の向こう側、会場を見つめていた。


 俺達は武芸大会の競技場のすぐ近く、国王陛下と王妃殿下や宰相様が座る席のすぐ隣に設置されている席である。

「特等席だよね……」

「アサヒは緊張するだろうけどね。俺達を見たら陛下たちも目に入るんだから」

 気を紛らわせようと仲間の顔を見たら、国の最高権力者たちも目に入ってしまうのだから。変に俺達の立場がいいものである弊害である。

「あ、一回戦始まるよ」

「北側同士の戦いだね」

 一回戦目は、北側の子爵家男子である。相手の武器は槍、ラング子爵令嬢で十分鍛錬は足りている筈だが、油断はできない。

「あ、ブローチ」

「見覚えのあるデザインだな」

 決闘をした時と同じブローチである。安全用のブローチは、共通のデザインが使用されているのかもしれない。効果のほどは折り紙付きなので、安心して武芸大会を行える。

「……相手の男子、年上?」

「対格差は結構あるね」

「あ、抜いた」

 アサヒは、剣の鞘からゆっくりと剣を抜いた。相手も槍の先端を覆っていたカバーを外し、お互いに武器を構え、向き合う。暫くの間、にらみ合いが続いた後、先に動いたのはアサヒの相手の人だった。

「うわ、早い」

「体格を活かした速度の突きだな」

「ちょっと怖い……」

 数歩引いてから、槍を真っ直ぐに構え、アサヒに向かって突き出す。が、アサヒは真っ直ぐに突き出された槍に対して横によけ、そのまま横一文字に剣を振りぬいた。

「!?」

「わっ」

「……魔術道具が発動したな」

 会場が一瞬光に包まれたかと思うと、競技場の外側に相手選手が移動していた。どうやら、一回戦はアサヒの勝利の様である。一拍置いたのち、歓声が響いた。


次回更新は2月11日17時予定です。

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