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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
サティ編
202/400

202.ニールの魔法

更新時間を間違えました。すみません

 ニールは、ざわめく周囲を気にした様子もなく、指で魔法陣を描いていく。その模様は、ナーサリーさんが俺達に寝転ぶように指示したものとよく似ていた。

「それなら、俺の術は使えるはずだ」

「ニール?」

 アサヒが驚いてニールのもう片側の腕を引くが、ニールはアサヒの方を一瞬振り返って不敵に笑っただけだった。

「大丈夫だ、フタバの所に帰らせる」

「でも、これって…」

 アサヒからすると、見たこともない魔法陣。しかし、この状況で使用する意味と先程の発言から予測はついているようだ。不安そうに立ち尽くしている。

「対象者、ニール・クローネ!今すぐ行動停止しなさい、それは規定違反です!」

 先に声を上げたのは女性の方だった。規定違反、という言葉から、やはりあの魔法陣は死者というか、魂に関与するようなものなのだろう。

「ニール!」

「サティ、まだ魔法解除してないから!」

「ならすぐに解除して!」

 隣のサティが焦ったように叫ぶが、俺の隠密魔法が解除されていないので声が届くことがない。サティは俺の服の襟元を掴んで揺らす。苦しいのでやめてほしい。

「わかった、けど、危ないからやめて!」

「早くしないと間に合わない!」

 身を乗り出したサティを宥めるように言うものの、サティにしては珍しい、険しい声で返され慌てて解除する。

「できた!」

「ニール!止まって!」

 魔法陣に光が集まっていき、全ての文字が輝きを放ったのとほぼ同時だった。サティは見物客たちを押し除け、中央付近に飛び出した。

「…サティ」

「お願い、やめて」

 ニールは、サティの声が聞こえた瞬間に動きを止めていた。いつでも発動できるのだろう、光り輝く魔法陣が宙に保たれている。

「だが…」

「使ったら、本当に帰れなくなる。方法はあるから」

 躊躇うニールに、サティは手首に巻き付いている紐を見せる。勿論、議長と女性には見えない角度で。

「…ナーサリーと、母様も、ノア様も待ってる」

「……わかった」

 サティの手首についている紐がナーサリーさんの魔力からできていることは感知できたようで、ニールが魔法陣から手を離した。

「記録なしの魂の次は乱入者か。今日はどうなっているんだ!」

「対象者の違反行為が中止されたので、結果良しと思いますが」

 ニールが動きを止めたことを確認してから、女性が手を翳すと魔法陣が消えた。ニールは目を見開き何かを言おうとしたが、やめた。

「……乱入者、サティ・ユースシス」

「何ですか、死者の国の議長様」

 完全に議長の意識はサティの方に向いているようなので、俺は再び隠密魔法を使って、今度は完全に姿を消してアサヒに近付く。

「評議の見物は自由だが、邪魔することは許されない」

「僕は違反行為を止めようとしただけで、評議を左右する発言や妨害する行動はしていません」

 議長に向かって堂々と言うサティを横目に見る。一応、他の人に見られないように気を付けながら後ろからアサヒの肩に手を置いた。

「……フタバ?」

 最初は驚いたように置いた手を掴まれたが、すぐに俺だとわかったようだ。ゆっくり手を離した。若干掴まれた跡ができているが、すぐに消えるだろう。

「サティと一緒に来たの?」

 肩を一度叩く。俺が姿を消しているときは、基本的に声も聞こえないのでイエスノークエスチョンで意思疎通を取ることにしているのだ。

「即刻この場所から退去し、後ろの違反者を引き渡してもらおうか」

「そこのお姉さんの発言からすると、ニールは違反者ではないはずでしょ?」

「そうですね。違反とされる行為は死者の国に来てからの死霊魔術の行使なので」

 ギリギリセーフのようだ。本当に行使した場合は、ニールは違反者として死者の国に拘束されてしまう可能性があったようだ。

「そもそも、ニールもアサヒも、死者たちが柘榴を食べさせたから此処に来てしまったんだ」

「柘榴…、柘榴の木が地上に?」

 女性が驚いたように言う。ヴィヴィア先生も言っていたが、今年の死者の日は規模が大きいらしい。それこそ、俺達も、死者の国の管理者たちも予想がつかないほどには。

「二人の体はまだ生きている。だから、魂さえこの国から出ることができれば、それでいい」

「成程、許可を求める、という事ですね」

 女性がサティに確認すると、サティは小さく頷いた。どうやって外に出るか、とずっと考えていたが、正式な手順で出国できるならその方がいい。

「ふん、言いたいことは理解した。だが、許可はできないな」

 これで、柘榴の木を向こうの落ち度として認めて貰って、穏便に外に出ることができれば、と思っていた。しかし、議長はあっさりと断った。

「どんな理由であれ、死者の国に訪れたのなら、既に死者だ」

「駄目か…、フタバ!作戦変更!」

「了解!」

 俺はアサヒの手を取り、隠密魔法をもう一度発動させる。評議場が再びどよめく。アサヒの姿は既に見えなくなっているのだろう。

「ケテグラウクス!」

「議長!」

 議長が叫ぶと、音もなく大きな梟が現れる。その、番人の大きな金の目は、確かに俺とアサヒを見据え、猛禽は低く唸った。

次回更新は12月24日17時予定です。

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