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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
幼少期編
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11.秘密の歓談

ユニークアクセスが合計100人を越えました。思ったより多くの人に見ていただけて幸いです。

これからも少しずつですが毎日更新していきたいと思います。

 先日、姉の婚約の際に婚約者アレックスが姉に対して行った完璧なる少女漫画対応により、俺の中に潜んでいた他人の恋路を見守りたい欲が表に現れるようになった。


 カッコよく言ったものの、ただ単に自重しなくなっただけともいう。姉とアレックスは頻繁に会える訳でもないので、普段は使用人たちの人間模様を観察している。

 だが、使用人たちは、当然主人の子供がいる前で無駄口を叩いたりなどしない。よく訓練されていて素晴らしいが、それでは俺が求めている心ときめく会話は生まれない。部屋の窓から庭にいる二人を眺めたりはできるが、それでは物足りない。

 どうにかして使用人たちの和やかな会話を聞くことができないだろうか、そう思った結果、使用人休憩室にどうにかして近づき、休憩中の会話を聞こうという発想になった。


「本当はアサヒの協力があれば楽なんだけど」

 前世での理系女子、旭は電子機器にも強かった。材料があれば録音機位作ってくれそうな気もするが、そもそも電気製品という概念はこの世界にないし、犯罪に巻き込むわけにもいかないのでやめる。頼み込めば俺が部屋にいると見せかけてくれる協力くらいしてくれるが、旭たちが訪問するとなると使用人総出で準備に追われるので本末転倒である。

「と、なると、普段部屋にいる時間がねらい目かな」

 普段は、授業などがないときは部屋で本を読んだりしていた。まだ文学は発達していないのか、殆どが建国史など歴史ものばかりであるが、それなりに面白い。恋愛小説があれば一番なのだが。それはさておき、本を読んでいる間は、使用人は呼ばないのでその間に休憩をとっているかもしれない。

「試してみるだけ、ね」

 さて、昼食の後が楽しみだ。


 できる限り足音を立てないように、石造りの廊下を歩く。何時もの皮靴だと音が響くので、ダンスの練習用の布靴に履き替えてある。父の書斎付近には執事と侍女が二人いるが、他の使用人たちは順次休憩をとっているようだ。部屋を出てから誰ともすれ違っていない。

「……で、………とは、どう……」

「それは、…………だって、……でしょう?」

 弾むような若い女性の声が耳に入る。女性用休憩室に近付いてきたのだ。どうせ話を聞くなら男より女のほうが恋愛の話をしている可能性が高い。

 休憩室の入り口まではあと五歩、さっき曲がってきた角までは十歩、反対側の曲がり角までは十三歩くらい。これ以上近付くのは危険だが、此処では話がよく聞こえない。

 中から聞こえる声は四つ、女性の使用人で今日見かけたのは八人。二人は父の書斎に、四人は休憩室の中、もう一人は姉の部屋にいる。最後の一人は休憩中のはずだが、休憩でどこか別の場所で食事を摂っているのか。

「ええい、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ」

 小声で覚悟を決め、そっと壁によりつつ扉に近付く。ひんやりとした壁の感覚が肩に伝わってきた。扉の真横、開き戸の蝶番が無い方ギリギリの所まで移動し、壁にもたれる。

 耳を壁につけると、会話がかなりはっきりと聞き取れるようになった。

「ねえ、シンディ、この前のデートはどうだったの?」

「あ、それ私も気になってたのよ」

「私たちに仕事代わって、って頼み込んだものね」

「その言葉を待ってたわ、ポーラ!聞いてちょうだい!」

 予想は大当たりであった。現在は女子会真っ最中、絶賛恋話タイムである。ちょっと壁に頭を打ち付けそうになったので一度離れる。心の中でガッツポーズを決め、深呼吸して呼吸を整えてから再び耳をつける。

「ジェイミーがおススメしてくれた湖の近くまで馬で行ったの」

「相乗りしたの?」

「勿論お弁当は手作りにしたんでしょ?」

「あら、ハンナ、その日はシンディが早朝に厨房独占してたわよ」

「そうそう、朝早くから隣の部屋から物音が聞こえてたわ」

 どんどん話を引き出そうとする女性の話術は巧みである。というか、デートのために朝早くから準備をする乙女はパワフルだ。

「本当は馬は別々に乗る予定だったんだけど、ポーラに聞いた技を使ったわ」

「あ、あの必殺技のこと?」

「そんな話、してたわね」

「「上目遣いでお願い」」

「それで、どう言って頼んだの?」

「『お弁当作ろうって、朝早くから張り切っちゃて少し眠いの。不安だから、一緒に乗りたいんだけど、ダメかしら?』」

 完璧である。自分のために張り切ってくれて、その上頼られて嬉しくない男なんていないだろう。その後、『しっかり掴まってろよ』展開が期待できる正解選択肢だ。

「やるじゃない!」

「策士ね!」

「それで断るなら男じゃないわ!」

「そんな男いたら殴る」

「「「「え?」」」」

 しまった。つい口が滑った。彼女たちにもしっかりと俺の声は聞こえてしまったようだ。訝しがる声と、椅子から立ち上がる音。ここから曲がり角まで走っても、多分ギリギリ間に合わない。今走り出したら確実に足音で気付かれる。

「誰かいるの?」

 足音が扉に近付いてくる。まずい、確実に見つかる。ここまで距離がないと移動したところで意味がない。できる限り存在感を消さないと、

『俺は壁、俺は壁、俺は壁、俺は壁………』

 両手を広げ背中側を壁につけ口パクで唱える。見つかったら即、磔にされる覚悟である。


ぎぃ、


 と重々しく扉があいた。声からしてシンディであろう彼女は、まず俺の反対側を見た。髪の毛は綺麗に全部後頭部にまとめてあり、清潔感がある。茶色い頭は少し止まり、段々と此方側に回転していく。

 まずい、と思い緑の瞳とかち合う直前、強く目を瞑った。

「あら?誰もいないみたい」

 どういうことだろうか。相手が相手なので見逃したのか。恐る恐る目を開けると、彼女は本当に困惑した顔をしていた。背が低くて気付かれなかったのだろうか。しかし、目が合いかけたということは、下のほうまで見ていると思うのだが。

 気の所為だったみたい、と部屋に戻り再び会話に花を咲かせる彼女たちの声を背に受けながら、なんとなく、もう話を聞く気がなくなったので、自室に戻ることにした。


 部屋に戻る途中、一人だけ所在が分からなかった侍女に見つかり、勝手に出歩いていたことを叱られた。今度は咄嗟に曲がり角に隠れたのに、何故だ。


次回更新は6月16日17時予定です。

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