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アンスール・カデンツィア  作者: 借屍還魂
幼少期編
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10.壁の覚醒

主人公がある意味覚醒します。

 姉・フローラと旭の兄・アレックスの婚約が正式決定した直後、ダンスの先生に連れられ、子供四人で小ホールに移動していた。


「ご婚約おめでとうございます。お二人でダンスを踊る機会も増えるでしょうから、練習しておきましょう」

 確かに、催し物の際にはまずは婚約者と踊るのが一般的である。二人とも正式に夜会などに招かれる機会も増えるだろう。女性は婚約者がいるならば、夜会に呼ばれる確率が格段に上がる。ダンスで息を合わせる練習も重要だろう。

「フタバ様も、違う人と踊るのは良い練習になりますからね」

 普段の練習では姉としか踊らないので、これから複数の人と踊るのならば姉以外の人との呼吸の合わせ方も心得ねばならないだろう。

 相手が旭ならば、小学校五年生の時にオクラホマミキサーを共に踊った相手なので他の人よりはハードルが低い気がする。

「フローラ嬢、俺と踊って頂けないだろうか」

「ええ、是非」

 アレックスが姉に手を差し出す。姉も手を重ねた。そういえば、13歳と6歳では当然女性といえど13歳の方が圧倒的に背が高い。そもそも女性のほうが成長期が来るのが早いのもある。アレックスは12歳の男子にしては背が高く、姉と殆ど同じくらいだった。お互い、同じくらいの身長なので今のペアの方が踊りやすそうだ。

「アサヒ、一曲踊ってくれませんか?」

「よろこんで」

 旭に手を差し出すと、当然のように重ねてきた。会話の流れで予測がついていたことと、一度踊ったことがあるというのは大きいだろう。


 先生の合図で最も簡単な基本のダンスを踊る。いつも自分より背が高い姉をリードしようと必死だったが、旭とはそんなに背が変わらないどころか、旭の方が少し低いのでターンの際も綺麗に回ってくれる。

 いつもとは違うけど、悪くないんじゃないかな。そう思って最大の見せ場で旭がターンしやすいように誘導する。誘導されていることに気付いた旭はにっこり笑って回った。自信たっぷりに今の綺麗だったでしょ、と紫の瞳が雄弁に語る。俺のおかげだろ、と返してやる。

「あ」

 姉たちの踊っているほうから、姉の焦るような声が聞こえた。先生の合図はないのでダンス自体は止まらず続けているが、自分は勿論、旭も隣の様子を横目で気にしている。

「いたっ」

 が、横目で見ようとしていたら旭の足を踏んだ。一気に目の前の顔が俯いていき、目が潤んでいく。慌ててごめんと口を動かすと、不機嫌そうに口をへの字に曲げて小さく頷いた。

「はい、そこまで」

 姉たちだけでなく此方の集中力も完全に切れたことが分かったのか、先生はダンスを止めた。改めて姉を見ると、右足の靴が脱げていた。曰く、アレックスの足を踏みそうになった時、咄嗟に避けようとした結果自分の靴が飛んでしまったそうだ。

「すまない、フローラ嬢。足を怪我してはいないか?」

「大丈夫です」

 アレックスがステップを間違えたことが原因だったらしく、気付いてすぐに止めようとしたが夜会などで予想外の出来事が起こる時の対処の練習として先生は止めなかった。

 アレックスは自分の所為だということもあって、ものすごく心配している。一方姉は先ほど急に婚約者となった相手との距離を測りかねているのか、随分とつっけんどんである。

「椅子まで移動しよう。ああ、そうだ」

「すみませんが、手を貸して、って、待ってください!」

 アレックスは、さも当然のように姉を抱えた。お姫様抱っこで。

「歩けます!」

「何か踏んだら大変だろう?」

「重いですから!」

「十分軽いぞ?」

「なんで、この抱え方なのですか!?」

「女性はこうやって丁寧に運ぶものだと教わった」

 驚いて固まる姉をよそに、アレックスは軽々と姉を持ち上げ、耳元で声を上げる姉に笑顔で返事を返していた。完璧な対応である。

次期辺境伯爵家当主として既に武術をしっかりと叩き込まれているアレックスからしたら、成人前の女性は持ち上げられるだろう。しかし、さわやかな笑顔で女性を気遣う発言は誰にでもできることではない。

あまりに爽やかすぎて、白銀の髪が光り輝いているように見え始めた。紫の瞳も宝石みたいに見える。表情からして、姉もときめいているだろう。顔が真っ赤だ。

「え、超身近なところで少女漫画始まっちゃった…?すごいときめくんだけど…、二人を見守る壁になりたい…」

 おっといけない、つい本音が口から出ていたようだ。幸い姉とアレックスと先生には聞こえていないようだ。折角今までいい子にしていた仮面が剥がれる所だった。

「フタバの悪い癖はじまっちゃった…」

 まあ、至近距離にいた旭にはしっかり聞こえていたようだ。旭は俺が少女漫画や恋愛小説、乙女ゲームなどの純愛を見守るのが好きなのは知っていたので今更取り繕う気はない。

 こんなにも王道な少女漫画的展開が目の前で繰り広げられているのに、無反応でいろというほうが無理な話である。

「ほら、足出して」

「自分で履けます!」

 アレックスは姉を椅子に座らせ、足元に跪いて靴を履かせようとしていた。流石にそこまでしなくていい、と姉は取り繕うこともせずに若干叫ぶように制止している。

「いいぞもっとやれ」

「兄様、天然だけど、乙女心は掴んでるのすごい…」

「仲睦まじい様子で何よりです」


 後日、実は親もこの状況を見ていたことを知り、姉が顔を真っ赤にしたのちに部屋に引き籠るのはまた別のお話。


次回更新は6月14日17時予定です。

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