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友達


 ヴィサは迷うことなく進んで、その店の前に来た。

店の扉付近に、「キャメロの仕立て屋」と書かれた板が置いてあって、ヴィサは扉を押し開いた。


「いってらっしゃいませ」


 そう言って出てきたのは優しそうな女性で、髪の毛はヴィサと同じ黒色だった。


「どんな服をお求めてで?紳士服?それともお嬢さんの服?」


 女性はにこにこ笑いながら話しかけてきた。


「俺はいい。この子のために何か服を選んでやってくれ」

「はい。わかりましたよ。ほら、お嬢さん」

「ヴィサ……」


 ヴィサに背中を押される形で、その人のところへ追いやられ、心細くなった。振り返ると、ヴィサが困ったような顔をしていた。


「お嬢さん。私はお嬢さんを傷つけたりしないよ。ただ寸法を測らせてもらいないかい?」

「寸法?」

「体のサイズのことさ」


 女性は服のポケットから長い布の切れ端を取り出す。

 

「ヴィサ……」

「アンネ。怖がることはない。俺はここで待ってるから、行ってこい」

「……うん」


 本当に待ってくれるか心配になったけど、私は女性の案内で部屋の奥へ進む。そこで、布の切れ端を肩、腕、胸や腰回りに当て長さを測っているみたいだった。

それから、いくつかの服を持ってきてもらって、着替えていく。


「うわあ、可愛い!」


 突然そんな声が聞こえて、私は飛び上がってしまった。


「こら、シルヴィ!ここには勝手に降りてくるなっていっただろう?」

「だって、外に物凄い綺麗な人がいるんだもの。どんなお客さんがきているか気になったのよ。お母さん」


 お母さん、この人の娘さんか?

 優しいふっくらとした顔がよく似ている。

 その子はじっと私を見ていて、物凄く恥ずかしくなる。


「ほらほら、シルヴィ。上に行きなさい。ごめんなさいね」

「お母さん、この子にはもっと色が薄い方が似合うと思うわ。私が取ってくるから」


 その子は女性の制止を振り切って、店の更に奥へ行ってしまった。


「ごめんなさいね。本当、気にしないでね。えっと……」

「アンネです」

「ああ、アンネちゃんね。私はキャメロ。そしてあの煩い子が私の娘のシルヴィだよ」

「ね、ね。これ着てみて。絶対に似合うから」


 紹介が終わったと思ったら、そのシルヴィが戻ってきて、淡い水色のワンピースを持っていた。

 とても綺麗な色で、似あうなんてとんでもなさそうだった。

 けれども是非是非と勧められたので、私は着てみる。


「やっぱり似合う。お母さんもそう思うでしょう?」

「そうだね。似合う。アンネちゃん、そとのお兄さんに見せてきたら?」

「お兄さん……」


 ヴィサのことか。

 兄妹だと思われてるんだ。全然似てないのに変なの。

 そう思ったけど、似合うと言われて嬉しかったので、私はヴィサに見せに行く。


「アンネ……」


 ヴィサは目を大きく見開いて驚いていた。


「おかしい?」

「おかしくはないが……」


 そう言ってモゴモゴ何も言わなくなったので、やっぱり似合わないんだなあと思った。その後も色々ヴィサに見せにいくんだけど、反応はいまいちで、どれも気に食わないのかなあと思っていたら、最後に全部買うってヴィサが言って驚いた。


「これ全部?こんなに?」

「いいだろう。一回買えば済むんだから」

「お客さん。一回で済まないよ。この子はまだ十三、十四、そこらだろう?これからまだ成長するからその度に買いにきてくださいね」

「そうですよ。綺麗なお兄さん」

「綺麗……。君はなんだ?」


 シルヴィがいつの間にかキャメロさんの後ろにいて、話に加わっていた。

 ヴィサは思いっきり顔を歪ませている。


「私はキャメロの看板娘よ。そして、このアンネの友達」

「と、友達?!」


 そんなこと聞いてないし、突然言われても。


「友達になったのか?」


 ヴィサにもそう聞かれて私は首を横に振る。


「酷い。アンネ。私は友達のつもりよ。これからも街にきたら遊びにきてよ。色々案内してあげるから」

「……まあ、知り合いくらいだと思えばいいんじゃないか?アンネ。どうせこれからもちょくちょく服を買いに来なければいけないらしいし」

「……うん」

「ふふ。お兄さん公認の知り合いね。よろしく。アンネ!」


 手を差しだされ、私は恐る恐るその手に触れる。

 するとぎゅっと握られて、シルヴィは笑った。


「いやいや。ごめんなさいね。うちの子が。その分、サービスしますからね」


 シルヴィの行動に呆気にとられたのか、しばらく黙っていたキャメロさんが服を包み始めた。


「アンネちゃん。下着も入れといたからね。サービスだよ」


 小声で耳打ちされ、恥ずかしくて赤くなってしまったけど、うれしかった。

 下着は本当に困っていて、こうやってちゃんとした下着を貰えるは本当に助かったからだ。

 シルヴィにまたきてねと何度も念を押されて、私とヴィサはキャメロさんの店を出る。


「色々収穫があったな」

「うん」

「あの娘はいい娘そうだ。友達になっても大丈夫だろう」

「いい娘?ヴィサはシルヴィが好きなの?」

「そういう意味じゃない。性格がよいって意味だ」

「ふうん。私もいい娘?」

「……ああ」

「今、間があったよ。考えた?私の性格が悪いの?」

「そんなことはない。少し考えなしだが……」

「考えなしって酷いよ。ヴィサ」


 空はすでに橙色に染まっていた。

 私は前をさっさと歩くヴィサについていこうと必死に歩調を合わせながら、文句を言った。


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