街の人たち
十四歳になった。
ヴィサは突然街に私を連れて行くと言い出した。
――そろそろ年頃だから友達がいてもいいだろうと。
ゴブちゃんはおとなしいけど、見た目がスケルトンなので連れて行けず、私とヴィサ二人で街に出かける。転移魔法で街の片隅に移動してそこから中心部に歩いていく。
「お前の服も何かいいものがあれば新しいものを買うといい」
私の服はなんというか、自分で作ったり、ヴィサのお古とか使いまわしていたものだった。別に服なんて興味ないと思っていたけど、街に出て考え方が一気に変わった。
「俺が傍にいると邪魔だろう。適当に見てきたらいい。支払いは後で俺がするから。魔法は使うなよ」
最後は小声で言われて、吐息がとてもくすぐったかった。
木陰の長椅子に腰かけるヴィサを振り返ってから、私は一人で出かけた。
「美味しそう……」
小さなお店がいい匂いのするお肉や、パンを売っていた。お金がないと買えないから、私は我慢して通り過ぎる。
でもやっぱり我慢ができないで立ち止まってしまった。
服はいいから、先に何か買ってもらおうかな。
そう決めると私はヴィサがいた場所に戻る。
「ヴィ、」
ヴィサが誰かと話していた。
大人の女性だ。胸がおっきくて綺麗な……。
「アンネ」
その場で動けなくなった私にヴィサが声をかけてくれた。
「どうした?」
彼は長椅子から立ち上がり、その女性を振り切って私の所へ来てくれる。
「食べたいものがあって……」
ヴィサの背中越しにその女性を見ると何か物凄く悔しそうな顔をしていて、怖くなって目を背けてしまった。
「じゃ、買いに行こう」
「えっと、あの」
「気にするな。行くぞ」
その女性の視線が刺さっている気がしたのだけど、ヴィサは私の手を取ると歩き出した。
「アンネが戻ってきて助かった」
「どうしたの?」
歩きながらヴィサはぼやく。
「ああいうちょっと食いつくような女は苦手だ。というか、もう充分」
「……そうなの?」
ヴィサのいう事はよくわからない。
だけど、あの女性が苦手みたいでほっとした。
「どれが欲しいんだ?」
食べ物のお店が集まっているところまできて、ヴィサが聞いてくれた。
「あの棒に刺さっているお肉が食べたい」
「ああ、あれか。俺も久々に食べたいな」
私たちは煙がたくさん出ているお店へ向かうと、そこでお肉を二本買った。
「これは羊の肉だ。ちょっと癖があるけどな」
ヴィサの手からお肉を貰うと噛り付く。
食べたことがないスパイスと肉汁が口の中に広がって、何か小躍りしたくなった。
「おいしいか?」
「うん」
結局、私が二本とも食べてしまって、また買いに戻ることになる。
その後も色々買って、私たちは長椅子に座って買ったものを食べる。
食べながら街を眺めていると、目に入るのは色鮮やかな可愛い服をきた女の子たちだ。その子たちは、私に冷たい目を向けて、ヴィサを見ると顔を赤らめていなくなってしまう。
「……変なの」
「アンネ。服を買おうか。一緒に行った方がその場で支払いもできるし、お前、買い方わからないだろう?」
「うん……」
やっぱり私の服がおかしいからかな。
ヴィサは気にするのかな?
ヴィサが選んでくれた服を着たら喜んでくれるのかな。
連れだって服を買うためにお店に行くまでに、何やら視線を感じた。あまり好意的じゃないみたいで、思わずヴィサの腕を強く掴んでしまった。
そうしたら苦笑されて頭をぽんぽんと撫でられた。もう小さな子供じゃないのにとちょっと頭に来たけど、なんだか少し安心した。