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アデルミラ


「死ぬのは許さない」

「私はヴィサを殺したくない!」


 日が落ちかけた崖の下で、ヴィサは真っ黒な目を私に向けた。口調は怒っている。でもその瞳は何を映しているのかわからなかった。


「なんでだ?俺は、あの時、お前の両親を見殺しにした。お前だけを助けた。俺の望みのために。仇を取りたいと思わないのか?」

「思わない。だって、ヴィサが私を救ってくれた。屋敷からも、あの院長の元からも!」

「それは、お前に俺を殺してほしいからだ。別にお前を助けたくて助けたわけじゃない。お前しか俺を殺せないからな」


 ヴィサは冷たくそう言って背を向ける。


「引き取ったのは失敗だったな。面倒だと思ったけど、今の方がよっぽど面倒くさい。ゴブリン。お前がアンネの面倒を見ろ。俺は十六歳になるまでどこかで待つ」

「ヴィサ!」


 ヴィサがいなくなってしまう。

 必死に追いかけて、その背中を掴もうとしたけど、ヴィサはもうそこにはいなかった。


「アンネ……」


 ゴブちゃんが岩陰から姿を見せた。


「ボクは何もいってないからね!本当に!」

「わかってる。でも、ヴィサはなーんもわかってない。ヴィサは私から離れられないんだから!」


 ヴィサがものすごく怒っているのはわかってる。

 だけど、ヴィサは私から離れられないんだから。


「あの、本当にやるの?」


 私は再度崖の上に来ていた。


「当然よ。もしヴィサが助けてくれなかったらそれで私は死ねるし。助けてくれたら、脅して一緒にまた住んでもらうから!」

「アンネ……。それはちょっと」

「ゴブちゃん、とめないで。だって、私は納得いかないもの!」


 ゴブちゃんの手を振りきって、私は崖から飛び降りた。

 

 いける!


 私はそう思った。


 これでヴィサを殺さずにすむ。


「まったく!!!」


 怒鳴り声と共に地面にぶつかる寸前にふわりと抱き留められた。



 「ヴィサ!」


  来てくれたんだ。

 死ねなかった悔しさよりも助けてくれた嬉しさが上回って、私はヴィサにしがみついた。

 



「今日は家に帰るぞ」


 ヴィサは眉をしかめ、唇を横一本線に結んで、私を荷物のように抱えるとゴブちゃんを呼んで、転移魔法を使った。

 家に到着すると、私をベッドに放り投げ、部屋を出て行く。


 怒ってる。物凄く。だけど仕方ない。だって、ヴィサは私を捨てようとしたもの。


 薄暗い部屋にどれくらいいたのかわからないけど、扉が開いて、ゴブちゃんが入ってきた。


「アンネ。夕食だよ。手を洗って」

「はーい」


 水瓶から水を梳くって手を洗うと、私は食卓に付いた。

 ヴィサが私を無視して、パンをちぎって食べ始めている。


「ヴィサ。ありがとう」


 お礼を言ってみたけど、ヴィサは無反応だ。

 今回はちょっとやりすぎたかもしれない。

 嫌われたかもしれない。

 いや、元から嫌われていた……。

 そう、ヴィサは初めから私が嫌いだった。

 そう……。


 私は持っていたスプーンをテーブルに置いた。

 結局、ヴィサは私が嫌いなんだ。

 構ってくれるのは、私が唯一彼を殺せる存在だから。


「ヴィサ。ごめんね」


 そう、変わらない。

 何も、彼は千年たっても変わらない。

 彼は私を嫌いなままだ。

 何を期待したのだろう。


 思い出してしまった。

 すべて。


「……アンネ?」


 ヴィサが驚いて私を見ていた。

 そう、そうよね。

 私は……あなたの……


「ヴィサ。あと三年。あなたの時間をちょうだい。そうしたらあなたの願いを叶えてあげるわ」

「……アデルミラ」

「覚えていてくれたの?ああ、そうね。もちろんよね。不老不死の呪いをかけられる原因を作ったのだから」

「アンネは?アンネはどこだ?」

「私はアンネよ。アンネだった。アデルミラとしての記憶を封印してアンネとして生まれ変わったの。そして、あなたを試した。あなたは私を助けてくれた。でも、それはすべてあなたの願望のため。馬鹿な私は、あなたに好かれたいと思ったわ。でも今生でもだめだったみたいね。安心して、あなたの願いはかなえて上げる。ちちが言ったように、アンネが十六歳になったら、あなたを呪いから解き放つわ」

「アンネ……アデルミラ……」


 ヴィサはとてもよくわからない表情をしていた。泣きそうな悲しそうな表情。それとも憐れんでいるのか。怒っている表情ばかりを見ていたから、なんだかとても新鮮だ。


「ヴィサ。あなたの三年を私にちょうだい。ただ一緒に過ごしてくれるだけでいいの。これまでアンネと過ごしていたように。それだけで……いいわ」


 ヴィサは私をしばらく見て何かを考えている様子だった。

 私は、神の子で莫大な魔力は持っているけど、神ではない。

 神すら人の中にある気持ちはわからないけれどもね。

 なので、彼が何を考えているか、さっぱりわからなかった。その真っ黒な瞳で何を思っているのか?怒り?それとも千年もたつのにあきらめが悪い女への哀れみ?


「わかった。だが、アンネとして傍にいること。アデルミラとしての君は今までのように封印してくれ」

「……わかったわ。いえ、わかった。ありがとう。ヴィサ」


 正直悲しかった。

 けれどもアデルミラとして私は、ヴィサを想いすぎる。

 だから封印するのは仕方ないと思う。


「ヴィサ。封印をお願いできる?」


 ただ私はそう願った。

 彼は小さく息を吐いた後頷き、私の頭に触れた。


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