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死にたがりの少女

 十三歳の誕生日が来た。

 私がヴィサを殺すまであと三年、三年しかない。

 ヴィサは新しい杖を買ってくれた。魔法はこの杖を介して使うことができる。この杖は武器としても使えるからと嬉しそうにヴィサは説明していたけど、私は全然嬉しくない。

 ヴィサはおかしい。

 どうして自分を殺すための武器を私に買い与えるのか、しかも笑って。

 どうしてそんなに死にたいのか、私にはわからない。


「あ~~。アンネ。なんで、こんな風に黒くなるんだ?俺は全く理解できない」


 真っ黒く焦がしたパンだったものを指して、ヴィサは頭を抱えた。


「本当……。ゴブリン。食事は頼むな。俺がいなくなったら、こいつが毎日何を食うのか心配だ」

「だったら……!」

「だったら?」


 言い返そうとしたけど、ヴィサに真っ黒な瞳を向けられ、口を噤む。

 黒い瞳は闇色で、何もかも呑みこもうとしているようで、怖かった。


「まあ、あと三年ある。三年の間にきっちり覚えろよな」


 固まってしまった私の頭をぽんぽんと軽く叩き、ヴィサはだめになったパンをバケツの中に入れた。


*


「ゴブちゃん、とめないで。私がいなくなれば、ヴィサはずっと生きてられるんだから」

「ボクはいやだ。アンネがいなくなるなんて!」

「だったら三年後に、私にヴィサを殺させるつもりなの?」

「それは……」

「大丈夫。心配しないで。痛くない方法で死ぬから」


 数日後、私はヴィサが出かけた隙に、家を出た。

 気配を消す方法を学んだので、それを使ってゆっくりと森を歩く。

 途中獣が襲ってきたけど、魔法を使って気づかれるのが嫌だったので、避けられるものは避けて、駄目な奴にはナイフを叩きこんでやった。

 ヴィサは本当に、本当に暇だったみたいで、魔法以外にも武術まで学んでいた。それで私にも色々教えてくれて、ナイフの使い方はゴブちゃんよりもうまい。

 ゴブちゃんは元ゴブリンで、そんなに強くない。

 ヴィサと会ったのも、他のゴブリンにいじめられている時だったみたいで、助けてもらってヴィサについていくことを決めたらしい。

 ヴィサは寿命のこともあって、一人で生きてきて、使い魔も何も傍においていなかった。ゴブちゃんが頼んでも使い魔どころが、傍に置くのも嫌がって、そのうち森に置いて行かれたらしい。

その森でゴブちゃんは頑張って生き残って、他のゴブリンよりも強くなった。そんなゴブちゃんの前に現れたヴィサは、もうゴブリンの集落にもどっても虐められることはないだろうと笑ったと言っていた。


 ヴィサらしいなあと思う。

 ゴブちゃんのことを思って、きっと森に置き去りにしたんだろうな。

 多分本当に危なくなったら助けるつもりだったんだろう。

 ゴブちゃんは結局、ゴブリンの集落に帰らず、ヴィサに付きまとって、命を落としかけた。

 ヴィサは時折、死のうと思うことがあるみたいで、今もそうだけどね。

 向かってきたキマイラに対して、ただ立ち止まり目を閉じた。

 ゴブちゃんはその前に出て、ライオン頭にヤギの体を持つキマイラの炎によって焼かれた。骨と化してるはずなのにゴブちゃんは執念で、ヴィサに使い魔にしてくれと頼んだらしい。それでスケルトンの使い魔になったってこと。

 ゴブちゃんのヴィサへの愛は凄いなあと思う。

 そういうとかなり照れていたけど。 

 だからこそ、私はヴィサを殺すわけにはいかないの。


 一番楽に死ねる方法を考えたらやっぱり、飛び降りかなあと思って、私はある場所を目指していた。

 それは、母と父が亡くなった場所。そして私が死ぬはずだった場所。

 暴走した馬車が崖から落ちた瞬間、やっぱり私を抱きしめたのはヴィサだった。彼が私を抱き、崖の下に降りたった。

 彼が私を助けたのは、無事に十六歳まで私が成長して、彼を殺すため。

 両親を見殺しにしたのは、私が彼に恨みを抱かせるため。


 ヴィサは私に何も話さない。話してくれたのは全部ゴブちゃんだ。

 あの時、ヴィサは私だけじゃなくて、両親も助けるべきだった?そして他の人は?不老不死で、魔法使いだと言っても彼ができることは限られている。

 だから、私は彼を恨んだりしていない。

 二度目のあの時も、私だけじゃなくて屋敷の者を助けるべきだった?

 襲ったのは屋敷の主――地主と呼ばれていた伯父さんの仕事仲間だった盗賊団。伯父さんはずっと盗賊団を使って金品を集め、それを売り払ったりして儲けていた。屋敷の使用人もそれを知っていて おこぼれを貰っていた連中。

 役人につかまりそうになって、おじさんは盗賊団を裏切った。だから彼らは復讐をした。

 同じ屋敷にいた私は彼らの同類だ。だけど、私だけが助かった。

 三度目だって、私が孤児院から姿を消した後、あの院長は子供たちに手を出し続けた。魔法が使えるようになって、私はやっと院長を懲らしめた。

 本当だったら、もっと早くやるべきだった。


 ヴィサは私を何度も助けてくれた。

 私だけを。

 成長した私が無事に彼を殺すために。


 三度目の事件で彼は面倒になって、私を引き取ることを決めたみたいだけど。


 人生において偶然なんて、そう簡単にないと思う。

 私はきっと、死ぬ運命なんだろう。

 それをヴィサが何度も曲げてきた。


 私は死ぬ運命で、ヴィサは生きていく運命。

 それが神の定めた運命だと思っている。

 私がヴィサを殺す娘だと神が告げだと言ってたけど、きっと神は「私が死ぬ」ことを知っていて、そんなことを彼に伝えたのだと思う。


「……これで終わり。私は運命の通り、死ぬ」


 初めの運命。

 この崖から落ちて死ぬ運命だった。


 「ヴィサ。ありがとう」


 私を拾ってくれて。助けてくれて。

 でも私はあなたを殺したくない。


 目を閉じて、崖から飛び降りる。

 だけど、風を感じたのは一瞬で、すぐに私は誰かに抱かれていることに気が付いた。

 誰か、じゃない。


「ヴィサ……」


 悔しく泣きそうになった。


「重い。重すぎる。あの時はあんなに軽かったのに」


 ヴィサは顔を歪めてそう言って、私を地面に降ろした。


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