使い魔
――俺は不老不死の魔法使いだ。千年生きてきたけど、生きるのが面倒になったので、殺してほしい。お前なら俺を殺せるらしいからな。だから十六歳まで養ってやる。十六歳になったら俺を殺せ。
ヴィサは私を孤児院から連れ出したその日に、そう告げた。
馬車の転落事故から救出してくれたことや、あのお屋敷での食事や入浴、強盗から助けてくれたことも全部、このヴィサがやってくれていたらしい。
正確にいうならば、ヴィサとその使い魔のゴブちゃんだけど。
ゴブちゃんは元はゴブリンで、ゴブリンとして死にかけたんだけど、スケルトンになって、ヴィサの使い魔になった不思議な存在。
ヴィサはゴブリンって呼んでるだけど、それじゃ個性がないので、私はゴブちゃんって呼んでいる。
このゴブちゃんが、ヴィサのことや、これまで彼やゴブちゃんが私にしてくれたことを教えてくれた。
「ヴィサさん、ありがとうございます」
真相を知って私はヴィサにお礼を言ったら、物凄い嫌そうな顔をされた。しかも「さん」付けで呼ぶなって言われたので、ヴィサと呼んでいる。
ヴィサは、私が十六歳になってちゃんと彼を殺せるようにと、せっせと魔法を教えてくれる。あと、読み書きとかそのほかも……。かなり面倒見がいいと思うんだけど、それを言うといつも嫌な顔をされる。
一年、一年と誕生日が来るたび、私は物凄く嫌な気持ちになっている。
それはゴブちゃんも同じ気持ちなんだけど、ヴィサは嬉しそうだ。
だって、ヴィサは私に殺されるために私を養っているんだもん。
「ねぇ。ヴィサ。どうして十六歳なの?」
「ああ、俺を呪った神がそう言ったからだ。十六歳まで待たないといけないらしい。面倒くさいよな。アンネもそう思うだろう?」
逆にそう質問されて、私は黙ってしまった。
年齢が関係ないんだったら、よぼよぼのおばあちゃんになってからにしたかったからだ。
ヴィサを殺して、私も死ぬ。
そう、それが私はしたかったんだ。
だけど、私の願いは絶対にかなわないらしい。
「お前が俺を殺したら、今度はお前が不老不死になる。このゴブリンはお前に譲渡するつもりだ。お前が生きている限り、こいつも死なない。気に入っているみたいだから寂しくないだろう」
ヴィサは笑いながらそう言う。私は頭にきたので思いっきり足を踏んづけた。
けど、彼はその理由がわからないみたいで、怒られた。
ヴィサは千年も生きてる癖に人の気持ちに疎い。
なんでわからないんだろう。
ヴィサがいなくなったら、私はさびしくてたまらないというのに。
――ヴィサを殺したくない。だから私が死にたい。
そういうと、ヴィサは物凄く怒って部屋に私を閉じ込めた。
十歳になっていた私は魔法を使って抜け出そうとしたり、自害しようとしたりしたけど、部屋に特別な魔法がかかっていて全然魔法が使えなかった。
生理現象に勝てなくて、私はとうとう負けを認めた。
それから私は、死にたいなんて言ったことはない。
でもいつも思っていることだけど。
ヴィサは千年間暇を持て余して、魔法を研究していたみたいけど、心を読むなんて魔法はなかったみたいで、本当によかった。
あ、でも読んでもらったらよかったのかな。
私は、こんなにヴィサが好きで、殺したくないってわかってもらうために。