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十六歳


「朝食を食べようよ!このパン、アンネが焼いたんだよ。美味しそうで、僕は食べられないのが悔しいよ」


 何を話していいかわからない私、黙っているヴィサの腕を引いてゴブちゃんは彼を食卓のテーブルに付けた。


「あ、その前に手を洗ってね」

「ああ」


 ぎこちないけど返事をして、ヴィサは手を洗いに行く。


 こうして会うのは一年半ぶりかもしれない。

 戻ってきたヴィサはもさもさとパンを食べ始めた。

 

「……おいしい?」

 

 黙っているので思わず聞いてしまったら、彼が顔を上げる。


「ああ」


 ぶっきらぼうな返事。

 それが逆に嬉しかった。


「……ヴィサ。話がしたい」


 だから思わずそう言ってしまったのだけど、彼は答えなかった。

 パンを食べきってスープを飲んでから、彼はやっと答えをくれる。


「話すことはない。あなたの好きな方法で俺を殺すといい」


 真っ黒は瞳。

 それは前のアデルミラの瞳と同じ。

 彼はただその黒い瞳を私に向ける。


「……謝りたいの。本当にごめんなさい。あなたに呪いをかけることになってしまって」

「謝る必要はない。この千年で学ぶことは多かった。おかげで最強の魔法使いになれた」


 ヴィサは口元を緩める。

 だけど、私は知ってる。

 ちちの隣でみていたもの。あなたの苦しみを。

 だけど、もう謝罪は許されないとわかっているから、私は言葉を飲み込む。

 彼が望むのは死、だけ。


「ゴブちゃん。私はヴィサを殺すことになるわ。あなたはどうする?」


 ヴィサの気持ちがはっきりした今、ゴブちゃんがやはりヴィサと共に消えたいと思うのであれば、その願いを叶えようと思った。

 私に譲渡されず、ヴィサの使い魔のままであえば主が死ねば彼の存在も消える。


「僕は……。ねぇ。マスター。僕にどうしてほしい?アンネについていてほしい?」

「ゴブリン……。どうして俺に聞くんだ。アンネはお前に聞いている」

「僕は、マスターの意志を知りたいんだ。マスターはアンネが心配だから、僕をアンネの傍に置きたいんだよね?それは……」

「ゴブリン。余計なことを話すな。お前が俺と共に消えるかどうかは自分で決めろ。俺は知らない」

「ヴィサ?」


 どうしたの?

 なんで怒っているの?

 ヴィサはアンネが心配なの?アンネのことを思っているの?

 それはアンネが妹みたいだから……?今は?


「マスターの馬鹿!ふん」


 ゴブちゃんにしては珍しく、なぜか怒ってしまって、そのまま扉を開けて出て行ってしまった。


「ゴブちゃん!」

「ゴブリン!」


 私たちは同時に立ち上がって扉の付近でぶつかってしまう。


「ごめん」

「ごめんなさい」


 彼の鎖骨あたりに頭をぶつけてしまい、私はおでこをさする。

 見上げると彼は目を細めて私を眺めていた。


「背が伸びたんだな」

「だって十六歳だもの」


 彼に初めて助けてもらったのは三歳の時。

 次は五歳。

 そして八歳の時。

 この家に来た時は彼の腰辺りまでしか背の高さがなかった。


「……アンネのままでいたかった」


 アデルミラの記憶なんて思い出さず、彼の「妹」として過ごしていたかった。

 

「アンネ……」


 彼の手が私の頭に触れそうになったけど、その手を引っ込めた。


「ゴブリンを探そう。まずはそれからだ」

「うん」


 「兄」として笑いかけられ、私はただ頷いた。

 




「ゴブちゃん!」

「ゴブリン」


 ぐるりと見渡したが、ゴブちゃんの姿はなかった。

 気配すら感じられず、私はヴィサと顔を見合わるしかない。


「ゴブちゃん、気配を消したりできないはずなんだけど」

「そうだな。そういう芸当はできないはずだ。手分けして探そう。俺は右側を、アンネは左側を頼む」

「うん」


 魔物はほとんどいない森のはずなんだけど、私はいつでも魔法を放てるように注意しながら進む。振り返ってもヴィサが見えない距離まで来て少しだけ心細くなった。


「アンネったら」

 

 心細いと思うのはアンネだ。

 アデルミラなら、魔物など恐れない。

 そう言い聞かせて、足を進めた。


「おかしい。まったくゴブちゃんの気配がしない。どうしたの?」


 ゴブちゃんが家を飛び出してからそんなに時間は立っていないはずだった。森に逃げ込んだとしても気配は感じられるはず。

 けれどもおかしいくらいにゴブちゃんの気配がしなかった。


「これは何かに襲われたって思ったほうが……」


 嫌な予感が覚えるがその可能性しかなかった。


「アンネ!」


 声と共に風が巻き起こる。

 現れたのはヴィサで、その手に何か持っていた。


「……誘拐?」

「一応違うようだが……」


 ヴィサが持っていたのは手紙で、そこにはゴブちゃんを預かっているから私とヴィサに迎えに来てほしいと書かれていた。


「パーシーって誰?」

「先生だ。アンネ。お前、名前も知らなかったのか?」

「うん。先生って呼んでたし。というか、私たちを欺くって先生って相当な魔法使いだったの?」

「どうだろうな」


 ヴィサは何かを知っていたようだが、とりあえず私たちは指定の場所へ向かうことにした。


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