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ヴィサのいない家


「ゴブちゃん。おはよう」


 眠れなかった私は、パンを焼いた。すぐにゴブちゃんが起きてきて、私は早めの朝食を取る。


「ヴィサがいるところわかる?」


 ゴブちゃんは何も食べないのだけど、私の朝食に付き合ってくれていた。そう聞くと、ゴブちゃんは横に首を振った。

 あまりにも勢いよく振るので、頭の部分が取れないかと心配したくらいだ。


「十六歳まで待ってられないわ。一緒に探しにいかない?」

「でも僕は……」


「フードを被れば大丈夫よ。ゴブちゃんだけずっと家でお留守番も退屈でしょ」


 ヴィサがいなくなって数か月もたつ。

 ゴブちゃんは何も言わないけど寂しい気持ちを抱えているはずだった。

 それならば、と私は提案した。


 いざっていうときは転移魔法を使って逃げればいい。

 私の中のアンネが臆病なアルデミラを後押ししてくれて、行動を起こすことに決めた。


 この家を拠点に、私はゴブちゃんの話を聞いて、いろいろな場所に飛んだ。ゴブちゃんのフードが風に吹かれてとれて、大騒ぎになったりしたけど、私とゴブちゃんはヴィサを探し続けた。


「……僕が思い当たる場所はもうないよ。アンネは?……その……前に住んでいた場所とか……」


 ゴブちゃんは窺うように、もごもごと言う。

 こういうところ、本当心優しいと思う。

 だからヴィサはゴブちゃんを傍に置いたんだろうな。

 アンネとは大きな違い。

 そしてアデルミラとも。


「ゴブちゃんが女の子だったら、もう嫉妬でどうにかなっていたかもしれないわ」

「アンネ?!」

「本気よ。本当、馬鹿よね。千年。千年よ」


 重すぎる想い。

 でもアンネのままだったら、私はヴィサを殺せなかったから、記憶を取り戻してよかったかもしれない。

 私は彼の千年の時を終わらせなければならないから。

 そして私がその呪いを継ぐの。


「ゴブちゃん。ヴィサの時は私が終わらせる。……ゴブちゃんも一緒に眠りたい?」

「……ううん。僕はアンネの傍にいるよ。それがマスターの願いでもあるから」

「ヴィサね。今はわからないわよ。私は記憶を取り戻したから、パンもちゃんと焼けるし」

「そうだね。だから聞いてみようよ」


 千年前、彼が私に背を向けた街。

 彼の故郷。

 ずっと後回しにしていたけど、私はゴブちゃんを連れてそこに行くことにした。


「……え?」


 街はすっかりなくなっていた。

 唯その残骸が残っていた。

 人が長く住まない街、建物が辛うじて残っているのが不思議だった。


「いるわけないだろうけど」


 ヴィサの住んでいた家を目指して私はゴブちゃんと一緒に歩いた。

  

「ヴィサ!」


 廃墟のはずなのに、そこだけ空気が違うみたいだった。

 私は走りだして、ゴブちゃんが必死に追ってきた。


「逃げたわね」


 そこは新しく補強された家が建っていた。

 煙突から煙が出ていて、人が生活をしていることを表している。


「ヴィサ!ヴィサ!」

「マスター!」


 私もゴブちゃんも呼んでみたけど、反応はまったくなかった。


「アンネ……」

「大丈夫よ」


 会いたくないという気持ちを見せつけられ、胸がつぶれそうに痛かった。

 ゴブちゃんに手を握られ、思わず握り返してしまう。


「……家に戻ろう。アンネの十六歳の誕生日には彼は戻ってくるのだから」

「うん」


 意識を研ぎ澄ませば、彼の気配を感じたかもしれない。

 けれども拒絶されている事実がそれをさせなかった。




 そうして一年が経ち、アンネの誕生日がやってきた。

 朝食を食べていると扉が叩かれる。


「お帰り。マスター」


 ゴブちゃんが扉を開け、何を考えているかわからない無表情のヴィサが立っていた。


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