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アデルミラの記憶2


 アデルミラの記憶を思い出してから、ヴィサが封印を解いてから、彼はここに戻って来なかった。

庭も、なにもかも、おかしいくらい類似していた。

 アデルミラの家に……。

 何のつもりでこのような家を作ったのか、贖罪のつもりなのか。

 でも千年もちちは彼を罰し続けた。

 贖罪はそれで充分すぎるほど……彼は死を欲していた。それなのに、ちちは彼の呪いを解かなかった。

 もういいの。

 彼を許してあげて。

 私が馬鹿な思いを抱いたせいだから……。


 ちちに懇願しても、呪いは解いてくれなかった。


 なので、私は考えた。


「父上。私に彼を殺させてください。千年もの彼の生を私が終わらせたい。私の手で」


 ちちは賛同してくれて、私はアンネとして生まれ変わった。



「アンネ?」


 ゴブちゃんに声を掛けられ、私は顔を上げる。

 手に持っていたのは所謂魔法の書だ。ヴィサが汚い字で書きなぐったもので、私じゃなければ解読できないものだ。

 彼は普通の魔法使いだった。けれども時は彼に学ぶ時間を与え、彼はこの世界では最強の魔法使いになっていた。千年もの時が経ち、魔法自体廃れていく世界で彼は異質な存在で、こうして森で隠居のような生活をしているのも頷ける。


「もう寝たほうがいいじゃない?」


 ゴブちゃんに言われ、私はすっかり夜が更けていることに気が付いた。

 スケルトンなのに睡眠をとる変わったゴブちゃんは、見せつけるように欠伸をする。



「うん。そうする。おやすみ。ゴブちゃん」

「おやすみ。アンネ」


 ゴブちゃんは私が前世の記憶を持っていることに知っていても、それまでと同じように接してくれる。それはとてもありがたくて、アデルミラの想いに引きずられそうになる私を止めてくれる。 

 リビングルームから自室へ戻り、ベッドに横になった。

 また夢を見るのかと思うと、憂鬱になる。

 アデルミラの思い出を夢にみる。

 彼女の重くて、とても報われない可哀そうな……。

 私はアデルミラなのだけど、アンネでもあって、少しだけ彼女の想いを冷静に受け取れた。だから、ヴィサの気持ちがわかるような気がした。


「ごめんなさい。ヴィサ」


 これは寝る前の呪文のようなもの。

 アデルミラの想いによって呪いをかけられたヴィサへの謝罪の言葉だ。



「アンネ。風の魔法を見せて」


 森の中でひっそり暮らしていた私の生活は、あの日から一変した。

 ヴィサに友達を紹介されて、私はヴィサ以外の人と話すことも多くなった。

 このテオドルもそうだ。

 茶色の髪に青い瞳。

 彼も魔法使いで、ヴィサから話を聞いて私に魔法の話をせがんでくる。

 色々な魔法を見せると、彼は喜んでくれた。

 それは嬉しいけど、ヴィサが初めて私の魔法を見た時に見せた笑顔が一番だ。街に来るようになって、私はヴィサの周りに男の人以外にも女性がたくさんいることに気が付いた。

 綺麗な色のドレスを身に着けた子たち。

 そんな子じゃなくて、私を見てほしくて、私も彼女たちを真似た。

 綺麗な服を着て、彼に話しかける。

 最初は綺麗とか言ってくれたのに、ヴィサは冷たくなった。


「ヴィサ!どうして?」

「アデルミラ。なんでそんなに変わったしまったんだ?俺のせいか?」


 二人きりだと言い争うことも多くなり、ヴィサは森の家に来てくれることもなくなった。

 私はどうしても彼に会いたくて、街に出かける。

 だけど、彼から話しかけてくることはなかった。


「アデルミラ。ヴィサのことなんて諦めなよ」


 テオドルは会う度にそう言うけれども私は諦めきれなかった。


 そうしてある日、私はヴィサが金髪碧眼の可愛らしい女性に口づけをしているのを見てしまった。

 その人は私に気が付き、ヴィサも振り返る。

 けれどもそれだけだった。


 ヴィサはその人の肩を抱くと行ってしまった。


「……アデルミラ」


 テオドルから声を掛けられたけど、無視して走り出す。

 そして、森に駆け込むと転移魔法を使った。


 混乱していた私はおかしな場所に転移していた。

 森は森でも私の住んでいる森とは大きく違う、暗くてじめじめした森。まるで私の気持ちを代弁しているような森で、笑い転げたくなった。

 惨めな、自分。

 彼に好かれようとした醜い私。

 こんな私、彼が好きになるはずはないのに。

 彼が私に優しかったのは、この魔力のせい。

 

「……魔物?」


 おかしな気配がして振り返ると、そこには大きな蜥蜴がいた。小さく開いた口からは煙が立ち昇っており、体を覆うのも屈強な銀色の鱗だ。


「サラマンダー……。魔物の森なのね」


 火を放つ蜥蜴、その目はヴィサによく似た、とても綺麗な琥珀色をしていた。


「私を焼き尽くしたいの?邪魔?」


 サラマンダーは距離を詰めるように、ゆっくりと私に近づく。

 不思議と恐怖心などそこにはなかった。


「炎で一気に焼いてくれる?それなら殺されてもいいわ。このまま生きていても仕方ないもの」


 ――アルデミラ!


ちちよ。私の願いを聞いて。邪魔をしないで。さあ、サラマンダー。焼いて、私のすべてがなくなるまで」


 ちちの嘆きを聞きながら、私はゆっくりと目を閉じた。


 全てを焼き尽くしてほしかったのに、魂だけはちちに救済された。何度も消滅を願ったのに、父は聞いてくれず、しかもヴィサに呪いをかけた。

 ヴィサの美しい銀色の髪は漆黒に染まり、その琥珀の瞳は闇に浸食され、彼は不老不死を得た。


「ヴィサ。ごめんなさい」

 

 その声は私の口からは発せられ、夢から覚めたことを悟る。

 部屋の中はまだ真っ暗で、夜の鳥の鳴き声が耳に届く。


「千年の時も……。あなたは私を憎んでいるでしょう。身勝手に死んでしまって、その身に呪いをかけた」


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