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テオドル

「アンネ。少し聞きたいことがあるのだけど」


 数日後、私は先生に呼び止められた。 


「先生。私も一緒でいいですか?」

「邪魔しちゃ悪いだろう」


 心配そうなシルヴィが私より先にそう口を出したけど、マイクが加わり結局二人は先に帰った。

 そういえばヴィサが気をつけろって言っていたけど、大丈夫なのかな?

 部屋で二人っきりになり、私は先生を見上げる。


「ヴィサさんに何か言われましたか?」


 うんと頷きそうになり、慌てて姿勢を正す。

 でもバレたみたいで苦笑された。


「心配症ですね。君と踊っている時もそうでしたし。あの人とは違う人なのかな」

「先生?」


 あの人?何を言っているのだろう?


「ああ。すみません。こちらの話です。さて、少しヴィサさんについて聞いてもいいですか?」


 そうして先生がいくつか私に質問してきた。

 全部ヴィサについてだった。


「これも秘密なんですね」


 先生はにこやかに笑ったけど、私は嘘をついている罪悪感で胸がいっぱいだった。 

 だって先生の質問は、魔法が使えますかとか、 どこに住んでいるとか、そんな質問ばっかりだもの。そして本当の兄妹ではないというもののあって、とても答えにくいものばかりだった。


 先生はヴィサが魔法使いだと知っているかもしれない。

 だからこんな質問ばかり……。


「先生は魔法に興味があるのですか?」

「ええ。とても」


 先生が目を輝かせて、私はちょっと自分の魔法を見せたくなった。けど、そんなことしたら絶対にヴィサに怒られるから、しちゃいけない。


「ヴィサさんについてはこんなものですね。じゃあ、アンネについていいですか?」

「私ですか?」


 何かまたびっくりするような質問をされると思って身構える。

 けれども質問がされることはなかった。


「あ、ヴィサさん」


 部屋にヴィサが現れたからだ。


「遅いと思ったら……」

「ごめんなさい」

「ヴィサさん、私が悪いのですよ。色々あなたについて聞きたいことがあってアンネの時間を貸してもらいました」

「俺について?」

「ええ」


 ヴィサは物凄い威圧的に先生を見るのだけど、先生は笑顔のままだった。


「ヴィサさん。あなたはテオドルという魔法使いを知ってますか?」

「……知らないな」


 答えるまで少し間があって、私は思わずヴィサを見てしまった。

 

「千年前に存在した魔法使いで、私の先祖なのです」


 先生はヴィサの鋭い視線に怯えることもなく、淡々と続ける。

 先生の先祖が魔法使い?

 千年前っていう言葉にヴィサは反応していた。少しだけど、きっと先生も気が付いたに違いない。


「テオドルは本に色々書き留めています。千年前にある女性を死に追いやり、神より不老不死の呪いを受けた魔法使いのことやら」


 不老不死、魔法使い……。

 それってヴィサだよね?

 ある女性を死に追いやる?どういうこと?


「興味深い話だが、俺には関係ないようだ。先生、アンネが世話になったな。連れて帰る」


 ヴィサは私に近づくと、手を引いて部屋を出て行く。

 気になって振り返ると先生はずっと笑顔のままで、ヴィサを見ていた。

 

 

 *


「アンネ。ほかにどんな話を聞いた?」


 街の中で転移魔法を使うことはできないので、私たちはできるだけ人気の少ない場所を探して歩く。街はずれの森が一番適しているので、目的はそこだ。

 早足で進むヴィサに遅れないようにしていたら、いつの間には小走りになっていて、森まで着たら息が切れていた。


「話は……聞いてない。ただ、おかしな質問をされた……だけ」


 私が息を乱しながら答え、ヴィサはやっと己の歩く速度に気が付いたようだった。


「悪いな。少し息を整えろ」


 ヴィサが立ち止まり、私はやっと足を止めて、深呼吸する。


「頭痛などしないか?あとは……」

「別に……」


 息は上がっていたけど、頭痛はしなかった。


「そうか」

 

 それを聞くとヴィサは安心して笑ったが、すぐに怒った。


「俺は奴に気をつけろっていったよな。それなのに」

「ごめんなさい」


 謝ると逆にヴィサが勢いを失う。

 おかしい。どうしたのヴィサ……。

 というか、あの先生が話した魔法使いってヴィサのことだよね。

 不老不死になったのは神の呪いのせい?そういえば私が十六歳になればヴィサを殺せるって伝えたのも神って言っていたっけ。


「アンネ。聞きたいか?それとも、この馬鹿げた芝居を辞めるか?」

「芝居?どういうこと?」


 何を言っているの?ヴィサは。


「約束はあと一年と少しだ。けれども、俺は調子を狂わされている。これなら……」

「ヴィサ?どうしたの?何を言っているの?」

「悪いな。アンネ。俺が限界だ。こんな風になる自分が愚かで嫌になる」


 アンネが聞いた言葉はそれが最後だった。

 初めてみるヴィサの表情、泣きそうな顔をした彼が私の頭に触れる。

 そして私は意識を失った。

 


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