お年頃
「先生、ごめんなさい」
踊りはやっぱり難しくて何度も先生の足を踏んだり、転びそうになったりと大変だった。
でも何曲か踊ってるうちにコツを掴んできて、踊れるようになってきた。
「アンネ。そろそろ休憩しましょう。ほら、ヴィサさんも見てますよ」
「ヴィサ?!」
先生に囁かれて、振り向くとそこには唇を横線に結んで、眉をひそめているヴィサの姿が見えた。
「先生、ありがとう」
お礼を言って、ヴィサのところへ走る。
私が見えているはず、というか見ていたはずなのに、ヴィサは背を向けて、私は必死で追いつくとその腕を捕まえる。
「ヴィサ、待って!」
「……楽しそうだったな」
「うん。踊りを教えてもらったんだ。ちゃんと踊れるようになったから来年はヴィサと踊れそうだよ」
「そういうことか……」
ヴィサはなぜか背中越しに先生を見ていて顔を顰めた。
「何か食べるか?」
バツが悪そうに私を見てから、突然そんなことを聞いてくる。
お腹もすいていたし、屋台でお肉と買ってもらった。
初めてこの街に来た時に買ってもらった奴だ。
「おいしい」
「ああ」
ヴィサもこの肉は好きだったはずなのに、何か考え事をしているようにぼんやりとしている。
「ヴィサ、踊ろうよ」
「はあ?」
「来年も踊ってくれるって保証してくれたけど、今年も踊りたいもん。楽しいから」
「……仕方ないな」
断れると思ったのに、ヴィサは私に手を差しだす。
その仕草にかなりドキドキしたけど、私は素知らぬ顔をしてその手を取った。
ヴィサは踊りがめちゃくちゃうまくて、妙に注目を浴びてしまうくらいだった。
それに彼も気づいたみたいで、私たちは逃げるように祭りを後にした。
シルヴィにも皆にも、先生にもちゃんと別れの挨拶もできなかったけど、まあ、次に会う時が出いいやと思った。
踊っている間、ヴィサはまるで別人のように私に触れてきて、胸がどきどきしっぱなしで、多分私の様子は可笑しかったと思う。
家に戻ってからも興奮が冷めやらずで、中々眠れないくらいだった。
*
それからしばらくして、私は街で行った。
なんだか学び屋の雰囲気が変わっていて驚いた。前は女の子同士で話すことが多かったのに、男女で話してばかり。
置いてけぼりを食らった私は、先生に相手にしてもらう。
「年頃ですからね」
「年頃?」
「アンネは、ヴィサさんと仲直りしたみたいですね」
「仲直り……。うん、元から喧嘩していたわけじゃないですけど。先生、踊り教えてくれてありがとうございました。ちゃんとヴィサを一緒に踊れました」
「……ああ、あれはヴィサさんのリードが上手いこともありましたよね」
「先生も見てたんですか?」
「ええ。注目の的でしたから」
「……私、変でしたか?」
「いえ。全然、可愛らしかったですよ」
「あー祭りの話?」
「結局ヴィサさんと踊ってたよね。アンネは」
先生と話をしていたら、他の子たちが話に加わってきた。
ヴィサがかっこよかったという話の中に、私が可愛いという話もあって、照れてしまう。
「さあさあ、休み時間は終わりました。皆さん、おしゃべりをやめましょう」
先生がそう止めるまで祭りの話は続き、話題はヴィサと私から、それぞれのカップルに移っていっていた。
カップルというのは、男女二人組のことで、祭りの時に一緒に踊った二人が意気投合して付き合うようになったらしい。
前みたいにがやがや話しているほうが楽しいのだけど、先生曰くお年頃では普通みたい。
「ヴィサ。お年頃になるとどうしてカップルを作るの?」
「はあ?」
学び屋に行くたびに疎外感があって、私はとうとうヴィサに聞いてしまった。
「祭りでカップルになった子ばかりで、私だけ一人なの。先生が相手してくれるから寂しくはないけど」
「先生?相手って?」
「話を聞いてくれるだけだけど」
「話か、それならいいけど」
「どういう意味?」
「まあ、十四、十五歳っとなればそうかもな」
私の質問に答えず、ヴィサはそう言った。
「アンネもそういえば年頃か……。でもあいつはだめだ」
「ヴィサ?」
「あいつは年すぎる。アンネにふさわしくない。何か企んでいるみたいな笑顔も胡散臭い」
「ヴィサ?」
よくわかんないけど、ヴィサは何やらぶつぶつ一人でぼやいている。
誰の事?
私、カップルの話をしてたんだけど。
「学び屋に行くのをやめるか?」
「うーん。それは……。別に楽しくないわけじゃないから」
「そうか。まあ、つまらなくなったら行かなくていいからな。あと、奴には気をつけろ」
「奴?」
「先生のことだ」
「う……ん」
何を気を付けるんだろう?
よくわからないけど、頷いた。