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特別なあの子に祝福を  作者: ゆずこ
7/13

アレックスと夏の妖精祭

アレックス視点となります。



 アレックスは正直驚きを隠せなかった。彼は、隣国フューエル国のマイヤー公爵ではないか。ここ数日他国の外交官がよく登城しているのは知っていた。なぜ彼がララをエスコートしているのか。

 いやまて、マイヤー公爵は確かゴードンと友人関係にあったと聞いた。詳細は知らないが、よくアカシア辺境伯に遊びに来ていると。そのつながりか。



 学院行事の夏の妖精祭とはいえ、夜会であることには違いない。

生徒の他にも貴族が来賓として招待されている。きっとマイヤー公爵もそれなのだろうと勝手に結論づけた。


 マリオット男爵令嬢は、自分は魔力はそんなにないが、誕生日を境に妖精の力をかりて強力な魔法を使えるようになった、と打ち明けてきた。気まぐれな妖精のことだ。この歳になっての愛し子覚醒もありえる話なのだろう。

 一応兄や両親にも報告はしており、内密にマリオット男爵の家も調べている。本当に愛し子であれば、国で保護しなければならない決まりだからだ。


 その話を受けてからというもの、男爵令嬢はいつになくアレックスにべったりとなった。転入して最初の頃は教員から、慣れるまで面倒を見てほしい、とのことだったが、如何せん距離が近い。一般的な令嬢でももう少し節度を持った関わり方をしてくる。

 ああ、でも一人だけ同じように距離が近い令嬢がいたな、とララを思い出した。

最近会えていない。

会話もしていない。

むしろ、廊下で見かけたときに、おもむろに視線を逸らされた…。

 アレックスはがっくりをと肩を落とす。それに、ふと感じた。マリオット男爵令嬢が愛し子というならば、妖精たちの反応はどうだっただろうか。ララと一緒にいると、妖精たちは人型になってララの作るお菓子を頬張り、でんか!ララ!と気軽にやりとりをしていた。



 …おや?

とアレックスは思った。マリオット男爵令嬢と一緒にいても、妖精の気配があまりしない。一応周囲に光の粒子がきらめいているのだが、なんとも甘ったるい感覚に陥る。

 疲れているのか、と思うが、なんだか不思議だ。あまり長時間至近距離にいないようにしないと、と思った矢先のエスコート話だ。



 どうやらマリオット男爵令嬢はアレックスに好意を向けているようで、初めての夜会だからエスコートしてほしい、と懇願してきたのだ。自分はララにも申し込みできなかったというのに。

 アレックスは他の貴族の手前もあるので、と断ろうとしたが、いつの間にか彼女にエスコートを申し込んでいたようだ。その場にいた教員にも確認を取ったが、自分で申し込んでいたらしい。


 いよいよ怪しいと思い、侍従を使ってすぐに兄と両親に言伝を頼んだのだった。




 マリオット男爵令嬢が、化粧直しに…とやっと腕から離れた。

アレックスは、どっと疲労を感じた。おかしい。



 その隙にララを探した。今日のララはとても美しい。今までは自分だけが彼女の美しさを知っていた。お転婆な所もあるが、そこがまた可愛いのだ。ただでさえ学院に来てから彼女は注目の的となっている。本人は全く気にしてないようだが、貴族令息たちが噂しているのをよく聞く。ララが向ける笑顔に癒されているのは自分だけではないことに気づいていた。


 しかし、アレックスにはララに好意を伝えることはできないでいた。自分は王族である。そして彼女は辺境伯令嬢。しかも愛し子でもある。そんな彼女と懇意になれるのだろうか。

 兄にも両親にも打ち明けていないこの思いである。自分の一言で、ララの今後の人生が変わってしまうことが怖かった。




 明るい会場で、黒曜石のような髪色はずいぶん目印になった。近くにララを見つける。従妹のユリア伯爵令嬢と楽しく談笑していた。

 するとマイヤー公爵がこちらに気づき、近づいて来るではないか。ララはユリア伯爵令嬢と一緒か…。アレックスは少し身構えた。



「マイヤー公爵でいらっしゃいますよね。アレックス・ジル・ネスと申します」

「ええ、存じております。こうして直接お会いするのは初めてでしょう。兄君とも懇意にさせていただいてます」


 当たり障りない会話が続くが、アレックスはなんだか居心地が悪い視線を感じる。値踏みされているようだ。


「ララ…いえ、アカシア辺境伯嬢をエスコートされたと聞きますが、アカシア卿の繋がりでしょうか」

「殿下が心配されるようなことはございませんよ。私には愛する妻も子どももおります故」

「あ、いや、そういう意味では…」

「そうでしょうか。殿下、注意されるべきです。目先の物事にとらわれては真実は見えてきません。どうか、ララをよろしく」



 黒曜石の髪の下から、朱色の瞳がアレックスを射貫く。

そして彼は先ほどとは打って変わって別人のような人懐こい笑顔をアレックスに向け、颯爽とララの元へ。



 去り際にアレックスに囁いた。




───うちのララ、まだまだ殿下には渡せませんね。





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