ララとモヤモヤ
区切りが難しく短めです。
初夏。夏の妖精祭の数日前に学院を騒がす事件があった。
この年度途中に、転入生が入ってきたのだ。ララやアレックスが在学する高等科は3クラスあり、ララはアレックスとは違うクラスだ。そのアレックスのクラスに、転入生である。
この国では貴族の魔力持ちが通う国立の学院と、財のある商家の子どもや魔力のない貴族の通う私立の学院がある。滅多にないのだが、その私立の学院から転入生だというので、ざわついているのだった。
ララは友人であるユリア伯爵令嬢が朝から大騒ぎしているのを他人事のように聞いていた。
「ちょっと、ララ!アレックス様のクラスに転入生よ!こんな中途半端な時期に、一体何かしらね」
「そうねー」
「そうね~じゃないわよ!気にならないの?」
「ん~…相手もあれこれ詮索されるのを承知で転入してきているだろうし、わたし達が外野であれこれ言うのもね」
「あらそう。わたしは気になるから、アレックス様のクラスの友だちに聞いてみるわね!」
じゃ!っと淑女とは…と問いたくなる、この令嬢はユリア・ヒーター伯爵令嬢。ララの母であるビアンカの生まれた家であり、ユリアの父とビアンカは兄妹。ユリアとは従妹にあたるので、とても仲良しである。多少の粗相も気にならない。
確かに、ここ数日王都の妖精たちがざわついている。ララの所へ来るが、目立った外傷もないので、どうすることもできないのだ。『なんかへん』みんなそう言っていた。
そして、今日。例の転入してきたご令嬢が妖精に干渉できるのか、気にならない?と言われて肯定はしなかった。妖精がらみであれば、王家の指示を仰ぐ必要がある。
ララたちの次の講義は魔法演習だったため、移動教室となった。
「はあ。午後いちの授業は経済学だったかしら。眠たくなりそうだわ」
「レポート提出あるから、寝ていられないわよ、ユリア」
「誰か代役立てようかしら。変身魔法とかで」
「誰も好き好んで経済学の授業でないと思うけど」
「操る」
「物騒ね…そもそも他人への意識干渉は法律で禁止されているからダメよ」
何かと突拍子のない発言の多いユリアに、ララは退屈しなかった。気兼ねなくやりとりできる、貴重な存在なのだ。
ララとユリアが廊下に出た瞬間、ララは目を見張った。
「うっそ、アレックス様」
「ユリア、少し声を小さくして」
本来であればララだって大きな声で「えー!」と叫びたかったが、隣のユリアがいい反応をしてくれたので正常でいられたのだ。
アレックスは、転入生と思われる女子生徒とかなり近い距離で歩いている。肩先が触れてしまいそうだ。きっと彼は優しいから転入生にあれこれ教えてあげる役割を引き受けたのだろう、そう思うことにした。それじゃないと、もやもやしてしまうからだ。
まあ、もちろん自分も領地でアレックスと過ごしていた時はずいぶんな距離感で接していたこともあり、今となれば顔から火が出そうなほどであるし、今同じ距離で同じことを、と言われても、恥ずかしくてそんなことは絶対にできない自信がある。
恥ずかしいというより、ドキドキして心臓がまろびでるだろう。
アレックスと転入生が歩く姿は、廊下にいた生徒の注目の的となっている。そんな中、一瞬アレックスの碧の瞳がこちらをむいた。
何か言いたげな、そんな。
でも、ララは視線を外してしまった。辛かったのだ。胸が痛くなったのだ。そのままアレックスに視線を向けることもなく、渋るユリアの腕を引いて移動教室のためその場を離れた。
それから、転入生…名はジュナ・マリオットというのだが、ジュナはことあるごとにアレックスと一緒に行動するようになり、授業の合間も昼休憩も放課後もずっと一緒にいた。
ジュナはピンクベージュのふんわりとした髪で、人懐こい笑顔で相手とすぐに打ち解けられる性格のようだ。転入したとは思えない速さで、学院になじんでいる。
ユリアの話だと、ジュナはマリオット男爵家の娘で、魔力はそこまでなかったのだが、16歳の誕生日を迎えた瞬間に、妖精の姿が見え、会話ができるようになったと聞くではないか。
それは、誕生日を境に愛し子としての力が開花したということだろうか。妖精の愛し子は現在ララと、王都で静かに暮らす高齢の女性だけと聞いている。
それに、愛し子の存在は公にされていないので、ジュナが愛し子と言われているのは、逆に事件に巻き込まれてしまうのでは?と心配になる。でもここで自分が表立ってしまうと、それも危険なのでは…と、ララはどうすることもできずにいた。
何よりも、アレックスと全く会わなくなった。まあ、特段「この日に会いましょう」などと約束をつけてる訳ではないし、偶然会って会話をするくらいだったのだ。
しかし最近見かけるアレックスは、ずっとマリオット男爵令嬢と一緒で、なんだかモヤモヤする。
少し前は、そこは自分の場所だったのに…
そこまで考えてララは頭を振った。この先を考えてはいけない。自分は辺境伯の娘で、相手はこの国の第二王子である。身分差を考えないと。モヤモヤする原因は明白だが…そっと心に置いておくべき感情である。
はあ、とため息をついた。妖精たちがララを心配して近寄ってきてくれた。安心させるために、ララはほほ笑んだ。
ユリア「ちょっとララ!!!高等部の3年生にとても格好いいご令息発見したわ!」
ララ「すごいネットワークね」