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特別なあの子に祝福を  作者: ゆずこ
3/13

ララと学院生活

お菓子の知識は浅いです。



 ララが王都の学院で勉強し、寮住まいを始めてから3か月が経った。寮では基本的に一人部屋で一名だけ侍女や侍従をつけることができる。ララも昔から身の回りの手伝いをしてくれているマーナを侍女に選んだ。

マーナの歳は30で、領地に夫と10歳になる双子を残して来ている。マーナの母方の実家は小さな子爵家で、貴族のマナーもしっかり身についている。ララの教育係としてもばっちりなのだ。 辺境伯では自由にのびのびしていたララだが、ここでは赤の他人がじろじろと粗を探すように目を光らせている。そんな場所に放り込まれたララが果たして淑女さながらやっていけるのか…両親も邸の使用人もそればかり心配していたのだ。のほほんとしているだけに、貴族特有の悪意に気づけるのか…そういった面をカバーするのが、マーナの役割でもあった。



「マーナ、戻りました」

「おかえりなさいませ」


 パタン、と自室のドアが閉まった瞬間である。


『ララ~おかえり~』

『ララ!』

『おなかすいた』



 ふわふわふわ~と群がる妖精たち。そう、部屋のなかに住み着いてる何人もの妖精は、アカシア辺境伯領からララについて王都までやってきた妖精だった。



「みんなただいま。おなかすいたって、王都に来てから結構な頻度でお菓子食べているけど…大丈夫?」

『おうと、なんかつかれる』

『ララのおかしでげんきになる』


 王都の方が人口も多いし、妖精の力をかりて魔法を使う人が多いからだろうか。しかし、妖精は基本的に日光や月光、雨や風など自然にあるものに触れるだけで元気になる、と学んだ。

 むしろララの作るお菓子を食べている彼らは、大丈夫なのだろうか、と少し心配になる。



「マーナ、変わりはあって?」

「いいえ。旦那さまと奥様から、学内行事で使用するドレスが届きました」

「ありがとう。サイズ確認は次のお休みでも間に合う?」

「十分かと」

「ありがとう。そうするわ」



 もうすぐ学内行事で夏の妖精祭としてダンスパーティが開催される。貴族としてのマナーを学び始め、慣れたころに行うのがこの学院の恒例となっている。


 婚約者のないララは、誰にエスコートを頼むわけでもなく、同じく婚約者のいない友人たちと一緒に会場に入ろうか、とぼんやり考えていた。

 夏の妖精祭は学院行事であり正式な貴族のパーティではないので、エスコートに関しては割と自由である。



 ララは部屋着に着替えて長い髪の毛を上でまとめる。シンプルなエプロンをつけて、自室の簡易キッチンの前に立った。


『ララ、なにつくるの?』

『おかし~』

『あまいの』



 妖精たちがキッチンの前にわらわら集まってくる。ララが料理をすることをしっかり理解しているからか、ララの邪魔にはならない場所にいる。



「今日はコンフェッティを大量生産するわよ…今日の経済学は難易度高めだったから、頭の中を整頓しないと」

『こん…』

『おさとうのあまいの』

『あまいの』


 コンフェッティとは南蛮菓子で別名金平糖である。手順はあれどひたすら混ぜて作るお菓子なので、無心になるにはもってこいだ。妖精の大きさでいえばコンフェッティの大きさは丁度良い。そしてたくさん作れるし、場所も取らない。保存もきく。

 ララはマーナの手伝いもあり、どんどんコンフェッティを作り上げていった。




 翌日の昼。仲の良い令嬢が風邪で欠席しているのもあり、ララはひとりで中庭にいた。中庭といっても奥の奥の奥。学院は木々に囲まれた中に建つ。もちろん、自然の力をエネルギーとしている妖精に配慮してのものであるが。

 ララはこうして一人の時には、人目につかないこの場所で休憩している。理由は色々あるが、まずはこれである。



『ララ~』

『ララ、あそぼ』

「みんな静かにしていて偉かったね。今ならいいのよ。あ、でも誰か近づいてきたらすぐに教えて。どうしてもだめな時は、みんなに頼ってもいい?」

『おっけーおっけー』

『らら、だいじ』



 草の上にハンカチを広げ、その上に座る。お昼に、とマーナが準備してくれたサンドイッチを頬張り、一息つく。

王都から来た妖精たちのほかに、もちろん王都にも妖精はたくさんいる。妖精たちのネットワークで、ララが愛し子であることはどの妖精も知っていた。好奇心で近づいたり、警戒して様子を見たり、それぞれである。どの妖精も、愛し子のララへの忠誠心は強く、ララの嫌がることはしない。

 ララは王都についた瞬間に妖精たちに告げたことがある。王都で人目のある場所では妖精と話さない。学院の授業で魔法を使うことがあるが、過度な干渉はしない。寮以外でララとやりとりする場合は、ララが確実に一人になってから。その場合は周囲に人が近づかないか気を付けること。もしもの場合、ララを魔法で姿を消すこと。


 この国の魔法は、妖精の力をかりて人間の持つ魔力を具現化するのだが、特に呪文や詠唱は必要ない。こうしたい、とイメージすればよいのだ。

鍋に火をかけたい、氷を出したい、など。

治癒魔法にたけている人であれば、傷を完治させるイメージを。魔道具師であれば、魔力を注いでどういう効果の武器にしたいかを。

 イメージとは簡単なようにで難しい。だから魔力を持つ人間は簡単な魔法であれば使用できるが、高度な魔法を使いこなせるのは一握りになってしまうのだ。



 サンドイッチを食べ終えて、妖精たちに大量生産したコンフェッティをひと欠ずつ渡していると、妖精たちが静かになった。




『ララ、でんか』


 妖精たちがアレックスの魔力を感じたのか、知らせてくれた。そのすぐあと、茂みからアレックスが一人で出てきたのだ。



「ララ」

「アレックス様。おひとりですか?」

「いや、そこの茂みで待機している。たまたま中庭に行こうと思ったら、アカシア領の妖精の気配がしてね。ララがいるのかと思ってついてきたんだ」


 本当にいた。とふんわり笑みを浮かべるアレックスに、ララの心臓はぎゅうとなる。


 一般的には、光の粒子状に見える妖精だが、人型に見える場合は魔力が相当強い者か、愛し子か、である。アレックスは魔力はそれなりに強いが、人型にまでは見えない。

 ララの周りにいる妖精たちがアレックスも気に入ってるので、ララと一緒にいる時は人型で姿を現すのだ。



「ララは、昼食終わった?」

「ええ。今は妖精たちとデザートの時間です」


 ララは包んでいたコンフェッティをアレックスに見せる。


「食べても?」

「よろしいですが…」



 ララは視線を茂みに向ける。王族が他人の作ったものを従者を介せず口に入れていいものだろうか。もちろんララの作ったお菓子だし、まず妖精も食べているものだから危険はないと思うのだが…。そうか、まず自分が食べて危険がないことを実証しよう。そう判断してララは一粒つまんだ。


「ララ」

「え?あ!」


 アレックスに名前を呼ばれ、お菓子から目を離したその隙に、アレックスはララの指先からコンフェッティを食べてしまった。


しかも、そのまま口で。



「あああああれ」

「うん、甘いね」


 ララは羞恥やら何やらで困惑した。アレックス手づから食べられてしまったのだ。

 ララの指先に残る、アレックスの柔らかい唇の感触。ぞわぞわした何かが体中を走り、ララの頬に熱が集まるのを感じた。



「はは。真っ赤だ。そうだララ、夏の妖精祭では、誰のエスコートをうけるの?」

「…次したら怒りますからね。妖精祭では、婚約者もいませんし、友人達と一緒に会場に入るつもりです」

「そっか。本音を言えば、僕はララにエスコートを申し込みたいのだけど…。ちょっとまだ時期尚早というか」



 エスコートは自由とされているが、王族は別だ。まだ婚約者のいないアレックスを狙う貴族令嬢は多くいる。そこへ公爵家を差し置いて辺境伯の娘が王族にエスコートされるなど…と、ララはアレックスとの距離を感じる。

しかし、今始まったことではないのだ。



「もったいないお言葉にございます。それに、しがない辺境伯の娘ですわ。他の貴族家のバランスもおありでしょうし、こうしてアレックス様との時間を過ごせているだけで、ララは幸せにございます」


 ふふ、と笑いかければ、アレックスはララの綺麗なシルバーブロンドをひと束持ち上げ、そっと口づけた。



「では、またの機会にお誘いしても?」

「ええ。喜んで」


 わざとらしい、かしこまったやりとりに、二人は笑い出した。静かにお菓子を頬張っていた妖精たちは、二人の笑い声につられてふわふわ踊りだすのだった。



『でんか ララにさわりすぎ』

『じちょう すべき』

『ゆるすまじ』

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