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特別なあの子に祝福を  作者: ゆずこ
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ララと家族



「姉上、出立は明日だというのに、また森へ来て…大丈夫なんですか」

『ララ、おうとにいくの?』

『あしたいくの~?』

『かなし~』

「あら、テトラ。荷造りは終わって、学院の寮へ発送済よ。もうすることなんて何もないわ」


 だからこうして、森へ来てるのよ、とララは長いシルバーブロンドを風に揺らして微笑んだ。妖精たちにも、すぐ戻るわ、と声をかける。

 ララは16歳に、弟テトラは13歳になる。このプレネス国では貴族の子どもは学院に通うこととなる。12歳から15歳までを中等科16歳から18歳までを高等科、19歳から21歳までを大学院として魔法や貴族の作法、騎士科として学ぶことができる。

 ララたちアカシア家は、王都へは行かずに中等科で学ぶことを家庭教師によって学ぶこととした。王都のタウンハウスから通ってもよかったのだが、両親が親元から離したくなかったのが本音である。

 しかし高等科になれば貴族のあれこれを学習し、経験し、関わりを深めて自分の味方を増やしていかねばならない。ましてやララはいつかは嫁ぐ身。辺境伯といえども立派な貴族だ。領民や家族がよりよい生活をしていくため、とララは結婚について常に前向きである。


 ララは妖精たちとお話したり、ララが作ったお菓子を妖精たちに分けてティータイムを過ごすことを大切にしていた。テトラも魔力は高く、それでいてララに影響されてか妖精の姿を見ることができた。ララの身内ということで妖精たちから好かれているが、そういった年頃である。少しつんけんしているような印象をうけるが、家族思いの優しい子なのだ。

 テトラは将来この領地を継ぐので、その勉強や騎士団に混ざって剣術の訓練をしているため、実は多忙である。

 しかしララが邸から出ようものなら、どこへでもついて歩くようになった。


 その理由は、この国の王子であるアレックスに懇々と説かれたのだ。ララの無防備さを。

姉であるララがしっかりしているようで、のほほんとおっとりしているのは重々承知している。だが、第三者にそれを説かれるのは何かこう…腹立つものがあったのは本音だ。

 次会った時に文句言われないように、こうしてついて歩くようになった。


 しかし、それが大正解だった。つい2年前ほどは、辺境伯の娘が歩いてる、だけで終わっていたのだが、このごろは領地の男たちがララに積極的に話しかけるようになってきたのだ。

あきらかにララを狙っている。本能で感じた。

物理的な攻撃などは妖精たちが防いでくれるかもしれないが、こういった害になるような視線は、異性が一緒にいないと牽制にならないのだ。


アレックスの言っていたことが身に染みてわかるようになり、姉を護らないと…と思うテトラであった。



 二人が邸に戻ると、急な来客があったようで、身支度を整えてから客間に来るように執事から託があった。身支度をしっかり整えるということは、辺境伯よりも身分が上であることを示す。

二人は自室に戻り、それぞれ整えてから揃って客間へ入るが、その前に賑やかな妖精たちにくぎを刺した。



「いい?ここから先はお客様がいらしゃってるから、静かに待つこと。お利口に待てたら、作り置きのお菓子を多めに準備するわね」

『おりこう!』

『しずかにする』

『おかし』



 ふよふよと、妖精たちは静かに喜びを表す。ララは妖精と対等でいたいのだが、こういう場合は別だ。静かにしてもらうが、その対価はララの作るお菓子である。愛し子の性質なのか、妖精は愛し子のものであれば何でも欲しがる。物を渡したとして、その先どうするのかが気になるが、どうせなら食べてなくなるものが良いと思い立ち、妖精たちにはたびたびお菓子を提供していた。


 とりあえず、静かにする約束をこぎつけたので、ララはドアをノックし、返事を待って応答する。



「お父様、テトラと共に参りました」

「ああ。二人ともこちらへ」


 辺境伯の父であるゴードンが手招きする。ちょうど背を向けていてわからなかったが、見覚えのある後姿に、ララは心がはねた。



「やあ二人とも。元気だったかい?久しぶりだね」


 立ち上がったのは、黒曜石のような髪色と、綺麗な朱色の瞳をした青年である。



「ヒューリお兄さま。ご無沙汰しておりました。お陰様でララとテトラはこのとおり元気でございます」

「ヒューリ兄上。いつこちらへいらしていたのですか」



 まさかの来客に、二人は喜んだ。このヒューリと呼ばれる青年は、父ゴードンの昔からの親友であり、こう見えてまだ34歳だ。隣国の貴族と知らされている。

父は40歳になり歳の差は多少あれど、ララたちが幼い頃から辺境伯家によく遊びに来ていて、気ごころ知れた青年である。


 彼の住む地には、ルクリアの花が咲いているのだろうか。ヒューリが動くたびに、ほんのり香るのだ。ララは、なんだかとても懐かしいような錯覚に陥る。きっと幼い頃から会っているからだろう。



「ララ、テトラ。一年ぶりになってしまった。ララは明日から王都へ行くのだろう。その前に一目会おうと急いで駆け付けたんだ」

「ヒューリお兄さま、ありがとうございます。荷物は手配したので、あとは身一つで王都へ行くのみです」

「そうか…でも王都の方がわたしも行くことは度々ある。会えることを期待しているよ」

「お手紙書きますわ。カルナお姉さまとキースはお元気ですか」

「二人ともララとテトラに会いたがっているのだけど、仕事や学業が忙しくてね。二人にも手紙を書いてやってくれ。とても喜ぶ」


 ヒューリがにっこり笑えば、ララはつられて笑ってしまう。なんだか不思議な感覚だ。

カルナはヒューリの妻で、キースは二人の息子である。辺境伯故あまり領地を開けることのできないアカシア家なので、ヒューリたちが来てくれることの方が多かった。

カルナもキースもとても人柄がよい。ヒューリと似て穏やかなのだ。



「ヒューリ兄上、あとで剣の手合わせしましょう!」

「いいとも。最近剣術が上達していると聞いた。さすがゴードンの手ほどきだ。わたしもゴードンに勝てたことは数回しかないよ」



 そんな他愛もないやりとりをしている間に、母であるビアンカが領内の孤児院訪問から帰宅したようだ。突然の訪問者に、驚きながらも喜んでいた。

テトラが手合わせしたいとしつこいので、ララはテトラを伴い準備をすることに。

もう少しヒューリお兄さまと話したいわ、なんてわがままを言うと、ヒューリはララの頭をわしゃわしゃなでつける。もうそんな歳ではない!と抗議しながら、照れ隠しでテトラを引きずり部屋を出た。



「はは、ララは可愛いなあ」

「似てきたと思うだろう」

「誰にだい?ゴードン」

「わかってるだろう」



 …痛いほどさ、とヒューリが呟くが、ゴードンとビアンカにだけしか聞こえなかった。




ララ父「34歳でお兄さま呼びとは…」

ヒューリ「致し方なし、だ」

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