ララと国王陛下
まもなく終了します。
その晩、登城したララとアレックスは、揃って貴族用の謁見室へと招かれた。ここは位の高い貴族が王族と謁見する部屋である。
初めて入ったその場所に、ララは少しの緊張をする。
妖精たちはララのお菓子を静かに食べていた。
あの一件で学院内にいた妖精はマリオット男爵令嬢の魔道具にあてられ、のきなみ力を失いかけていたのだが、魔道具が損壊したので、時間をかけて元に戻りつつあった。
「ララ、緊張している?きっと陛下しか来ないから大丈夫だよ」
「待ってください、アレックス様。その陛下にお会いするから緊張しています」
キッとアレックスをにらみつければ、アレックスはごめんごめんとララの髪をなでた。
しばらくして、部屋がノックされ、国王陛下が入ってきた。
ララとアレックスは最上級の礼をするが、それは陛下によって止められる。
「さて、愛し子のララ。まずは此度の騒動にて、死傷者を出すことなく収めたこと、本当に礼を申す」
「もったいないお言葉にございます。愛し子としての責務を果たしたまでにございます」
「アカシア辺境伯にも連絡しておいた。近々登城するだろう。褒美も出す」
お礼を申し上げると同時に、ララは微笑んだ。自分の行いが辺境伯領にとって良いものになり、純粋に嬉しかった。
「そして、アレックス。例の令嬢の傍で危険を冒しながら調べた結果が、大きな事件にならずにすんだ。よくやった」
「ありがとうございます」
「だがアレックス、お主あの魔道具に中てられたことがあるだろう」
「…陛下、それをここでお話しになるのは…」
ちょっと、と、アレックスはララを見た。ただでさえマリオット男爵令嬢と行動を共にするのは心身ともに疲労がすさまじいものだったのに、あのエスコートの件を持ち出すとは、自分の父でありながらも性格が悪いな、とアレックスは思う。
国王陛下は、マリオット男爵が魔道具の製造販売をしている裏で、妖精を従えて動かせないか実験を繰り返していたことを突き止めた。
複雑な魔法がかけられ、そこへ妖精の力が悪いように作用した結果、妖精に暗示をかけ、自由を半分奪い、持ち主の思うように動かせる、ということだった。
そもそもが、他人を操る魔法の使用や開発は国で禁じられているし、妖精に干渉することも禁じられている。マリオット男爵は取り潰しとなる方向で話が進むようだ。
男爵令嬢に関しては、その魔道具が具体的に人間にどのような作用をもたらすのか理解したうえで使い続けてきた。それに関してはしっかり罪を償うこととなる。
「さて、ララ嬢。君と会うのは15年ぶりだ。美しく成長し、ご両親もさぞ喜んでいるだろう」
自分も記憶にない赤ちゃんの頃にお会いしたのだろうか。
ララの記憶にはないが、アレックスとよくにた髪色と瞳が、既視感を醸し出す。
「ララ嬢、君もまもなく成人だ。そろそろ真実を知り、自分で歩いて行かねばならない。申しわけないが多くを語ることはできないが、君の幸せを願う人は、多く存在する、それだけは覚えておいてくれ」
そうララに伝えて、国王陛下は謁見室を去って行く。
ドアが閉まった瞬間に、ララは小さく息を吐いた。
最終的にララの処遇は、国の愛し子として、ララが成人を迎えたころに国民にお披露目することとなった。今までは愛し子の安全を考えて公にしていなかったのだが、学院での事件となれば、すぐに話は広がり、いくら愛し子といえども危険をすべて回避できるとは思えない。
学院に通うのであれば、そのまま寮生活を続ける許可も下りた。
だけど、学院を修了してからどうなるのかの話はまだされなかった。
謁見室を後にし、アレックスはララを王城の来賓室へ案内した。今日はこのまま寮に帰らず王城に泊まる手はずになっているのだ。寮からマーナも呼んである。
「今日は、本当に大変な1日になったね」
「ええ。でも、アレックス様にお怪我が見られなくて、安心しました」
「いや、それは僕もだよ。ララに怪我がなくてよかった」
ふいに延ばされたアレックスの手が、ララの白い頬を撫でる。
「あれ?」
「はい?」
「ララ、君の瞳…朱色になっている」