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特別なあの子に祝福を  作者: ゆずこ
10/13

ララとアレックスの内緒の話




 夏の妖精祭のあとから、妖精の元気がないように感じる。

アカシア領から一緒に来ている妖精は、変わりなくララの寮でのんびりしていた。

その姿に安心するが、先日の魔法の実技の際に、妖精たちはずいぶんと浮かない顔をしていた。さすがに授業中なので妖精と会話するわけにはいかない。以前のようなきらきらした、楽しい雰囲気が感じられなかった。


 ララは、自室でくつろいでララの作ったクッキーを食べる妖精たちに尋ねた。


「ねえ、この学院にいる妖精たちの元気がないようだけど、理由を知ってる?」

『なんかへん』

『へんなかんじ』

『へんなおんな』

「変な女?外部の方かしら。その人が何か関係しているの?」

『ちかづくと、ぞわぞわ』

『やなかんじ』


 近づくとぞわぞわ?何か悪い影響をうけてしまって元気がなくなっているのかな、とララは思う。とりあえず妖精のことは王族にも報告しないといけないわよね…とララはアレックスに話がある旨を手紙にしたため、マーナに頼んだ。



 翌日の朝、学院に向かうララをアレックスの護衛の一人が呼び止めた。アレックスがララを呼んでいると告げる。ララもこの護衛とは顔見知りであり、昨日の手紙の件についての返答だろうか…とララは護衛のあとについて行った。


 人気の少ない場所を通り、別棟の図書資料室というプレートが掲げられている部屋に案内された。さすが、こんな場所に朝から生徒が来ることはないだろう。護衛は、ドアの前に控えておりますので、と告げるとララを中へ促した。




「アレックスさま…」


 いらっしゃいますか?と部屋の奥に進むと、見慣れた人影。

暖かなブラウンの髪が、ふわりと揺れて、ララの腕はアレックスに引かれる。

暖かな感触がララを包み込んだ。


「え、?あ、あの」

「ごめんララ…少しこのままで…」


 なんとも小さな声で、アレックスはつぶやいた。ララを抱きしめる腕は、ちっとも緩みそうにない。

ララは、声にならない声しか出ないので、肯定の意で小さく首を動かした。抱きしめられて、ララの腕は行き場を失う。触れてる場所が熱を放つように、ララは熱くなった。きっと自分の顔も真っ赤だろう。だけど、ララはおずおずと、自分の腕をアレックスの背中に回して、ぽんぽんと触れた。むしょうにこうしたいと思ったのだ。

 ぴくり、とアレックスの背が震えて、ゆるゆるとララとアレックスに隙間が生まれる。でも、鼻先は近い。近すぎる。



 揺れるアレックスの碧の瞳。そこにはララだけが映っていた。

そのままアレックスはララの頬に口づける。


 そして、いつもの適切な距離へと戻った。




 しばしの沈黙が続く。口火を切ったのはアレックスだった。




「ごめん…あ、それは君の許可なく抱きしめてしまったことで、それ自体は謝る気はないんだ」

「え、あ、はい?」

「なんだか久しぶりだね、こうして二人で会うの」

「そうですね。アレックス様は、いつも…ええと…ご学友に囲まれていますので」


 後半言葉を選んでみたものの、アレックスは癪に障ったようで、眉がピクリと動いた。



「まあ、事実だからいいよ。昨日もらった手紙についてなんだけど、いいかな」

「ええ。最近妖精たちの活気がないなと感じて、自室の妖精たちに尋ねました。変な女に近づいたらぞわぞわする…という解釈で捉えてます」

「多分ララも思い当たる人物いるだろう?きっと彼女のことを言ってると思うんだけど…」

「証拠がないのですよね」

「そう。一応秘密裏にマリオット男爵家を調べてもらってるんだけど、男爵家は魔道具の製造に力を入れてるようでね。でも一般に流通しているような、灯りの魔道具や冷風機の魔道具ばかりで、特に気になるものは出てこなかったんだ」




 うーん、と二人で頭を抱えるが、正しい答え?は生まれない。結果的にはこのまま妖精とマリオット男爵令嬢の様子を見る、で話は終了した。




「そういえばララ」

「何でしょう?」

「先日の妖精祭で、隣国のマイヤー公爵にエスコートされてたでしょう」

「ええ。殿下もご存じだったのですね」

「とても目立っていた自覚はある?」

「そ、そんなにですか?」



 パッと自分の両頬に手をあてて、一気に青ざめるララ。その姿がおもしろおかしく、アレックスの小さな嫉妬心は吹っ飛んでしまった。


「ララ、君はとっても可愛いよ。妖精祭でエスコートされる君を見て、どうしてその役割を担えなかったのか、とても後悔した。ええと…僕はこの国の第二王子で、公の場で君をエスコートするってことは大きな意味を持ってしまう。だから、もう少し待ってくれる?きちんと自分の言葉で伝えるから」


アレックスの頬に赤みがさしていた。ララの胸は苦しいような、せつないような、暖かな気持ちでいっぱいになり、いまにも鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配になった。


 アレックスの真摯なことばに、ララはふたつ返事で応える。頬の赤みを隠すかのように、両頬に手を添えた。



「アレックス様の隣に他のご令嬢が立つ姿を見て、寂しい気持ちを覚えました。逆に感謝せねばなりませんね」

「それ、そのタイミングで言うかな…」

「いけませんか?わたしの本音です」



 ララがはにかむように告げると、学院の予鈴が鳴った。授業に遅れるわけにはいかないので、ララは先にアレックスの護衛と学院の玄関へ向かった。




その日の午後の授業で事件が起きる。




アレックス「ララ、最後に爆弾落としたなあ…」

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