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特別なあの子に祝福を  作者: ゆずこ
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ララと妖精たち

ふんわりご都合主義連載です。

誤字脱字報告ありがとうございます。

世界を創った神は、妖精を生み出しました。

妖精はその次に生まれた動物や人間が大好きで

生活の手伝いをしたり、いたずらをしたりして

楽しんでいました。

ですが、妖精の持つ不思議な力を我物にしようとした、一部の悪い人間は、妖精を集めて捕まえ、自分だけの物にしようとしたのです。

それに気づいた神は、妖精の姿を普通の人間に見えなくする魔法をかけました。

しかし、好奇心旺盛な妖精は時折人間に姿を見せたり、妖精の気配を感じられる魔法使いという存在に、その力を貸してあげたりして、楽しく過ごしています。

そして稀に、すべての妖精に愛される存在である、妖精の愛し子という存在が人間のなかに誕生し、人間と妖精たちの橋渡しとなり、世界は安定と安寧と手にするのです。


───プレネス王国史、世界の始祖

第3章 妖精と愛し子 より抜粋。







 ララが、自分は妖精の愛し子であることに気づいたのは8歳の頃であった。3歳離れた弟のテトラと川遊びをしている際に、川底の鋭利な石で足を切ってしまったのだ。使用人は応急処置をしてくれたが、止まらない血にテトラはパニックになってしまった。


「大丈夫よテトラ!お姉ちゃんが治してあげるからね!」


 そう叫んだのも、弟を安心させるためだった。怪我をした方の足に手を添え「なおりますように」そう願うと、暖かな光がテトラとララを包む。その瞬間「いたくない!」テトラが叫んだのだ。使用人が慌てて傷口を見れば、何の跡も残っていない。

 ララは治癒魔法の才能があったのかな、と思ったが、そうではなかった。


耳元で聞こえたのだ。

『いたくない』

『よかった』

『ララ、ぼくらの可愛い子』





 キラキラとした小さな光の粒子が、ララの周りでよく見られているのは、この屋敷で生活する者にしてみれば、日常茶飯事であった。


『ララ、ララ!きょうは、どこへいくの?』

『ララ~おなかすいたよ~』

『ララ!えほんよんで~』


 耳元で繰り広げられる賑やかな会話に、ララはふんわり笑いながら答えた。


「今日は、王都へ行っていたお父さまが戻ってくるのよ。みんなと遊べないわ」


 ごめんね、と謝れば、光の粒たちはぎゃぎゃー怒り出す。

光の粒…魔力がとても高い人には羽の生えた小人のような姿でが見え、一般的には妖精と呼ばれているのだが、その妖精たちは、抗議しながらもララの周りを飛び回る。でもこれも日常茶飯事だ。妖精は気まぐれ。すぐに窓の外の小鳥や虫に興味をうつし、ふわふわ飛んでいく。 

 ララはそのまま帽子を手に、領地の奥にある森へ向かった。


『ララだ~』

『あそぼ~』


 木漏れ日がきらめくほかに、妖精たちが集まってくる。妖精たちはララの周りを飛んだり、肩や頭の上に乗ってララに遊んでもらおうとしている。


「みんな今日も元気そうね。でも残念ながら一緒に遊べないの。お父さまが大好きな木苺のパイを作るから、摘みにきたの」

『おとうさま~』

『ぱい!』

『ララがつくるの?』

「料理長と一緒よ。分量とオーブンは命取りって教えられたし」



 ララは、邸の料理長の顔を思い出す。ふくよかな体躯は、世界の味をため込んだ証拠だ、とよく言っていた。


 ララは、プレネス王国の東に位置するアカシア辺境伯の長女として、のびのび育てられている。辺境伯というだけに、騎士の姿も多くみられるこの領地は、平民も騎士も皆力を合わせて生活している。それも歴代アカシア辺境伯の人柄ともいえよう。

 初代アカシア辺境伯は、身分だ階級だ派閥だ…そういったしがらみにうんざりし、辺境伯の地位を賜ったとされている。国の防壁としての役割を持つこの領地は騎士団の駐屯地もあり、その家族も暮らしている。そういった人の下にはそういった似たような性質の人が集まるのか、アカシア辺境伯はおおらかな人が多かった。

 ララも貴族令嬢として育てられはしたが、万が一のことを考えて身の回りのことは一人でできるようにしている。現在料理に挑戦中だった。


 父であるゴードン・アカシアは辺境伯でありながらも騎士団駐屯地のトップを任されているが、割と寡黙で大柄で筋骨隆々な人であった。だが、その見た目とは反対に、甘い物が大好きなのだ。


 この度領地や騎士団の報告、王都の邸での仕事も相まってひと月程領地を離れていたゴードン。

その父が帰ってくるとなれば、父の好きな物を作ってあげたいのが娘心であろう。ララは最近覚えた木苺のパイを作ろうと思い、仕上げに使う木苺を摘みに来たのだった。


『ララのおかし、おいしいからたべたい』

「今日は王都からお客様も来るって話だから、たくさんは準備できないかも…落ち着いたら、ね」


 妖精たちは、残念がりながらもララと一緒に木苺を探すのを手伝ってくれている。のほほんとしたやりとりに、時間はあっという間に過ぎた。



 ガサガサ…ふと近くで草を踏み分ける音が聞こえ、ララはぱっと顔を上げる。



「あれ、ララ。どうしてここに?」

「アレックス殿下…お久しぶりです」


 ララは座り込んでいたスカートを手直しし、淑女の礼をとった。


「畏まらないで。今日は私用で来てるから」


 アレックスは小さく片手をあげ、後ろにいた護衛が控える。

アレックスはプレネス王国の第二王子であった。御年14歳ではあるが、勉学や公務の合間を縫って、行ける範囲で国中を視察している。

 ララの父であるゴードン・アカシアは辺境伯として国の騎士団の中枢ともいえる人物。アレックスは幼い頃から視察としてアカシア領を訪れ、時折剣術や体術の指南をうけていたのだ。

 王族と辺境伯の娘と身分差はあるが、アレックスの好意で仲良くしてもらっている。


 アレックスはララが座り込んでいた場所の隣に腰を下ろした。考えあぐねるララに目くばせし、ララも座る。


「ゴードンが領地に帰るっていうから、無理言ってついてきたんだ。ゴードンは先に駐屯地に寄るって」

「そうでしたか。アレックス様もお元気そうで」

「ああ。毎日剣術体術勉強公務…忙しいよ。だから、アカシア領へ来るのは半年ぶりかな。そろそろ行こうと思っていたから。ここは騎士団が元気で、領民も活気があって良いからね」



 そう言ってアレックスはララの鮮やかなブロンドに手を伸ばした。ララはアレックスの手の動きをぼんやりと見つめる。整った指先は、剣術や体術の指導を受けてか、少し傷が見える。


 指先は前髪で止まり、何かをつかんだ。どうやら小さな木の葉が髪についていたらしい。ララがアレックスを見やると、アレックスの碧の瞳が細められた。なんだか照れくさくて、ララも曖昧にほほ笑む。


『あー!でんかだ!』

『ひさしぶり!』


 さすが気まぐれな妖精たち。アレックス一行に気づいて、急に騒がしくなる。

妖精たちは喜怒哀楽の表現はもちろんあるが、基本的に喜と楽だけで生きているようだった。多少怒ったりはするようだが、彼らが本気で怒りの感情をあらわにすることは、世界の危機を意味するとも聞いている。


「そうだった。ここには君たちもいたんだった」

「さっきまでは木苺を摘むお手伝いをしてくれていたんです」


 アレックスは指先に座る妖精を見つめる。

妖精は、誰にでも見えるものではなかった。


 人間には多少なりと魔力が備わっている。その潜在的な魔力をもとに妖精の力を借りて、生活に必要な魔法を使ったり、治癒魔法を施したり、戦になれば攻守の魔法にもなる。その能力値は個々の魔力量にもかかわってくるのだが、魔力の量が多いからといって、力の源である妖精の姿をとらえることは難しい。王都ではこのように人型になっている姿で見たことはない。あたたかな光の玉が浮かんでいるだけだ。ましてやこのように会話するなど。


 アレックスは、妖精と談笑するララを見つめた。彼女が妖精の愛し子であることは、アカシア辺境伯夫妻と邸の関係者、騎士団駐屯地の上層部と、王家だけが知っていた。

 愛し子は、この国の誉れである。妖精たちと意思疎通ができ、悪く言えば自分のいいように従えてしまうことができる。きまぐれな彼らをだ。妖精たちは愛し子を大切にする。愛し子に尽くそうとする。それを悪いように扱ってしまえば…一人のために妖精の力を使えなくすることもできる。世界を我物にだってできるのだ。


 この国では、愛し子の存在はかならず国に報告し、保護することに決まっている。現在確認されているのは、高齢の女性と、ララの二人である。愛し子が生まれる確率も場所も不明である。さすが気まぐれな妖精。


 そしてふと、アレックスは気づいた。目の前に座るララに、ぐっと近づく。


「ララ、君はまた護衛の一人もつけずに森へ?再三危ない・危険だって話をしたよね?いくら騎士がその辺にいるからって、若い女の子が一人で歩いていて危険がゼロではないんだよ?」

「う…すぐ戻るつもりでしたの。それに、もしものことがあれば妖精たちに助けてもらう手立ても考えていましたし…わたくし、こう見えてじゃじゃ馬ですのよ。走って逃げることだって、」



 できる、と続けた声はアレックスの手がララの腕をつかんだことで消えた。


「こんなに細腕で、きっと力をいれるとすぐに折れるよ。君は女の子なんだ。もう少しちゃんと自覚して」


 ララの腕をつかんでいたアレックスの手は、そのまま滑るようにララの手を握り、きゅ、っと指先を絡めた。

 言葉にならない声をなんとか押し殺し、ララは殿下を見つめる。



『でんか!』

『でんかがララとなかよくしてる!』

『いいな~』


 どこからともなく表れた妖精たちが、若い二人の上にどんどん重なる。妖精たちはほとんど重くないものの、こんなに密集されては圧迫感がすごい。そしてこの領地にはこれほどの妖精がいたのか、と改めて実感してしまうのだ。



「ララ、君には最強の守護者が多すぎる」





護衛達「自分は空気である」

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