魔王の四天王って言っても、実は仲間欲しいって思うこともあるのです
負けた……
勇者に渾身の一撃を止められ、俺は首を飛ばされた……
意識が朦朧とする。あっ、死んだな、俺。うん、死んだわ。そう観念した。
ん? なぜか目蓋が明るいぞ? 目をそっと開ける。すると自分が商店街の道端で倒れていることに気づく。俺は生きているのか? そしてここはどこだ? 魔王軍には商店街なんてなかったぞ? と思うと周りには人間共が歩いてる。どうやら、ここは人間の街みたいだ。
「忌まわしき人間どもめ、殺してやる」
こういって、呪文を唱えた。しかし、何も起こらない。その時、鏡に写る自分の姿を見た。なんと、自分は人間の姿をしているではないか!
「どういうことだ……」
五分くらいそこに座り込んだ。五分かけてたどり着いた答えは、自分が人間に転生したのではないかというものだった。
「有り得るのか……?」
だが、こうなった以上は人間としての人生を思う存分楽しもうと決意した。切替の早さって大事だよね。
「待てよ。俺が冒険者になったら魔王軍の弱点を知ってるから無双出来るのではないか?」
ふと思いついた考えがとてもしっくり来た。とりあえず、冒険者となるためにギルドに行くことにした。
ギルドは探せばすぐに見つかった。
「冒険者になりたいです!」
美人な受付員に向かってそう言った。
「はい。では、あなたの能力を調査しますね。能力のランクはS〜Dまであり、種類は体力、防御力、魔力、物理攻撃力、すばやさがあります」
「おう。頼んだぜ」
「では、この魔法陣の上に手を置いて下さい」
言われるままに手を置いた。すると受付員は俺の能力のランクを紙に記録していった。
「すごいです……すばやさがB以外、全部Sです!」
よっしゃと握り拳。けど、当然といえば当然だ。なんて言っても俺は魔王軍の四天王だったのだからな。
「じゃあ、俺は剣士かつ魔法使いになる!」
「分かりました。あと、失礼ですが、お名前をお願いします」
えっ? 名前? そんなの考えてなかった…… 四天王の時はバアル様と呼ばれていたが、人間の名前など知らん。俺はとっさにバアルから発音が近いパールという名前にすることにした。
「パールです!」
こうして、俺は冒険者パールとしての旅が始まることになった。
まずは、ギルドに貼られてある依頼を受けていくと思い、依頼一覧を見る。とりあえず値段が高そうで簡単に終わりそうなのは ’オーガの討伐’ だった。早速、依頼を引き受ける申請をして、許諾が降りたので、討伐に向けて、’彷徨いの森’ に行く。オーガを1匹倒すだけで報酬が1万ルピ貰えるなんて割がいい。商店街を歩いた感じだと1万ルピあれば宿に二泊は出来るだろう。
ギルドから歩くことに20分。やっと彷徨いの森に着いた。オーガを見つけるために彷徨いの森を進んでいると
「こっち来ないで……だれか、助けてー!」
と、叫ぶ少女の声が聞こえた。その方向を見ると、オーガが少女を襲っている。なるほど、オーガは基本何回も再生する。だから、人間共はオーガを再生する前に倒さないといけないと思っているらしく、オーガはかなり強い魔族という認識らしい。少女は魔法使いなのだろうか、杖から氷を連射してる。しかし、オーガは再生を繰り返し、少女の魔力は減る一方だ。
「尻尾だよ、尻尾」
俺はそう言って、オーガの尻尾を剣で切り下ろした。
オーガは俺を睨んでくる。俺はすかさずオーガの腕を切った。
「オーガは尻尾を切ると、尻尾の再生を優先する。そして、尻尾の再生は時間がかかるんだ」
そして、俺はオーガのもう一本の腕も切り下ろし、抵抗が出来なくなったオーガの首を切った。
オーガはかなり小さい尻尾が生えている。人間どもはそんな尻尾などどうでも良いと思い、普通は切らないから尻尾がオーガの弱点だと知らないのだ。オーガを飼い慣らしていた四天王の俺様だから知ってることだ。
「あの、ありがとうございます。私は最近、冒険者になったばかりでチームなども組まず、1人で依頼をこなそうとしたのですが、力不足で……」
見れば、顔立ちが整っている少女だ。
「ふっ、お礼など要らないぜ。人を助けるのに理由なんてないからな」
人間になってみたら一度は言ってみたかった決め台詞ナンバー3に入るセリフを言ってみる。かーちゃん、俺、今、決まってるぜ! 謎の自己陶酔が全身を走る。まあ、もっとも、少女を助けるよりもオーガ討伐が本来の目的であるのだが。
「いえ、本当に感謝してもしきれません。私の名前はアリスです。あの、お名前を教えて頂けませんか?」
「バア…… パールだ」
危ない、危うく四天王の時の名前を言うところだった。
「パールさんですね? あの、パールさん、もし良ければ私をあなたの仲間にしてくれませんか?」
仲間か。俺は手下はたくさんいた。しかし、仲間と呼ぶ存在ではなかった。というか、正直、人間の仲間やその友情に憧れていたりしたのだった。うん、悪くない。
「おう、良いぜ! よろしくな!」
こうして、俺はこの少女アリスと旅することになったのである。