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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あの世タイムズ取材特集

「人って割と簡単に死んでしまうんですよ。」


彼はポツリと我々に語った。



今回の「あの世タイムズ」の特集は「自殺」。

我々は、ある自殺者から当時の話を聞くことができた。





「なんで自らの命を絶ったかって?……う〜ん……まあ、単純に、生きてるよりも死んだ方が楽かなと思ったからですね」


彼は苦笑しながらそう答えた。


彼は数週間前、あの世にやってきた。享年17。死因は自殺だ。


「芥川龍之介が自分が死んだ理由について、『将来に対するぼんやりとした不安』て言ってた、ていう話がありますけど、まさにそれなんです。もう将来が不安でならなかった。」


彼は友人関係もうまくいかず、孤独だったという。


「小さい時はそうでもなかったんですが……小学校の時とか。でも歳を重ねるにつれて、なんか新しい環境に馴染めなくて。


自分だけ感覚がズレてたんでしょうね(笑)。周囲と違う『異物』は排除される。これが僕の生きてた世界の仕組みです。


友達がいなかった訳ではありませんが………その友達も僕みたく周囲から嫌われてました。何をしたのか知りませんけどね。


まあでも、自分の知らぬ間に人から嫌われることなんてあの世界ではざらにありますよ(笑)。

みんな違ってみんな良いとか十人十色とかそんなこと誰も本気で信じてません。まやかしです。人間てそこまで寛容じゃないんです。」


人間関係が自殺に繋がったのか?


「それだけじゃないです。それだけだったら自殺なんざしません。

なんかこう………生きてくことに自信をなくした、ていうのか………おそらく自分は生きていても楽しくはないだろうなと。


『人間の価値はテストだけではないんだ』て言いますよね。僕にはそのテスト以外の能力がなかったんです。

最近、あの世界ではテストの点数のみで人間を見ようとはしなくなってきた。テスト以外のこともできないと評価してもらえないということです。


僕は、テストていうのは一番平等な評価の仕方だと思うんです。単純に暗記したり計算するだけ。

でも、それだけではダメだという話になった。そうなると、僕のようになんの能力もない人間は評価されないんです。


評価されないということは、あの世界では活躍できないということです。

人生で一番楽しいのは自分が活躍している時間、そして、自分の活躍が人の役に立っている、必要とされていると感じる時間です。それが味わえないだろうなと思った時、生きることから逃げようと思ったんです。」


彼の口ぶりは、とても自ら命を絶った後とは思えないほどハキハキとしている。


「自分から命を絶つくらいですから精神状態は普通ではないですよね………でもだからと言っていつも暗い気持ちでいるかと言えばそういう訳ではありません。むしろ僕は周囲から『明るい人』と思われてたと思います。

だから学校の先生とかも、僕が周りと馴染めずにいても特に心配はしてくれなかったですね


ある程度のレベルまで心が堕ちるともう周りに構ってほしくなくなるんです。一人で落ち着いて考えたい。他人の言葉を聞く前に自分の中で整理しようと。

だから他人に心配もされたくないんで気丈に振る舞うんですね。


それに、『世間』に負けたくなかったっていうのもあります。押し潰されるものかと。笑い飛ばしてやろうと思って明るくやってました。やけくそってやつですね。


ただ笑い飛ばすのが無理だと分かった時、もう押し潰される以外に自分の運命はないと思った時、僕は死を選ぼうと思いました。

世間に押し潰される前に、いっそ自分で潰してしまえと。まだ自分で潰す方が楽だと思ったんです。」



周りに相談などはしなかったのだろうか。


「一応、僕なりには『相談』はしたつもりです。先生とかに。でも向こうは『相談』と受け取ってくれなかったのかな………まあ、『明るい子』てことになってたんで(笑)。あまり真剣には受け止めてくれませんでした。大人達は僕の苦しみを『成長する上での糧』とか『若い時は悩むくらいがちょうどいい』とか思ってたんでしょう。あんまり『相談』には効果がありませんでした。


先生がダメとなると、他は友達とか親ですけど、ここらへんには相談なんかできません。


友達なんて自分と同じくらいの歳で僕と同じように悩みながら生活してます。とても僕の話なんか聞く余裕はありません。


親はもっとダメです。親には心配かけたくなかったので………それに、親は僕のことを公平な目で見てくれませんから、あんまり意見が参考にならないんですよね(笑)。


まあしかし、もう自殺するかしないか、ていうところまできた人間に対して、適切な言葉をかけてあげることなんて専門家でもない限りできないんだろうと思います。命かけてきてる人間に対してテキトーなことは言えませんからね。」


彼はなぜ「命をかける」ようになってしまったのか。


「自分でも、どういう経緯で『自殺』を意識するようになったのかよく覚えていません。


僕くらいの歳になると、みんな将来の進路とかについて考えるじゃないですか。僕の場合、その進路の選択肢の中に、『自殺』があった訳です。それだけは言えると思います。


僕は基本的に意地っ張りで負けず嫌いなんです。


ただ、『命』という事象については考えに考え抜きました。今生きている喜び、自分を育ててくれた親、自分の未来、そして、それが今周りから粗末に扱われている現実………


そして考えに考えた挙句、自分のことを理論で武装してくんです。


そうなると、もう他人のチンケな言葉では自分の意思は曲がりません。そこに、『命』を巡る葛藤がないからです。」


他人のチンケな言葉………?


「よく、自殺を止める文句とかありますよね。『死んだらそこで全部おしまいだぞ』とか。でもそんなの全然響かないんです。多分、いざ自殺する、なんてこと考えたことないんだと思います。


こっちは『全部おしまい』にしたいから自殺するんです。もう、全部に絶望してますから。


『これからの人生もっと辛いことはいっぱいあるんだ』なんて言われた時は、さらに自殺の意思を固めましたね。今こんなに辛いのにこれから先もっと辛いなんて………生きてく自信をなくしました。


はっきり言うと、『自殺』を本気で考えたことのない人間の言葉なんてそのへんのホコリよりも軽いもんです。」


自分が自殺した後のことを考えたことはあるのだろうか。


「当然考えました。当たり前ですよ。自分という存在が消えてどうなるのか、興味はあります。

親にはとても申し訳ないことをしたと思います………ごめんなさい(彼はここで涙ぐみ、ハンカチで目を拭った)………本当に苦渋の決断だったんです。やっぱり最後まで気になったのは親でした。


逆に友達に関しては、逆に僕が消えても何にも影響はないだろうなと思いました。生前あんなに冷たかったのに死んでからあーだこーだなんて………さすがに…ね。本心では僕のことなんか何とも思ってないんですよ、連中は。

ただ先生は大慌てでしょうね。生徒が自殺しちゃった訳だから。もう少し真剣にとりあげるべきだったと後悔してるでしょうね。」


最後に、「自殺」というものについてはどう考えているのか。


「本当に難しいところとは思いますが………自殺は好ましいことではありませんし、ない方が絶対にいいと思います。自殺した僕が言えたことではないとは思いますが、僕みたいにこんな悔しい思いをする人が少しでも減ればなと思います。」





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