第二話 決意の風
思えば遠くへ…………来ても居ない;
今思えば……_(:3 」∠)_
そこに居たのはゴブリンであった。俺たちの見間違いでなければ。
肌は茶色く髪らしき物は見あたらない。そして背は高く筋肉質。
身につけている物と言えば深緑色の腰布ぐらいで、手には大きな戦斧を持っていた。
俺たちが最後にスミレを見たのは、そんなゴブリンの影に隠れてしまったところまでだった。
「きゃあ――っ!」
目を、背けた。俺たちは皆、見て見ぬふりをした。
妹のように可愛がってきた彼女がいなくなるのをないものとしたのだ。
それっきり、スミレの声は聞こえなくなった。悲鳴も何も、息遣いさえ。
「手間掛けさせやがって」
くぐもった様な声が聞こえて、それからゴブリンは去っていった。
彼女のことをなんとも思っていないような響きだったにもかかわらず、俺たちは何も思えなかった。
見捨てた、俺たちごときが。
「……行ったみたいだ、な」
俺たちの中で唯一見ていたムギが言う。弾かれたように視線を向ければ、さっきまでスミレがいた所には何も立ってはいなかった。
でも、木が邪魔でよく見えない。もしかしたらという期待が俺たちの足を急かした。
「スミレは?!」
そのまま勢いに乗って走り出す。
淡い期待を打ち砕くようにそこには、無惨な物が転がっていた。何となく分かってしまった。それは多分、元はスミレだ。
目を見開いたまま、口を大きく開けたまま。苦悶と悲しみに満ちた表情で。
誰が見ても死んでいるのが分かる。さっきのあの時、やはり殺されたんだ。
「何なんだよ。何で」
理解したくないものを追い出すかのようにシャガが言った。
皆も声に出さないまでも同じことを思っているようだった。
ふいに、アサガオとヒルガオが泣き出す。冷静沈着なムギも、どこか取り乱すように泣いていた。
いつもふわふわしていて何を考えているか分かりづらいタンポポだって。
俺だって、泣きたい。それなのに涙の一滴も出てこなかった。
「知らないよ!辛いのはさ、あんただけじゃ無いんだから!」
いつもはにこにこ笑っているヒマワリが珍しく怒鳴った。それこそさっきのゴブリンといるであろうその仲間に見つかるかもしれないという危険性を知っていながら。
そんなヒマワリの目にも当然のことながら涙が浮かんでいた。その中には深い悲しみと湧き出すような怒りを感じる。
「つらいのは……あんただけじゃ…無いんだから」
魔王がいることは知っていた。
手下の魔物たちの事もよく知っていた。
都会がねらわれているのも知っていた。
ここは大丈夫だと思っていた。
田舎なんて襲わないと思っていた。
考えが甘かった。
大丈夫なんかじゃなかった。
ここだって世界の一部なんだ。
いつかは狙われることも目に見えていた。
もっと修行をしていれば……みんな…助かったのに。
後悔なら余るほどしている。
何で、何で!
俺が甘かったんだ!
「大丈夫。あなたのせいじゃないから、シオン」
コスモスがにこりと笑って言った。
自分だって悲しいのに。
言葉自体は短かったし、特別な意味が込められている訳じゃなかった。
けど、嬉しかった。
元気づけられた。
後悔が無くなったわけでもない。
ましてや村が元通りになったわけでも。
でも、俺にはまだ仲間がいる。
みんなの方をみると笑いかけてくれた。
さっきまで泣いてたアサガオとヒルガオも。
みんなの目の奥はまだ泣いていた。
なのに元気づけてくれた。
もう、こんなふうに悲しむ人は見たくない。
魔王を倒す。そう決意した。
更新しきれてないですん……_(:3 」∠)_