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Road of Braves

作者: 白屋 吟

初投稿です!!///

 ――勇者とは、不可能を可能とし、人々に希望を与えし者である。

「それ以上は危険だっ! 戻ってこい」

 仲間からの声が届いてもなお、僕は前へと進み続けた。ここは雪山で、あたり一面白銀の世界に覆われている。対して身にまとっているものと言えば、辛うじて布一枚という極寒の極限状態である。動かす手足はすでに感覚が麻痺していた。

 それでも僕は、止まれない。例えこの足がどうなろうと、踏み出さなければならないのだ。自身の願望のため、また背にした戦友たちの期待に答えるためにも。この体はすでに自分ひとりだけのものではないと言っても過言ではなかった。

 繋いで見せる……皆が託してくれた、この《道》を。

「辿り着くんだ。僕らの理想郷(ユートピア)へ……ってやっぱもう無理ぃいいい‼」

 だって寒いんだもん。僕は踵を返して走り出すと、そのまま勢いよく湯気立つ温泉へとダイブした。熱々の露天風呂である。

「山田ァ! あともうちょっとで俺らの理想郷(女風呂)だってのに、畜生!」

 見守っていたクラスメイトたちから溜め息が漏れる。少しは労をねぎらってほしい。僕だって残念でならないのに。

 深々と降り積もった雪をバックに、そう、僕らはNOZOKIをしていた。

 高校二年の冬、九州の片田舎に通う僕たちの学校は、スキー研修という名目で北海道に修学旅行に来ていた。昼間のスキーは慣れないながらも楽しく、夕食に北の海の幸を堪能していざ温泉で疲れをとろうかというとき、サッカー部の鈴木が切り出したのだ。

「そういえばウチの部の先輩が言ってたんだけどよ……」

 与えられし神の啓示によれば、男女の露天風呂は中庭の角を挟んだところで繋がっているとのこと。その後、クラス男子の対応は早かった。唯一の反対勢力であった学級委員長の小野は、サウナ室に連行されている。

「曲がり角まであと十数メートル、少なくともあと二人は必要か」

 そう呟いたのは肩までお湯に浸かっている頭脳派の岡本だった。クラスの英知を結集させた作戦はこうだ。中庭には五〇センチ歩ほどの雪が積もっている。それを一人ひとりローテーションで掻き分けながら進み、道を作っていこうという算段である。「One for all, All for one」一人はみんなのために、みんなは一人のために、つまりそういうことだ。

 ちなみにタオル一枚で雪に触れると肌が寒いというかむしろ痛い。湯船につかっている今でもけっこうヒリヒリする。

「おい! 義夫が角まで到達したぞ!」「マジか、どんだけ見たいんだよあいつ……」「勇者かよ」「おい次のやつアップ始めとけ」

 頭脳派(笑)の岡本の予想は外れた。野球部の義夫君が思いのほか頑張ってくれたようだ。弓道部の東が一射を放つ直前のような緊張感のある面持ちでスタンバっている。

「たまにはこうゆうのも、悪くないかもな」

 誰がどう見ても犯罪行為なのは言い逃れようもないが、しかし今だかつて、ここまで僕たちの心が一つになったことがあっただろうか? 目的を達成するに越したことはないが、この奇妙な連携プレーに満足感を覚える自分がいる。

「何ちょっとニヤついてんだこのむっつり野郎。気持ち悪い」

「サウナ室ぶち込むぞてめえ」

 そのときだった。内風呂から裸の大男が姿を現し、賑わっていた露天風呂は瞬時に氷点下まで冷め渡った。当然ながらイエティではない。

「お前たち、風呂場では騒がないようにと言ってあっただろう。ん、何をしている?」

 担任の武田先生だった。夜の雪山に、一際大きな「バッカモーン!」がこだました。

(終)


※良い子はマネしないでください。

公共の場でのNOZOKIは条例により、一年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科せられる場合がございます。


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