表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/23

社会背景と開始前評判

夢のマイホームならぬ、マイキャッスルを建てることも。一戸建ての城主だ。

姫路城だって、ノイスヴァンシュタイン城だって、某配管工のク○パ城だって、<生産系スキル>で想像のままに創造できる。


生産職プレイヤーになりゲーム内で財を築くことで、リアル世界でも億万長者になれる。

まるで黎明期の動画投稿者のように。

たった一月で億単位を稼ぐ、凄腕生産プレイヤーも存在する。

彼らも好きなことをして、生きている。


病気の心配などがない工業製品の栄養完全食(ファクトリーフード)が、安定的に供給される現代。

食の探求は金持ちの道楽、自ら不健康になるのは無駄金の浪費とされた。

――そんなブルジョワジーでも思わずうなる、極上の霜降りステーキのような美味なる食をも探求できる。

しかも、仮想現実の世界は公平で、庶民でも誰でも味わうことができる。


ドラゴンを【従者契約】でペットにもできれば、NPCと【従者契約】をしてリアルギャルゲーも。

一つの生命を……魂を、人工的に創り出したとされるアンリミテッド社の技術力。

人工知能で産み落とされたNPCと、生涯の友になることも、師弟関係になることも、好敵手になることも……恋仲に落ちることも。

もちろん、男子が夢にまで見るあのメイドの雇用だって【従者契約】できる。


ここでは、才能は二の次。

もちろん大事だが、才能が一番じゃない。


ゲーム時代の到来。

日本という島国はゲームにより生まれ変わり、狂い、成長した。


日本にいる人間のうち3人に1人がVRゲームに没頭することとなる、世界的大ムーブメント。

世界は日本のゲームを中心に動き出す。

神経互換VRMMOは、日本を理想郷へ変えた。


ゲーム内で魔物を倒す。

ドロップするのはアイテムと通貨のG。

その得られた通貨は―――なんと、電子マネーとして現実でも使用できる。

諸外国の民は妬み、日本を「娯楽の監獄」と揶揄した。



◆◇◆◇




2030年代、人間はビックデータに支配された。

2040年代、人間はAIに追いつかれた。

2050年代、人間は現実世界を抜け出した。


人は産まれた地点で、その生涯のほぼすべてが決まる。

DNAや脳波から読み取った才能適正は、70億人以上のデータに基づいた正確なもので、人はそのデータに沿って行動を起こした。

天職をデータによって選ぶことができ、それはほとんどが成功する。

もちろん、それに従わない者もいる。だが、その道はまず叶わない。



好きなことで生きていく時代から、得意なことで生きていく時代になった。



産まれ持った才能こそが、人生を左右させる。

どの親の元に生まれるか、どんな家に生まれるか。

産まれたときに全てが決まる。


まるで、ロールプレイングゲームのNPCのよう。

決まった「職」で一生を過ごす。


人によって先天的に「村人」になるか「勇者」になれるかが決まっているようなものだ。

一種のガチャであり、その人生を少なくとも120年間生き続けなければならない。


人生の成り上がりイベント、出世や結婚だってそうだ。

それすらも過去のデータに基づいて、最適解が算出される。

出世するべき人物は出世し、結婚するべき相手すらも最適解が「データ」によって決められる。


だからこれも既に決まっていること。

人生は自分で歩いているように見えて、実はデータに操られている。

データの赴くままに流される風見鶏のように、人はされるがまま、なされるがまま。


AIの進化が人間に追いついたときは、シンギュラリティが起こった。

データによる天職がAIと被る者は、人生がいばらの道となった。


AIの発展は少数の者に恵みを、多くの者に破滅をもたらした。




◆◇◆◇




2030年代後半、第三次世界大戦――「World War Ⅲ」が勃発した。

といっても、祖父が昔してくれた話はこうだ。


進歩しすぎた科学技術は、戦争を高度にしすぎたらしい。

頭上で行われる制空戦は日常に溶け込みはじめ、ひと月も経てばそれが当たり前になった。

「今日もお空が騒がしいわね」という言葉を祖母は朝食の味噌汁を煮込みながらよく言っていたらしい。

民間人には、言葉の通りの「上の空の出来事」だった。


某国の放った大陸間弾道弾を、駐屯米軍の迎撃ミサイルが撃破する毎日。

市民に一切の被害は無く、爆発音に驚いた老人が階段で足を滑らせてねん挫した程度。

ただの無意味な撃ち合い。

夜に寝るには少々うるさいものの、言ってしまえば花火が鳴り響くようなもの。

社会人が悩まされるのは睡眠不足で、それが国民がこうむった一番の被害だったとか。


半年すれば講和条約が結ばれ、結局血を流したのは国の財務省くらい。

もちろん本当に流したわけでもない。


戦争の意味が問われるようになった。

殺し合いもせず、領土も一切拡大されない。

関わった全ての国が資源を浪費しただけの無意味な戦争だったそうだ。

歴史は繰り返す。

が、世界が繰り返すことに飽きてしまったみたいに何も生まない結果になった――いや、一つだけ。

一つだけ、大きく発展した。


科学技術の発展は戦争のおかげってよく言うけど、今回得た技術は大きかった。

戦争は良くない。よくないというより、許されない。

絶対に戦争なんてやるべきことではないし、断固として反対している。

だが第三次世界大戦にだけ関していえば、誰も死んでいなかった。

死人がいないのだから、不謹慎でもない。

戦争をしてプラスになったことがあったのだ。


――仮想現実の実現化。

現実の世界を、電脳世界に再現し、その中で何億回ものシミュレーションを行う。

時に、現実の人間の記憶をコピーして、電脳世界内に人造人間を生み出したこともあったそうだ。

どんな技術も軍事のために産まれるというが、この発展は日本を大きく変えた。






2060年の発売以降、急激な人気の上昇に、何もかもが追い付いていなかった。



昔の日本でも、スマートフォン向けAR機能搭載のアプリが大流行して、社会問題にも発展し、教科書に載るほどの事態があった。

公園には、スマホ片手に徘徊するプレイヤーが深夜まであふれ。

名所と呼ばれるポイントには路上駐車で道が埋まった。

そして規約は厳しくなり、歩きスマホの禁止条例、運転ながらスマホの厳罰化ができた。

とくに後者は交通事故で死人が出たこともあったせいらしい。


ゲームで法律が変わったのだ。


技術の進歩で法律が変わる例は、他にもある。

ドローンを皇居に飛ばした事例だってあった。


このDWSでもそうだ。

重度のゲーム廃人か、現役のゲームライターでもない限り、ここまでの熱狂の渦に世界が飲み込まれるなんて予想していなかっただろう。

拡大広告ならぬ拡小広告とネタにされたCMは、全世界を駆け巡った。

日本でしかサーバーに接続できない制約があるため、海外から多くの移住者が押し寄せた。



◆◇◆◇



はじめは些細なことだった。

eスポーツの波も手助けして、賞金制の大会のSNSやネット掲示板で非公式ながら開催され始める。

ゲーム内の世界は、現実世界に侵食していく。

ゲーム内通貨『G』は現実の貨幣――日本円よりも価値が高くなり始めた。

リアルマネートレードがシステム的に不可能の中、仕様の穴を突く方法が生み出され、可能になってしまう。


そこで運営が追加した機能こそが……僕たちの夢の現実化、ゲームマネーの現金化と、現実物品還元だった。

1G=1円のレートで交換が可能に。

大手インターネット販売会社『樹海』でのゲーム内通貨が使用可能に。


後者は巨大複合企業、コングロマリットであるアンリミテッド社だからこそできた手法だった。

このサイト、日用品から住宅まで、ありとあらゆるものがそろっている。


……言い換えれば、ゲームをすれば稼げるのだ。

本当に好きなことをして、現実で生き抜くことができる。

昼間はファンタジー世界を冒険して、夜はネット通販で届いたふかふかのベッドで眠る。

一日中ベッドの上で寝転がっているだけでいい。睡眠欲は満たされ続ける。

そんな夢の生活が、この娯楽理想郷、日本でできるようになったのだ。


さらになんといっても――この仮想現実の中なら、五感の一つである味覚を活かして、人間の三大欲である「食欲」を満たすことが出来る。


正確には、脳に「甘い」だの「辛い」だの信号を直接送り込むだけのことで、実際に腹が膨れるわけではない。

腹を膨らませる食事は、これまたアンリミテッド社が開発した完全食ファクトリーフードがある。

第一次産業が衰退した今の時代には、栄養食で腹を持たせるのは当たり前のことだし、食の追求なんて庶民は忘れていた。

道楽としての食事なら、この仮想現実の世界で味わうのが一番効率が良く……何よりいくら食べてもおなか一杯にならない。

もし現実で美食を味わいたいのなら、先ほどの『樹海』で取り寄せればいいだけだ。


言わずもがな、三大欲求の三大目――「性欲」だって、年齢制限付きで満たせる。詳しいことは語らないが。


人間の三大欲求も満たせて、仕事として成り立ち、MMOなので大勢の人間とも関われて、成功すれば尊敬もされる。

最高のゲームだった。




株式会社アンリミテッド・ユナイテッド。

俗にアンリミテッド社と呼ばれる、日本を代表する超巨大企業が台頭し始めたのは、西暦2020年頃。

元はバイオテクノロジーを専門とする研究機関であり、日本の深刻な食料問題を根こそぎ解決したことで、その名が世界に轟くこととなった。


日進月歩とは、まさにこのこと。

アンリミテッド社はこのゲームの開発にあたって、3つの技術を集結させて作り出した。


この私達の地球の進化の過程を、イチから計算上で擬似的に再現する、電脳世界【ラプラス】を用いた理想郷の作成。

それは国を上げた国家プロジェクトにまで発展し、国外にも大きな反響を与えた。


そして、自律思考型人工知能の開発。

倫理観の問題で懸念もあったが、それでもアンリミテッド社は遂に完成させた。

人と同じように、『生きる』人工知能だ。


最後に、人間がインターネットの世界に入り、五感で疑似体験できる『VRヴァーチャルリアリティ』の開発だ。

脳へただ直接、電子信号を送っているに過ぎないのだが、安全性をクリアしての実用化は不可能に近かった。

だがアンリミテッド社に限界はなく、それすらも可能にした。


それら全ての集大成が、このゲームだ。

これはゲームではなく、ただの世界そのもの。

それがこのゲームだ。


この世界で起こるあらゆるイベントは、ただの『現象』に過ぎない。

現実で地震や火山の噴火が起こるように。

自然現象として発生するもので、どうしようもないものとして捉えられている。


だが、世界が革新するターニングポイントになるには、充分すぎるほどの天災であった。


世界はここに来て、変わろうとしている。



◆◇◆◇



『世界を救ってくれる勇者様、大募集中です!

 アットホームな環境で、国民が笑顔いっぱいで暮らしています。

 未経験者、初心者も大歓迎!

 魔物を倒し尽くすまで、しっかりとサポートします!

 ここではあなたが主人公です。

 この世界に脇役はいません。

 全ての自由が保証された世界で、あなたも英雄になりたくはありませんか?』


 最初は誰もが驚いた。

 いや、このキャッチフレーズが、いかにもブラック企業のようなところじゃなくて。


 なぜなら、実現は出来たとしても、まだ当分先だと言われていたから。


 人間の体は脳からの電気信号によって動いている。

 じゃあその体ってのは、電脳空間内の(アバター)でもいいんじゃないか。


 ただそれを実現するまでが長かった。

 いや、長いと思われていた。


 アンリミテッド社による完全没入型VRの開発は、人類の歴史に爪痕を残すのに充分な功績を作った。


 仮想現実。VRヴァーチャルリアリティ

 そのおかげで医療技術は進歩し、人間の平均寿命は10年延びた。


 だれもがその技術を他に応用する期待を抱いていたが、国の最高機密事項という事もあり、娯楽に生かす日はなかなか来ない、と言われていた。


 だがここでまた、アンリミテッド社が裏切った。

 いい意味で、だ。


 この技術をこれまでの創作物のごとくゲームに応用することにしたのだ。

 その発表は世界を驚かせ、瞬く間にニュースや新聞はVR一色となった。


 日本は、特にその手の小説やアニメを見てきたものは、それはもう歓喜した。

 なんたって、夢に見たフィクションの世界が、ノンフィクションとして体感できるのだ。

 この世界をいち早く体験したく、まだ発売されてもいないのに辞表を提出した人さえいた。



 タイトルは「DifferentディファレントWorld(ワールド)Summons(サモンズ)」。

 直訳すると「異世界に召喚されし者たち」だ。

 巷ではDWS、ディワサー、リアル異世界召喚などと呼ばれている。


 ゲームジャンルは、オープンフィールド制の完全没入型V(ヴァーチャル)R(リアリティ)M(マッシブリー)M(マルチプレイヤー)O(オンライン)R(ロール)P(プレイング)G(ゲーム)

 VRは仮想現実のことを指し、MMOは多人数参加型のゲームという意味で、RPGとは知っての通り自分が物語の主人公になりきってプレイするゲーム、という意味だ。

 オープンフィールドというのは、マップやエリアごとに一切のロードがない、まさにそこに世界が存在しているようなタイプのものだ。


 そして、肝心の完全没入型VR。

 感覚をゲームに没入させて味わうことができる。

 五感全てなので、味覚も、嗅覚も、触覚も、視覚も、聴覚も、すべてがすべてだ。

 ゲーム内でおいしい物を食べれば、空腹感を満たすことはないにしろ、実際の食事感まで味わえるとか。

 痛みだけは、ゲームの中で起こることが実際に伝わったら恐ろしいことなので、95%カットされている。

 代わりに、長時間正座をしていた後の、あのじーんとした足の痺れのような感覚を感じるらしい。






 2066年3月、満を持して発売されてからの熱狂は、誰が想像できたろう。


 VR関連の記事はネットニュースのトップを独占し、他の事柄を検索しようとしても、必ずこのゲームについてのサイトが目に付くようになった。


 ネット上のみに限らず、世界のあらゆる報道が特集をし、まるでこの現実世界がVRの世界に飲み込まれたかのように、テレビをつけるとどのチャンネルもVRに関する放送ばかりとなった。

 中にはVR世界に入っている状態で撮影した映像を流す番組まで、組まれていたりした。


 全世界で予約が殺到し、ネット予約開始から1秒もたたないうちに、初回生産分の一万台は終了。

 増産が追い付かず、作っては即売り切れての繰り返しだったという。

 世界初の完全没入型VRゲームは独占市場だったということもあり、アンリミテッド社はボロ儲け。

 元々世界規模の大企業だったのだが、さらに大きくなった。


 リアルを追求したVR技術はもちろんのこと、人工知能技術を用いた本当に生きている(・・・・・)NPC、思考を読み取る『思考解析プログラム』、そのプログラムによるタイムラグなしに全世界の言葉を自動翻訳する『オーリンガルプログラム』、あまりにも鮮明で美しいこの世では見られないような風景をゲーム内で見ることができることなど、現代の科学の英知を集結させ、最新技術を惜しみなく使用したこの最高傑作のゲームに、多数の称賛の声が挙げられた。


 この仮想世界の広大な大地は、実はここはタイトル通り異世界なんじゃないか、とまで疑うほどだ。

 すべての自由が保障された世界は、どんな所にだって行ける。

 地下だって、天空だって、海の底だって存在している。

 家だって山だって、ハリボテではないのだ。

 どんな強靭なサーバーを使っているのか。

 公表はされていないが、科学技術革命が起こった今でさえ、十分オーバーテクノロジーであるといえる。


 初陣に参加できた運のよいプレイヤーはインタビューで、両手に抱えたヘッドギアを頭の上まで持ち上げ、得意げにこんなことを言っていた。


『こいつはもうゲームの域を超えていました。


 ゲームであってゲームでない。


 まさに異世界に生まれ変わった、異世界転生したような気分ですね!!』





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ