ターン制の横並び世界で勇者は虚しくなる
ちょっと思いついたので描いてみました。楽しんでいただけたら幸いです。
「グオォォォォォォォォォォォォォ!! バ、バカなこの魔王が。全世界を支配するこの魔王がこのような者達にっ!? ぐふっ!!」
怨嗟の声を上げながら消滅する魔王。
「やった。遂にやったぞ勇者!!」
普段は冷静な国一番の騎士はその喜びのあまりに大きな歓喜の声を上げる。
「流石は勇者ね!!」
ピョンピョンと跳ねて喜びを表現する魔法使い。
「ああ、勇者様。ようやく平和が訪れました。全ては貴方さまのおかげです」
手を組んで祈るように感謝の言葉を告げる聖女。
「……ああ、ソウダナ」
そんな中、魔王を倒した張本人。
つまり勇者である俺は喜ぶでもなし達成感を味わうでもなし、ただただ虚しくなっているのであった。
ー▽ー
俺の名前は九十九十一。
数だけの変な名前だが、つくもじゅういちと読む。
警察官の両親との間に生まれた極々平凡な高校生だ。
いや、高校生だった。
信じられない事だが、ある日突然異世界に勇者として召喚された。
よくわからない説明を俺を召喚した聖女やら王様やらに長々と、要は魔王を倒せと言われたのだ。
最初はいきなりだったので困惑したものの、落ち着いた時に俺の感情にあったのは喜びであった。
異世界召喚というものは漫画や小説で知っていた。
定番ならば俺TEEEしてハーレムを作りたくなるのかもしれない。
しかし、俺はそうではなかった。
先ほど、極々平凡な高校生と言ったがそれは環境的な話であって、おそらく、いや確実に俺は平凡とは程遠い異常者であった。
俺は闘うのが好きなのだ。
幼い頃から自身と同等、或いは格上と闘うのが何よりも大好きであった。
平和な日本に居ながら闘争者であり、戦闘狂の異常者であった。
もちろん、自分ではそんな異常者であると知覚しているし、逆に普通の人々には平穏に暮らしていて欲しいと願う平和主義者でもあった。
どちらかというと弱い者いじめは嫌いだ。
そして、悪い者いじめはそれなりに好きなので、そんな事をする悪い奴は潰したくなる。
まあ、自分でも過激だなと思わないでもないけど。
さて、そんな俺が異世界に召喚され、魔王を倒せと言われたのだ。
まだ見ぬ強敵と戦える上に、魔王に虐げられている弱者を救えるというのなら、俺の闘争心と正義感を同時に満たせるとても素晴らしい出来事であった。
そう、思っていた。
騎士と魔法使いと聖女をパーティメンバーに加えるのはいい。
俺の監視の役割があるのだろうが、ディフェンダーとアタッカーとヒーラーがいるのは俺一人でいるよりも頼もしい上に戦術の幅が広がるからな。
俺は強い奴と戦いたいのであって死にたくはないのだ。
道中が徒歩になるのもいい。
車なんてないし馬にも俺は乗れないし。
馬車なんて悠長に乗ってられないのもわかる。
長い旅になるのはいい。
家族や友達の事は気がかりではあるが、それ以上にこの異世界にいる事は俺にとってとても興奮的なものであった。
だけど、だけど!!
「なんだこれは!?」
そう叫ばずにはいられなかった。
魔物と出会う。
うんうん、これから戦いが始まると思うととても闘争心が刺激される。
だが、たが、この世界はおかしかった。
普通、魔物、つまり敵対者と出会ったら武器を構えて警戒するか、即座に仕留めるかするだろう。
にもかかわらずだ、仲間たちは魔物と出会うと悠長に魔物と対面するように横並びになるのだ。
しかも、俺を左端にして騎士、魔法使い、聖女の順で。
どんな位置に居ても、どんな状況で魔物と出会ってもわざわざその順に横並びになるのだ。
初めて見たときは呆然とした。
何をやっているんだって。
どうして魔物と正面から横並びになる?
騎士よ、どうして魔法使いや聖女を守るように前に出ない?
魔法使いと聖女よ、どうして後衛につかずに魔物の正面に姿をさらす?
こいつらおかしいのではと思った。
おかしいのはこいつらだけではなかった。
何と魔物の方も俺たちに合わせて横並びになるのだ。
お互いに正面から横並びに。
まるで某RPGみたいに。
いや、最近は魔物を囲うように戦っていたはずだ。
ゲームの方がマシであった。
そして、さらに酷い事態が起こる。
横並びになる俺たち、横並びになる魔物たち。
その陣形になってから誰もが動かなくなった。
騎士が斬りかかる事も魔法使いや聖女が呪文を唱える事もない。
魔物達も攻撃してくる事もない。
動けるのは俺だけであった。
いや、攻撃したりする事はちゃんとある。
どういった順番の決め方があるのかは知らないが、味方や魔物達は順々に、一人一人順番に攻撃していくのだ。
某RPGのように一人一人順番に。
そして、彼らは攻撃を避けたりガードしたりするような事はない。
いや、攻撃が外れる事はある。
どう見ても不自然に攻撃の位置がズレるのだ。
彼らはそれを避けていると認識しているらしい。
また、騎士なんかは身の丈ほどもある大きな盾で攻撃をガードするような事はなく、正面から堂々と敵の攻撃をくらうし、魔法使いや聖女が攻撃されても守る事はしない。
逆もまた然りだ。
もう、完全に某RPGであった。
何が闘争だ。
こんなのプロレスよりも酷いじゃないか。
そして、さらに酷いのは、どうやら正面から切りかかったりしなければ、俺が行動したと認識されずに誰も動かないのだ。
味方であっても敵であっても。
言い忘れていたが、俺はそんな不可解な状況であっても自由に動ける。
つまり、迂回するように魔物の横に行って剣で切るなりしても相手は何もしないのであった。
俺の順番でいる限り、俺が正面から攻撃しない限り、まさにずっと俺のターンなのであった。
こんなのは、俺が求めていた戦いじゃないんだ。
来る日も来る日も横合いからチクチク攻撃する日々。
反撃してこない敵。
こんな戦いとも言えない戦いを斬新な戦い方だと行って褒める仲間達。
どれだけ説得しようとも、誰も自分にはそんな戦い方は出来ないと否定される。
魔王四天王なんかも出てきたけれど、同じく横合いからチクチクするだけで勝てちゃうのだ。
どんな強敵であっても、横合いからチクチクと剣で刺せばそのうち死ぬのであった。
魔法による全体攻撃とやらも、所定の位置に居ないと効果はないようで、俺だけがダメージを受けない日々。
どうして俺はこんな世界に呼び出されたのだろうか?
そして、なんやかんやあって魔王と対面。
魔法使いによれば、なんと、魔王は1ターンに3回も攻撃できる強烈極まりない能力を持っているらしい。
……今回は俺が最初の順番だったみたいでいつも通り横合いからチクチクしただけで何の行動もさせずに勝ってしまった。
そして、冒頭にいたるのだが……。
せっかく魔王を倒したのに、世界を救ったはずなのに。
ああ、虚しい。
達成感もない。
闘争心も満たされない。
どうも腑に落ちない。
ただただ、虚しい。
そんな、虚しさに沈んでいると、突如背後から殺気を感じた。
咄嗟に背後を振り返りながらバックステップをとる。
まさか、この世界に普通に戦える奴がいるのでは?
そう頭に過ぎり思わずニッと攻撃的な笑みを浮かべてしまう。
どうやら、この世界に来て闘争心に拍車がかかったようだ。
反動的な感じで。
まともに戦えると思うだけで血が滾るのだから。
相手はどんな奴だと、殺気が放たれた方向を睨みつける。
そこで俺が目にしたのは、武器を構えた騎士と魔法使いと聖女であった。
もちろん横並びだ。
そして、騎士が俺に攻撃してくる。
先ほどまで俺がいた場所。
つまり、殺気を感じて距離を取る前の誰もいない空間に。
「くっ!! 流石は勇者といったところか。まさか、この状態からの奇襲を避けるとは!?」
「どういうつもりだ?」
本当にどういうつもりだ?
「どういうつもりだって? 勇者はバカだねぇ」
魔法使いが俺を蔑むようにケラケラと嗤う。
「ふふふふ。魔法使い様そんな事を言ってはなりませんよ。仮にも相手は世界を救った勇者様なのですから」
聖女の方も同様だ。
「そうね、聖女の言う通りね。バカな勇者の為にあたしが詳しく教えてあげるね」
魔法使いが頼んでもいないのに言うには、どうやら俺はお払い箱のようだ。
俺は魔王と相打ちになって死に、彼らは俺と共に戦って生き延びた英雄となるそうだ。
「魔王が死んだ今、勇者なんて強い力を持った存在は必要ないの。だから、あんたはここで死ぬわ」
そして、それは俺を召喚した国のシナリオであるようだ。
「いくら勇者とはいえ魔王と戦っては消耗もしているだろう。先ほどの奇襲を避けられたのは驚いたが、多勢に無勢。貴様はここで終わりだ」
そう言って再び武器を構える騎士達。
勝利を確信しているのかニマニマと笑みを浮かべている。
なんという事だ。
驚かずにはいられない。
本当に、本当にこいつはバカだな。
いや、この世界か。
奇襲と言って、相手が正面を向いてから攻撃するバカが何処にいるのだろう?
しかも、誰もいない所に攻撃するし。
先ほど横合いからチクチクと攻撃していただけで消耗していると言うバカが何処にいるのだろう?
虚しくて元気を失ってはいるが。
何故俺はこんな奴らにバカ扱いをされなければならないのだろう?
裏切られて悲しい?
戸惑っている?
そんな事はない。
彼らを騎士や魔法使いと呼んで名前で呼んでいない時点でお察しだろう。
はっきり言って俺は彼らを知的生命体として認識していない。
というか、この世界で戦う者全てをどうしようもなく、救われないバカだと思っている。
こんな奴らより、道中の街で出会った宿屋の娘さんの方が賢いんじゃないかな?
阿呆な戦い方をしている奴よりはよっぽど宿屋で働いている人の方有能だと思う。
つまり、俺は騎士も魔法使いも聖女も変な動きをするだけの頭がパッパラパーなデクとしか思っていないのだ。
そんな連中に裏切られても悲しくも何ともない。
まあ、バカ過ぎて驚き戸惑ってはいるが。
というか、どうすれば彼らを背中を預けられる信じられる仲間と思う事が出来るのだろうか?
背中じゃなくて右肩しか預けられない。
いや、それも無理だな。
だって、正面しか見ないし。
「はぁ」
ため息を吐いてから、大きく迂回するようにして彼らの後ろに回りこむ。
そして、そのまま彼らを放置してこの部屋から出て行った。
そんな事をしても彼らは俺がいた方面を向いたまんまだ。
具体的には魔王の玉座があった方面。
何時もは俺が敵を倒すと自由に動き出すのだが、彼らにとって今回の敵は俺だ。
そして、俺が彼らに正面から攻撃しない限り彼らのターンは回ってこないのだ。
ずっと俺のターン。
憶測でしかないのだが、彼らはあそこから動かないんじゃないかな?
誰もいない空間をずっと睨みつけるのであろう。
まあ、どうでもいいや。
本当に虚しいな。
これからどうしようか?
とりあえず王様は潰しておくか。
そんな事を考えながら俺は魔王城を出て行った。
勇者:日本では様々な武術を極めた生粋の戦闘狂。しかし、異世界では極めた武術が活かされる事は無かった。横合いからチクチク攻撃すれば勝てたから。こんなのは望んでいなかった。
騎士:バカその1。無駄に高い防御力と生命力でなかなか死なない。それだけのデク。
魔法使い:バカその2。強力な魔法を使えるアタッカー。魔法を使う前に勇者が敵を倒すので何もしないデク。
聖女:バカその3。勇者を召喚した張本人。回復魔法が使えるヒーラー。自分のターンなるまで例え味方が死のうと何もしないデク。