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恩師からの便り

作者: 藤沢正文



『拝啓 河端由美子 様』



 今時珍しく便箋に達筆で書かれた文には余所余所しくもそういった見出しから書き綴られていました。


 この手紙の送り主は高校時代の恩師である岡部先生からのものであり、当然私の宛名は旧姓の河端となっていました。


 勿論、住所も実家の住所であった為、弟嫁が気を利かせて此方に持って来てくれたのです。



 以前、とは言っても四半世紀も前の事になるのですが、先生とは手紙のやり取りをしていた時期がありました。


 所謂、文通というものですね。丁度、高校を卒業し社会人として働き始めた私の元に先生から手紙が送られて来たのが切掛だったと思います。




 高校時代の私は、色恋沙汰に一喜一憂する他の女学生とは違って、少しの擦れた女学生だったと思います。


 他校の男子生徒と揉め事を起こしては呼び出しを喰らい。常に生傷が絶えなかった事は今になってはいい思い出です。


 そんな学生時代だった事もあり、学校の先生方からは腫物の様な扱いを受けていましたし、私自身その事について何も思う事は無かったのです。


 しかし、岡部先生だけはそんな私の事をいつも心配してくれて、時には叱ってくれたりもしました。




 そう言えば、私の初めての手料理を食べたのも先生でした。


 今でこそ和洋中何でも卒なく作る事が出来ますが、あの頃の私は卵一つ割るにしても一苦労で、初めて作った目玉焼きはお世辞にも目玉焼きとは言い難い真っ黒な何かでした。


 それでも先生は、嬉しいそうに美味しい美味しいと喜んでそれを食べていましたね。




 そんな事を思い出しながら私は先生からの手紙に目を通して行きました。


 手紙には何十年も前のことが恰も昨日の事の様に書かれており、少し気恥ずかしくなりました。



 手紙の内容は、寒くなって来たので風邪を引かない様にだとか、粗相などはして無いかなど、全て私を気遣う事ばかりで先生自身の事は一切書かれていませんでした。


 あれから何十年経ったとしても先生にとって私は生徒なんだな、っとムッとしましたが、心配してくれている事に変わりは無いと思い、少し頰が緩みました。



 最後まで手紙を読んで、私は徐に立ち上がりリビングの隣にある和室へと向かいました。



「先生?」



 襖を開くと和室には、お布団に還暦を遠に超えた御老人が眠っていました。


 そして御老人は私の声を聞くと、スッと瞼を開き少しだけ顔を此方に向けると嬉しそうに口を開いたのです。



「おぉ、由美子君か。今日はどうしたんだい?」


「今日は先生にお伝えしたい事がありまして」


「ん? また厄介ごとじゃないだろうな?」


「いいえ、そんな事ではありませんよ」



 気難しいそうに顔を顰めた御老人に、私は微笑み掛けました。



「いつも有難う御座います」



 私がそう述べると、御老人は再び寝息を立て始めました。




 さて、手紙の返事はどうしたものでしょうか?


 まあ急ぐ物でもありませんし、晩御飯の支度をしながらでも考えるとしましょうか。



 あ、先生には目玉焼きもつけて差し上げましょうかね。



本日、2月3日は『ふみの日』という事で、手紙に因んだ短編を書いてみました。


即興で書いたので、超超短編ですがお楽しみ頂けたでしょうか?


これからも細々と投稿していきますのでよろしくお願い致します。


あ、連載小説『考古学者は夢を見る』も宜しくお願い致します!

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[良い点] 落ちがしっかりしている [気になる点] 妻ということでいいのでしょうか? 介護かなとも取れて、いささかわかりづらかったです [一言] 個人的には介護として読みたい内容でした。 短いながら…
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