実は騙されていたのは俺の方でした
交差点の悲劇を終えてから、俺はとうとう目的地であるメルの行きたい場所に着いた。
「ここだな」
足を止め見上げる俺の視線の先には、全高634メートルあると言われる日本一高い塔、スカイタワーがある。
日本一と言われるだけあって、夏休みだからか周りは人で溢れ返り、俺はその大量の人の中で一人突っ立っていた。
テレビではよく見るが、生で見ると本当に高いな。
見上げながら俺は「おー」と少し感動していると、携帯の中でメルが騒ぎだした。
「凄い高いです!やっぱり本物は違うです!!」
ネットで事前に画像などを見ていたのか、メルは本物の巨大さに興奮している。
確かに、画像と本物じゃ違うだろうな。
興奮するメルに俺は内心同意したが、目的地に着いたからか疲れた顔をする。
「しっかし、長い道のりだった.......」
これまでのメルの暴走具合に俺は染々と思う。 あれからもメルの暴走は止まらなかった。
正直メルのネット能力は俺よりチートな気がする。
近くに電子機器があればどれにでも介入出来、そのせいでメルはあちこちに移動しまくっていた。
子供の好奇心だろうか。
いくら駄目とは言ってもついどっかに行っては注目の的になる。
年齢的には全然違うだろうに本当に子供のようだ。
しかも、何処かに行ってしまってからが長い。
こちらからの連絡手段がないため、向こうが気が付いてくれるまで待つしかない。
これは早く対策を取らなきゃな。
道中何回も俺はそう感じた。
「マスター!早く行きたいです!!」
「そんじゃ、中に入るか」
メルに急かされ、俺はスカイタワーの中に入っていった。
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列に並びエレベーターで展望台まで上りドアが開いた瞬間、そこにはここまで来る途中通った街並みが広がっていた。
「おー、流石に言うだけあって高いな」
窓ガラスの近くまで寄り、俺は少し身を乗り出しながら眺める。
ここからだと家が豆粒のように小さく、最早人なんて見えない。
初めて来たが、これは中々凄いな。
メル程ではないが、俺も少し感動する。
すると、案の定この景色を眺めていたメルが興奮しだした。
「うわー!これは本当に高いです!!今まで見たことないくらいに高いです!!まさにこれが世に言う本当の人がごみのようだってやつです!!ごみです!!ごみ!!」
「あんまりごみを連呼するなって.......」
画面に背を向け、外カメラを覗くような体勢を取りながら、メルは喜びの声をあげる。
幼女の声が耳元にごみを連呼されるのは何かくるものがあるな。
ネットの影響受けすぎだろ。
暫くネット禁止してみようか。
毒され過ぎなメルに少し本気でそう思った俺だが、改めてこの広大な景色を見ると、そんな考え直ぐに吹っ飛んでいく。
やっぱり綺麗だな。
「綺麗な景色ですね!マスター!!」
「そうだな」
メルも同じことを思っていたのか、同じことを言うメルに俺は少し微笑む。
「そういえば、なんやかんやでお前の要望でここに来た訳だが、本当にここでよかったのか?」
特に理由も聞かず来てしまったが、こんな身近な場所でよかったんだろうか。
場所さえ行ってくれれば、俺なら地球の何処にでも行ける。
そんなことを聞く俺に、メルはにっこりと応えた。
「はい!ネットで見たときからずっと気になっていたんです!!」
「やっぱりゴーレムより大きいです」と外カメラを覗きながらメルは言葉を溢す。
そりゃあそうだろうな。
もしゴーレムがこれ並みに高かったら凄いことになりそうだ。
ゴ○ラどころの話じゃない。
そんなメルの言葉に苦笑しながら聞いていると、俺はあることを思い付いた。
「なぁ、メル。どうせならもっと高い所から見てみないか?」
「高い所、ですか?」
もっと高い所と聞いて、メルはどういうことかと首を傾げる。
俺はそんなメルに楽しみにしとけとばかりに顔をにやつかせ、その場を移動した。
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人気のないところに移動し、俺は展望台からスカイタワーの頂上に転移した。
「ここならもっと高いぞ」
そう言って俺は辺りを見回す。
俺の言う通り景色は展望台より遥かに高いせいか、さっきより建物が小さく見える。
それに、外だからか風が強く俺じゃなきゃバランスを崩して落ちてしまいそうだ。
「どうだ、メル」
「物凄い高さです!さっきより更に人がごみになっているです!!」
「いや、だからごみは言うなって........」
ごみというのがお気に入りなんだろうか。
ごみと言いながら満足げな顔をするメルを見て俺は複雑な気持ちになったが、メルが楽しそうでよかった。
こんな場所だから誰かに見つかるかもしれない。一応後で【削除魔法】で消しておこう。
俺はそう思い、注意する。
連れてきた甲斐があるな。
楽しそうなメルを見て俺はそう思っていると、
「マスター」
急にメルが改まって俺に話しかけた。
「今日はありがとうです。私をここに連れてきてくれて」
「どうしたんだ?急に」
いきなり改まった態度を取るメルに俺は理由を聞くと、メルは先程の様子とは打って変わって静かに語り出した。
「マスターは覚えているですか?遺跡で二人っきりになったときの事です」
それを聞いて俺はげっと思った。
その話か......。
あんまり思い出したくない記憶の中、俺は少し動揺する。
「あ、あぁ」
「あの時マスターが私を誘ってくれたこと、これからも一生忘れないです」
別に忘れてくれてもいいんだが。
染々とあの時の干渉に浸りながら語るメルに、俺は心の中で思う。
あの時、メルをこちらに誘うときのあの言葉。
今となったはどうしてあんなことを言ってしまったんだろうと、俺は若干後悔している。
『俺のものになれ、メル』
真剣な眼差しで言った俺の言葉に、最初はメルも戸惑っていた。
『なにを言っている、ですか?』
急な俺の誘いにメルは困惑していたが、俺は構わず話続けた。
『言葉のままだ。メル、お前(の能力)は消えるには惜しい。これから俺と来る気はないか?』
最初は戸惑っていたメルだが、俺の話を聞いて次第に冷静になり首を横に振った。
『無理、です。私は元々マスターに造られたもの。役目を終えた私はここで消えるだけ、です』
『そんなの関係ねぇよ』
このまま消えようと考えるメルに俺は知らんとばかりに言う。
『俺はお前(の能力)が欲しい。そこにあいつに造られたからだとかは関係ない。ただお前(の能力)が欲しいんだ』
真剣に、そして熱意の籠った目をしながら俺はメルを見る。
この言葉がいけなかった。
思い出しながら俺は思う。
この言葉足らずな俺の発言が、メルに変な誤解を生むことになる。
俺の本気の言葉を聞いて、メルは別の意味で動揺し始めた。
『そ、そんなに私が欲しい、ですか?私は貴方を殺そうとした、ですよ?』
この動揺さに、あの時の俺はこのままいけばいけると思い、更に言葉を重ねた。
『そんなのは俺はもう気にしていない。お前とは気が合いそうだしな。それに気にならないか?ここから外の世界がどうなっているか』
『外の、世界........』
外の世界と聞いて、これはメルも興味があったのか、興味を引かれていた。
メルとはメトロンの一件で気が合いそうな気がしていた。
それにあの完全無欠の情報力。
仲間としても、友達としても、俺はメルとやっていけると思った。
外の世界と聞いて悩むメルだが、やはり首を縦に振らない。
どうしてかと俺は思ったが、ここで一つ察した。
もしかして、捨てられるのが怖いのか?
また、自分は捨てられるかもしれない。
また、忘れられるかもしれない。
そんな疑念がメルの中にあるのだろうか。
なら、それを取り除かなければならない。
そう思い、俺はメルに近づき、目線まで腰を落とすと、優しく微笑んだ。
『安心しろ、俺はお前を忘れたりはしない。例え相手が神だろうと魔王だろうと、俺はお前を捨てたりはしないし、手放したりしない』
友人を見捨てるわけがない。
俺はこれが言いたかった。
だが、これまでの会話からすると、メルは別の意味で聞こえていたんだろうな。
この言葉を聞いて、メルの目に少しの光が見え始めた。
『もう一度言うぞ。俺のものになれ、メル』
この止めの一言によって、メルは完全に誤解し、俺と来ることを決意した。
『は、はい、です』
俯き気味に、少し目線を逸らしながら若干小声で無表情のメルは応える。
それから、なにか誤解されていることに気付いたのはメルの核に俺の魔力を入れた後のことだった。
「あの言葉は私に新たな世界を与えてくれました。この外の世界をです」
あの時の会話を思い出し、メルはしんみりと景色を見る。
どうしよう......。
完全に誤解を受けたままのメルに、俺は内心どういったらいいんだろうと、頭を悩ませる。
ここはやっぱり訂正はするべきだよな。
このまま誤解されたままで後から傷付かれても困るし。
俺はそう思い覚悟を決め、誤解を解こうとメルに話しかける。
「あ、あのなぁ、メル。実はーーー」
「だからマスターには感謝してるです」
だが、俺の勇気を振り絞った言葉は、途中でメルに遮られた。
「あの場でマスターの誘いを断っていたら、この景色は見られなかったです。ですからマスター ーーーーーー」
言葉の途中、メルは俺を見つめ優しく微笑む。
「ーーーーありがとうございます。そして、これからよろしくお願いしますです」
明るい、少し大人な感じのその笑みに、俺は暫く無言で見つめ、ふっと微笑を浮かべる。
「あぁ、こちらこそよろしくな」
メルにつられるように、俺達はお互いに笑い合う。
その間、周りの時間が止まったような、そんな感覚がした。
それからも俺とメルは気が済むまでこの景色を見ていたが、俺の心の中では何時誤解を解こうかという不安が渦巻いていて、あまり景色に集中出来なかった。
どうしよう、完全にタイミングを失った.....。
真実を言うに言えず、俺の中の不安が掻き立てられる。
ちゃんと言わなきゃな。
いつまでも誤解されたままでいるわけにはいかない。
いつかちゃんと言おう。
俺は内心固い決意を結ぶ。
すると、帰りの際メルは何かを思い出したのか、俺に告げた。
「そういえば、マスター。女の子と話すときは誤解するようなことを言っちゃ駄目ですよ」
「あぁ、そうなんだよなぁ.........え?」
思いがけないメルの言葉に俺は唖然とするが、メルは悪戯が成功したような、そんな笑みをしている。
「なぁ、今の意味って.....」
「さぁ?なんのことですか?」
恐る恐る俺は聞くが、メルは分からないとばかりに惚ける。
え?もしかして、誤解って知ってた?
メルからの言葉に俺はしてやられた感に襲われたが、同時に少し安心した。
誤解が解けててよかったぁ........。
さっきまで散々気にしていたせいで、誤解が溶けてどっと肩の荷が降りる感じがする。
全く、とんだ策士だな。
その惚けた様子を続けるメルに、俺は今だけメルが大人の様に見えた。
おまけ
【鈍感】
「なぁ、メル。いつから気付いてたんだ?」
「いつからだと思います?」
「いつって.....今日から?」
「そんなんだからマスターは女の子の気持ちが分からないんですよ」
「え?どういうことだ?」
「あの三人の反応とマスターの反応を見れば直ぐに分かるです」
「え、まじ?」
「まじです」
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