女子の買い物は女子と行くもの
時は少し前に遡り、あるショッピングモールの中で三人の美少女が仲良く歩いていた。
「次何処に行く?」
「そうだなー」
「服見たい」
楽しそうにお喋りしながら並ぶその姿は、どこぞのモデルにも負けていない。
そのモデル顔負けの容姿三人に、道行く男全員の視線を釘付けになる。
この三人、さや、リーナ、夏蓮はただ今仲良くお買い物の真っ最中だ。
実は遺跡で夜兎がメトロンの所で復讐をしている間に、三人はこのお泊まり計画を計画していた。
うきうきと計画について話す三人の様子にサラが「あんた達......」と呆れていたのは言うまでもない。
「それじゃあ、次は服屋さんに行ってみよっか」
楽しそうに、にこやかな顔をしながら、さやはそう言い先頭をきっていった。
余程楽しいんだろう。
このさやの楽しそうな様子に夏蓮とリーナはふふっと微笑む。
「さやちゃん楽しそう」
「だな」
前を歩くさやに隠れて二人は小声で話す。
さやがこうなるのも無理はない。
あまり人と遊ばないさやからしたら、こういう誰かとお買い物をしたりはしない。
たまに夜兎やリーナと行くことはあるが、それは学校の帰り際による程度。
一日という長い時間は殆んどないことだ。
さやが楽しそうでよかった。
それと同時に安心した。
さやがこの周りの視線に気付いていないことに。
夏蓮とリーナは思う。
気付いてしまえば、さやの楽しさが半減してしまう。
そういう意味でも良かったと、リーナと夏蓮は思う。
「早く行こう」
内心そんなことを考えながら歩いていると、リーナは夏蓮に何故か急かされた。
見ると、いつの間にかさやから距離が離れていることに気が付いた。
さっきまで私達と同じ速さで歩いていたよな?
遠くにいるさやを見て、リーナはそんな疑問に駆られたが、今はとにかく急ごう。
「そ、そうだな」
夏蓮に言われ、リーナは苦笑いしながら小走りでさやの下に急いでいった。
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服屋での物色も終わり、さや達は歩きながら先程の服について話していた。
「さっきの服可愛かったねー」
「夏蓮殿によく似合っていたぞ」
「ありがとう」
手にさっき入った服屋の紙袋を持ちながら、夏蓮は少し照れ臭そうにお礼を言う。
服屋では主に自分の服より夏蓮の服選びをしていたさや達。
満足のいく服が見つかったのか、夏蓮は機嫌良さげな顔をし、そのまま思い出すように呟いた。
「やっぱりあいつとじゃやっぱり違う」
「あいつって、夜兎君のこと?」
「そう」
さやの言葉に夏蓮は頷く。
夏蓮と夜兎は義理だが兄妹だ。
当然一緒に出掛けることはある。
だが、夜兎に服のことなんて分かる筈もなく、一緒に行ってもただ単調な感想を述べるだけで、一緒に選んではくれない。
前に一緒に出掛けた時もそんな感じだった。
感想を聞いても単調なことしか言わず、もっと言わせてみると自分が求めていた感想ではなく、ただおかしなことを言っているだけ。
やっぱり女同士だと違う。
当たり前と言えば当たり前なのだが、夏蓮は染々と思った。
「まぁ、夜兎君だしねぇ」
「あやつにそれを求めるのは無理だな」
「確かに」
さやとリーナに夜兎と出掛けたことを話すと、二人は当然とばかりの物言いをする。
それには夏蓮も激しく同意した。
経験から分かるが、夜兎にそういうのを求めるのは間違いだ。
この買い物で夏蓮の考えは確信した。
これからは、夜兎と服選びをするのは止めよう。
通路を歩きながら夏蓮はそう思っていると、不意に見知らぬ男三人が話しかけてきた。
「ねぇねぇ、君達可愛いねぇ」
「よければこれから一緒に遊ばなぁい?」
「丁度こっちも三人だしさ?」
ピアスにドクロのネックレス、染めたであろう所々違う髪の色。
この絵に描いたようなチャラついた格好の男三人に、迂闊にも真ん中にいたさやは途端に怯えだした。
「えと.....あの.....その.....」
男を目の前にしてさやは思うように言葉が出ず固まっていると、真ん中にいたチャラ男Aはこちらに向かって手を伸ばした。
「いい店知ってるんだよねぇ。一緒に行こうかぁ」
沈黙を肯定とみなしたのか。
身勝手な判断を下したチャラ男Aの手はさやに向かって伸びたが、そんなの許される筈がない。
途中その手はいきなり何者かによって、上に弾かれた。
「さや殿に手を出すな」
手を弾いたリーナは続けざまにそう言うと、三人のチャラ男威圧をかけた。
「とっとと失せろ」
トーンの低い、頭に響くような声。
まるで首にナイフでも突きつけられたような冷たい感覚。
リーナの威圧にかけられたチャラ男達は次第に顔を真っ青にしていき、額に汗を流しながら徐々に後ろに後退していき、
「ご、ごめん、やっぱ俺用事があったわ!また今度ね!!」
「俺も!!」
「俺も!!」
一目散に去っていった。
なんとも情けない姿を晒しながら去っていく三人だったが、チャラ男がいなくなったことにより、さやは安心し息を吐いた。
「ありがとう、リーナちゃん」
「気にするな、無事でよかった」
はぁっとどっと安心するさやにリーナは言う。
このシチュエーションに夏蓮は「デジャブ......」と小声で言いながらなんとも言えない顔をしていた。
自分の時もこんな風に見えてたんだろうか。
二人の様子を見ながら夏蓮はそんなことを思うのだった。
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「やっぱりまだ駄目だなぁ........」
ショッピングモールを出て、外で遅めの昼食を食べようと雑誌で人気の店に向かっている最中、さやはさっきのことを引きずっていた。
「元気だして、さやちゃん」
「誰にだって苦手なものはあるぞ」
落ち込むさやに夏蓮とリーナは励ますが、依然としてさやの落ち込みような治らない。
「夜兎君はいいのに、なんで他の人は駄目なんだろぅ........」
少しは免疫が上がってると思ったんだろう。
案の定な結果にさやは更にに落ち込む。
今回は相手が悪かったのもあるかもしれないが、男であるのには変わりはない。
そのさやのちょっとした呟きに、リーナは気分を変えようと聞いた。
「そういえば、何故さや殿は神谷夜兎なら平気なんだ?」
落ち込んでいたさやは唐突に聞かれ、応えようかと口を開かせたが、そこから言葉が出なかった。
「え、えっとー、それは.......」
目を逸らしながら、少し恥ずかしそうにさやは言葉を詰まらせる。
さやが夜兎を平気と思ってる理由は色々あるが、一番の理由は自分の父に似ているところがあるというところだ。
それを態々自分の口に出して言うのは恥ずかしいものがある。
(何て言ったらいいんだろう......)
いまいちいい言葉が見つからず、さやは少し考えたが、やはり何も出てこなかった。
「そ、そういえばさ!今から行くお店どれくらい美味しいんだろうね!」
「誤魔化した」
「誤魔化したな」
何も出てこずさやは誤魔化そうとするが、無理のあるこの誤魔化し方に夏蓮とリーナは一刀両断する。
誤魔化しも通じず、じと目で夏蓮とリーナに見つめられたさやは、次第に本音を吐き出した。
「だ、だって~、恥ずかしいんだもん」
「いったいどんな理由なんだ?」
恥ずかしそうに顔を赤くするさやを見てリーナは更に疑問を深める。
恥ずかしそうにする顔を俯かせるさやに、これはもう聞けないと思ったのか、夏蓮は別の話題を出した。
「じゃあ、さやちゃんはおにいちゃんとデートしないの?」
「で、デート!?」
いきなりの夏蓮の発言に不意打ちを喰らったさやは、驚きながら顔を赤くする。
デートと聞いて自分にはハードルが高いと思ったのか、さやは首をぶんぶん振りながら弱音を吐いた。
「む、無理だよ!?いきなりデートなんて!!」
自宅に招いたこともある癖に何を言っているんだろうか。
大袈裟に否定するさやに夏蓮はまぁまぁと抑えながら、大丈夫とばかりに言った。
「大丈夫、全然普通だから」
経験者は語るとはこの事か。
寧ろ物足りないと言っているかのような言い草に、さやは少しは大丈夫な気がしてきたのか、少し落ち着く。
「でも、まだ付き合ってもいないし.......」
「関係ない。私は結構してるし」
「それは兄妹だからじゃないの?」
さやに勇気を出させようと色々言う夏蓮にさやは少しづつ心が動かされていく。
それを暫く無言で眺めていたリーナは不意に横の交差点の方を見ると、夜兎の存在に気付いた。
「あれは.....」
「なに?どうしたの?」
「なにかいた?」
何かに気付いた素振りを見せるリーナにさやと夏蓮は一緒に同じ方向を向くと、二人とも夜兎に気付いた。
「あれ?夜兎君?」
「なにしてるの?」
交差点の信号の前で立ち止まる夜兎にさや達は少しの間眺めていると、不意に何か慌て出した。
いったいどうしたんだ?
慌てる夜兎を見て三人は首を傾げる。
その時、
「凄いです!皆小さく見えるです!」
突如スクリーンにメルが映し出された。
スクリーンから聞こえるメルの大きな声に、さや達だけでなく周りの人が一斉にスクリーンを向いた。
「あれって、メルちゃん?」
「何をしてるんだ?」
スクリーンの中で騒ぐメルを見てさやとリーナはそう言うと、ずっと夜兎を見ていた夏蓮が夜兎の方を指差した。
「あれ」
夏蓮が指差す先には、携帯に戻るようにジェスチャーを送っている夜兎の姿があった。
最初は小さなジェスチャーだったが、メルの勘違いが重なりどんどん大袈裟なジェスチャーに変わっていき、次第にそれは周囲の視線を集めるものになった。
「夜兎君......」
「何をしてるんだ?あいつ」
「さぁ?」
大振りなジェスチャーをしている夜兎に三人は微妙な表情をする中、夏蓮は夜兎を指差しながら話の続きをしだした。
「あんなんだから、気負うことはない」
「........何か大丈夫な気がしてきた」
伝わらないジェスチャーを送り続ける夜兎を見て段々と安心してきたのか、さやはポツリと呟く。
「取り敢えず、行くか」
「うん」
「それもそうだね」
ここにいても仕方がない。
(夜兎君だし、大丈夫だよね)
(お兄ちゃんならどうでもいい)
(あの場で関わらない方がいいな)
意味は違えど、考えることは皆一緒だった。
変なジェスチャーを送って周囲の視線を集めまくる夜兎を無視し、さや達は昼食を食べにその場を去っていった。
おまけ
【守護神】
チャラ男に絡まれた後
「おい、見ろよ。あの三人」
「滅茶苦茶可愛いな」
「声かけてみようぜ」
「止めとけって、振られるのが落ちだぜ」
「やる前から決めつけんなよ!とにかく俺はやる」
.......ギロッ。
「ひっ!!」
「どうした?」
「........やっぱ止めるわ」
「え?何だよ急に?」
「何か手を出したら殺されそうな気がする」
リーナが守護神と化していた。
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