初めての兄妹作業
メトロンの件が一段落付き、俺達は今、色々あって出来なかった海水浴をしようとしている。
「やっぱり綺麗だよなー」
水着姿で仁王立ちしながら、俺は目の前に広がる海を眺める。
太陽の光りが海を宝石の様に輝かせ、心地の良い潮の香り吹く。
モンスターのせいで最初は落ち着いて見られなかったからな。
やっぱり良い景色だ。
「気に入ってくれたですか?マスター」
「あぁ、お前の言う通りいい場所だな。ここ」
携帯の中で聞くメルに俺は満足そうに応える。
ここはメルお勧めの場所らしく、お勧めと言うだけあって景観もよく、涼めそうな岩陰とかもあって色々と快適だ。
「それはよかったです」
俺の満足そうな表情にメルは安心した顔をする。
メルも何時ものゴスロリ服とは違い、水着姿だ。データがあればいくらでもいけるらしく、気分で変えてみたとのことだ。
便利だな。
「お前も似合ってるな、その水着」
「えへへ、嬉しいです~」
俺に褒められ、メルは嬉しそうに顔をにやつかせる。
黒色のふりふりとしたスカートが付いたワンピースの水着で、メルによく似合っている。
「マスターも素敵です!その水着」
「そうか?別に普通だと思うが」
俺の水着は特に変わったところのない普通の紺色の水着だ。
別に褒められる要素は一つもないと思うんだが。
「マスターは何を着ても素敵です!」
「そう言うのはお前だけだと思うぞ」
メルの完全なる贔屓目では何を着てもそう言うんだろうな。
携帯から俺をキラキラとした目で見つめるメルに俺は苦笑する。
一通り景色も眺め終わり、俺は女性陣が来るのを待ち続けた。
「それにしても遅いな、あいつら」
何時まで経っても来ない三人に俺は一人呟く。
今さや達は岩の向こうで着替えて貰っている。
水着に関しては、俺が【空間魔法(効果範囲 特大)】で収納してあった。
こういうときにこそ、無限収納っていうのは役立つな。
ただ、夏蓮に「買い物楽そう」とか言われ、何時か荷物持ちにされそうな気がしてならないのは、少し憂鬱だったりする。
「女の子の着替えは長いものです」
「そういうもんなのか?」
「そうです!」
メルに強く言われ、俺は少々腑に落ちないながらも納得すると、後ろから声が聞こえた。
「お待たせ」
振り返ると、そこには水着を着た夏蓮達がいた。
「随分と遅かったな。どうかしたのか?」
「ん、ちょっと手間取った」
「特にさや殿がな」
そう言って、リーナは自分の後ろに隠れているさやに、目をやる。
さやはリーナの後ろに隠れ、恥ずかしそうに水着を隠しながらこちらを見る。
「さや殿、いい加減出てきたらどうだ?」
「待って、まだ心の準備が出来てないの....... 」
急かすリーナにさやはリーナの肩をがっちり掴みながら小声で話す。
そんなに恥ずかしいなら何で海なんて選んだんだよ。
心の中で俺は突っ込みを入れると、今度は夏蓮がさやを急かした。
「覚悟を決めて、さやちゃん。それじゃあ泳げないでしょ」
「分かってるんだけど。やっぱり何か勇気持てなくて........」
「最初は行けると思ったの......」と弱腰になりながらさやはリーナの後ろで縮こまる。
そんなさやに、夏蓮とリーナはあれこれ言って出るように促しているが、一向に出てくる気配がない。
しょうがない。少し強引だが、仕方ないか。
縮こまるさやを見て、俺はこのままでは進まないと思い、ある策に出た。
「さや、今すぐ出るか、転移で無理矢理出されるか、どっちがいい?」
「なにその二択!?」
唐突な選択にさやは驚いているが、このままだと本当に日が暮れかねない。
さやには悪いが、強行手段に出させて貰う。
俺の選択を聞いて戸惑っているさやに、夏蓮は俺の策に乗っかってきた。
「さやちゃん、早くしないとこいつに剥がされるよ」
「夏蓮ちゃんまで!?」
夏蓮が俺の味方に付いたことで、さやは更に驚く。
流石は我が妹。分かってるじゃないか。
言い方がなんか悪意を感じるが、そこはまぁいい。今はとにかくさやが出てくることの方が重要だ。
「さぁ、さや。早くしろ」
「さやちゃん、急いで」
「え、あっ、ちょ、えぇ!?」
俺と夏蓮の両方から迫られ、さやは退路が断たれるが如く追い詰められていく。
その様子を見ていたリーナが「この兄妹.......」と言いながら苦笑していたが、そんなのはお構いなしだ。
どんどん追い詰められていくさやは、俺と夏蓮の押しに負け始めている。
もう一押しだな。
「10数える内に出てこなかったら転移させるからな。10......9......8......」
「え、ちょ、待って、そんな急に!?」
いきなりのカウントダウンに、さやは待ってをかけようとするが、俺は一切止める素振りを見せない。
どんどんカウントが0に近づいていき、段々と焦燥に駆られてきたさやは「う~」っと唸りだし、悩む。
「3.......2........1.......」
「分かった。出るから、自分で出るから!!」
転移で無理矢理連れ出されるのは嫌だったのか、さやは遂に折れた。
作戦が上手いこと成功し、俺と夏蓮はしてやったりと顔を見合わせ、にやつかせる。
作戦通りだな。
「そ、それじゃあ.....行くね」
出ると言ってから、さやは緊張な顔をしながら一回深呼吸して自分を落ち着かせ、ゆっくりとリーナの後ろから離れた。
「ど、どうかな?」
少し不安そうにしながら尋ねてくるさやに、俺は思わず「おぉ....」と言葉が漏れた。
「似合ってるぞ、とっても」
「ほ、本当?」
「あ、あぁ」
似合ってると聞いて、さやはホッと安心する。
水着は確かに似合っている。
オレンジの可愛らしい模様が付いたビキニスタイル。さやにしては大胆だと思ったが、これはこれでとてもセクシーだ。
だが、そんな可愛らしいさやの水着姿より、俺はある事の方が驚いた。
さやって.....着痩せするタイプだったんだな。
「夜兎君....見すぎ」
「わ、悪い」
俺の視線に気付いていたさやは、恥ずかしそうに手で胸を隠す。
おっと、思わず見つめてしまった。
さやに言われ、俺は少し慌てて視線を逸らす。
これには夏蓮とリーナも俺と同じことを思っていたのか、自分の胸をさやと見比べながら顔を少し暗くさせる。
「胸か......」
「厳しい.......」
やはり二人も年頃の女の子。
胸の大きさを気にしているようだ。
二人はそこまで小さいという訳ではない。
ただ、さやが平均より大きいというだけで、全くないということはない。
あまり気にしなくてもいいと思うんだけどな。
二人を見て、俺はそう思っていると、一部始終見ていたメルが携帯から「マスター」と言いながら呼び出し、唐突に聞いてきた。
「マスターは胸が大きい人が好みなんですか?」
「「「!?」」」
この一言に、一瞬時が止まったようにさや達は動きを固まらせた。
「いきなりどうしたんだ?」
「マスターはさや様のお胸をじっと見ていたのですが、もしかしてマスターはネットで言うところの巨乳好きなのですか?」
「メル、ネットで変な言葉を覚えるの止めてくれ」
幼女の姿で巨乳好きなんて言葉を聞きたくなかったな。
急なメルの質問に俺はどう答えようか、うーんっと悩む。
こういうのは素直に言うべきなんだろうか。
だが、さや達の目の前で堂々と言うのと気が引ける。さっきから固まったままこっちに耳を傾けてるし。
未だ固まり続けるさや達に俺はどうしたもんかと考える。
暫く悩み込んだ末、俺はある答えを出した。
「特に拘りはないぞ。強いて言うなら好きになった人の胸が一番の好みだな」
「でも、じゃあ何でさや様のお胸はじっと見つめていたのですか?」
「あれは男なら誰だって見てしまうもんだ。他意はない」
俺の回答にメルは納得したのか、謝罪を述べた。
「そうだったのですか!疑ったりしてごめんなさいです!」
「次からは気を付けろよ」
我ながら逃げの回答だったが、上手くいったな。別に嘘を言っている訳じゃない。
俺がその人を好きになったということは、胸もひっくるめて全てを好きになったということだ。
それに胸も別に大きかろうが小さかろうが、そこまで拘りはない。
ただ、さやの胸が意外にもでかかったから驚いたというだけだ。
俺のこの回答に三人は何を思ったのか、無言のまま自分の胸を見つめていたが、もうそこに触れるのは止めよう。
自分に火の粉が降りかかるだけだ。
「んじゃ、そろそろ海に行くか」
「.....それも、そうだね」
「早く行くか」
「うん」
もう、深く考えるのはよそう。
三人はそう思ったのか、気を取り直して、海へと向かっていった。
別にそんな気にする必要ないだろ。
リーナと夏蓮の水着描写は次回ということで。
おまけ
【ネット】
「メルは色々な言葉をネットから採取してるのか?」
「はいです。ネットには沢山の言葉や情報が載っているので、とても便利です」
「へー、最近はどんなのを見てるんだ?」
「最近は人間の構造を調べようと思いまして、ネットでR18と書いてあるページをーーーー」
「メル、もうネットでそのページを見るのは禁止だ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




