ナンパじゃありません
メトロンへの仕返しも終わり、強制転移で俺は遺跡に戻った。
「あ、夜兎君」
「帰ってきた」
戻ってきた俺に丁度視界の真ん前に居たさやと夏蓮はいち早く気付き、俺を見て声をあげた。
それに促されるように他の二人も俺に気づき、どうだったかと詰め寄ってくる。
「怪我はないか?」
「どうだったの?メトロン様はぶん殴れた?」
やはりそこが気になるようで、リーナとサラは俺に聞いてくる。
サラなんか仮にも主人であるのにも関わらず直球的だ。
少しは隠すことをしたらいいのに。本当にいい性格をしている。
聞いてくる二人に対し、俺は成功の意味を込めてニコッと笑い、携帯のメトロンが膝を付いて項垂れる写真を見せた。
「この通り、バッチリだ」
その写真を見て、リーナもサラも納得したのか面白い物を見るような目で写真を見ている。
「こ、これは.......」
「ちょ、なにこれ.......」
その写真に、リーナとサラは大笑いするのを我慢するようにして眺める。
その気持ち分かるぞ。俺も実物を見たときは面白くて笑いそうになったな。
「神谷夜兎、その写真後で送ってくれ」
「私も欲しいわ」
「あぁ、いいぞ」
お気に召したのか、半笑いになりながら二人は頼んできた。
俺はそれに快く承諾し、二人に送ろうとするが、サラはどうやって送ればいいんだろうか。
「なぁ、サラ。お前携帯とか持ってるのか?」
「それが何なのか知らないけど、写真なら魔道具使えば大丈夫よ。それ貸して」
そうか、それならいいか。
俺はリーナの携帯に写真を送り、サラに携帯を渡しポケットから小型のカメラみたいなのを取り出し、そこから写真を撮った。
「これでいいわ。ありがとうね。はいこれ」
「あぁ」
サラに携帯を返して貰い、二人はご満悦な表情をしている。
そんなご満悦な表情をしているリーナにさやと夏蓮は「よかったねー」「ご満悦」と軽い雑談を始めた。
喜んで貰えてよかった。
ご満悦な二人に俺は撮った甲斐があったと顔が綻ぶ。
そんなやりきった感を感じてる中、俺は携帯の中にいるメルに話しかけた。
「気分はどうだ?メル」
「正直、マスターにあんなことを言われて、とても傷付きました、です......」
少し顔を俯かせ、暗い表情をしながらメルは言うが、直ぐにその暗い顔は笑顔に変わった。
「でも清々しました。あんなのに一生仕えてた自分が悔しいですけど、もうあの人は私のマスターじゃない、です」
完全に切り捨てている。
引きずってる様子はなく、吹っ切れた眩しい笑顔を浮かべている。
清々しい位に眩しい笑顔だな。
迷いが一切感じられない。
もう少し悲しそうにするもんだと思っていたけど。
「それに、あの元マスターの最後の顔も中々面白かった、です」
「だろ?」
ダメージ的にはメルがやった奴の方が一番凄いだろうけど、あれはあれで中々見物だった。
「お前もあれはよかったぞ」
「自分が出来る嫌がらせをしただけ、です」
そう言いながら俺とメルはふふふと小さく笑い合った。
何かメルとは気が合いそうだな。
メルと笑い合いながら俺はそう感じていると、なにか忘れてたのか、メルが「あっ」と声を出した。
「そういえば、言い忘れてた、です」
「?何をだ?」
「ここーーーーーもうすぐ崩壊する、です」
その瞬間、遺跡全体が揺れ始めた。
「きゃっ!」
「な、なに!?」
「地震」
「こ、これは!?」
いきなり遺跡が大きく揺れたことに、先程まで雑談していたさや達が動揺し、体勢を崩しかけた。
揺れは緩むことなく続き、天井の破片がボロボロと落ちてくる。
いきなりどうなってるんだ。
すると、携帯の中に居たメルがこの事態の説明をしようと、立体映像となって皆の前に現れた。
「皆さん、この建物は今崩壊しようとしています、です」
「崩壊って、なんで?」
「この建物は貯蓄していた魔力がなくなると、崩壊するように設定されています、です」
なんじゃそりゃ。
また何でそんな面倒な設定をつけてあるんだよ。無駄にテンプレだな。
最後の最後まで面倒なことをしてくれるあのクソガキに、俺はもっと何かやっておくべきだったなと後悔したが、それを聞いてサラが納得いかない様子をしている。
「ちょっと待って、そんな設定があるのに何で私ここに来させられたの?」
「ただ単に忘れてただけ、です。無駄骨、です」
「あんのクソガキぃぃぃ!!!」
自分が無意味に来させられた事に、サラは腹を立てながらメトロンを呪うように叫んだ。
触手モンスターに襲われながら辿り着いたのに、実は行かなくてもよかったとか。
それは怒るのも無理ないな。
自分の主をクソガキ呼ばわりするサラだが、今はそんなことを言っている場合ではない。
「とにかく全員俺の手に捕まれ。外に転移する」
そう言って俺は手を前に突き出した。
俺の指示に四人とも俺の手を掴む。
若干怒り気味のサラの腕を掴む力が何か強いけど、この際なんでもいい。
準備が出来、いざ転移をしようとしたが、さやが待ったをかけた。
「待って、メルちゃんはどうするの?」
さやに言われて俺はハッとなった。
確かにメルはただのAI。
この遺跡が崩壊したらどうなってしまうんだろうか。
さやの問いに俺達は一斉にメルの方を見ると、メルは儚げに微笑んだ。
「ここが崩壊すれば、私も消えちゃう、です」
そのメルの答えに、さや達はえっと小さく驚いた。
メルはメトロンの魔力によって生かされている。そして、その魔力が今尽きかけてるんだ。
消えるのも当然と言えば当然か。
「私は元々あの元マスターに造り出されたもの。元マスターと決別した今は、もう未練はない、です」
そう言い終えると、突如メルの体が所々ぶれ始めた。
消えるまでもう時間がないんだろう。
ぶれる箇所が増えていくにつれて、メルの死が迫っているのを告げている。
「ですから、皆さんは早くここから出てください、です」
まるで、死ぬ前の最後の願いのように、メルは真剣な目付きで俺達に言う。
そのメルの真剣な目付きと物言いに、何も言えないのかさや達は黙り込んだ。
空気がしんみりしていく。
さっきまでの和気あいあいとしていたとは真逆な雰囲気。
そんな間にも、揺れはどんどん激しさを増していく。
俺は心の中がもやもやし始めた。
つい数秒前はあんなに眩しい笑顔を見せていたのに、覚悟をしていたんだろうか。
最後に己の無念を晴らせて、それで幸せなのだろうか。
俺の中で色々な考えが混在していく。
(駄目だな......)
心の中でポツリと呟いた俺は混在していたあらゆる考えを振り払う。考えてたら埒が明かない。
俺はやりたいようにやる。それだけだ。
メルの話を聞いて暫く黙り込んでいた俺は、唐突に口を開き、
「皆、悪いが先に行っててくれ」
全員を転移させた。
突然のことに、四人は何も発することなく転移され、その場には俺と今にも消えそうなメルだけが残る。
「何故、貴方は行かないの、ですか」
今にも消えそうになりながらも、メルは俺に聞く。
お願いだから早く行って欲しい。
そう言わんばかりにメルは顔を歪ませる。
そのメルの質問に俺は軽い感じで答えた。
「ちょっとやり残したことがあってな」
「やり残したこと?」
俺のやり残したことが何なのか分からず、メルは首を傾げる。
メルの能力は有能だ。
そんな有能な能力をこのまま手放す程、俺は甘くない。
お前に生きる目的を与えてやろう。
そんな分からないと言った感じのメルに、俺は数秒前の軽い感じから一転し、真剣な眼差しでメルに告げた。
「俺のものになれ、メル」
おまけ
【もしも、さや達があまりにもしつこかったら】
「ですから、皆さんは早くここから出てください、です」
「そんな!?メルちゃん!」
「メル!」
「メル」
「メル!!」
「私の事はいいですから、早く」
「メルちゃん!」
「いえ、ですから.......」
「メル!」
「早く........」
「メル」
「ここから......」
「メル!!」
「出て行って.......」
「メルちゃん!!」
「いいから、早くしてください!」
「あ、崩れる」
ドォォォオォオォォオオン!!
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