犯罪も、皆でやれば、怖くない
ノーマルゴーレムを破壊し、これまでやられた分もきっちり返せ、俺はスッキリしながら皆の所に戻った。
「ただいまー」
「お帰り」
「流石だな」
「お疲れ様、夜兎君」
呑気に挨拶をする俺に夏蓮達は当たり前の様に返してくる。
二度目は慣れたのか、皆順応能力が高いな。
先程の戦闘が嘘のようなのんびりとした雰囲気の中、サラは一人だけ爆殺した地面を見ながら愕然としていた。
「な、なに、今の.........」
地べたに腰を下ろしたまま、サラは声を震わせる。腰が抜けたんだろうか。
足をガクガク震えている。
「サラ、驚くのは分かるがこれが現実だ。神谷夜兎とはこういう男だ。あまり深く考えるな」
経験者は語るとはこの事か。
リーナは同情するようにサラの肩に手を置く。
本人目の前にしてその言い草はないだろ。
うんうん、と頷きながら分かった様な顔をするリーナに俺は突っ込みたくなったが、それより先にサラの口が動いた。
「いや、それでもおかしいでしょ!何あれ!?あんなの馬鹿げてるわよ!?ただの人族が何したらこんな力得るのよ!?チートにも程があるでしょ!!」
ここに来てやっと口が回ってきたのか、サラは早口で捲し立てる。
言いたいことは分からないでもないが、こうなったのはお前んとこの神様のせいだからな。
そこんところ忘れるなよ。
「まぁ、そんなことより、これで邪魔も消えたな」
俺はそう言いながら転移魔法陣に目をやる。
結構激しい戦いをしたが、魔法陣はしっかり無事だ。壊れないように注意したからな。
メルはノーマルゴーレムが破壊されてから微動だにしていない。
完全に意気消沈している。
これで心置きなく魔法陣に近づける。
魔法陣の様子を近くで見ようと、俺は歩きだすが、俺が近づくのを見てサラが少し慌てながら言う。
「ちょ、何する気?」
「あれを使う」
「はぁ!?何で!?」
「あれ使ってメトロンをぶん殴るためだ」
それを聞いてサラは呆気に取られたが、直ぐに立ち上がり両手を上げ俺の前に立ち塞がった。
「駄目よ。これは私が破壊するんだから」
そういえば、こいつはこの魔法陣を破壊しに来たんだっけな。
さっきまで共闘してたんだから、少しは心変わりしてくれないだろうか。
「駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!大体何でメトロン様を殴りにいくのよ」
「色々事情があるんだよ」
あいつのせいで何回殺される目にあったか。
あそこまでやられて仕返ししないなんて思う程、俺は善人じゃない。
目の前に仕返し出来るものがあるなら即座に使う。俺はそういう男だ。
俺の目的を聞いて、驚くサラは今度は話の矛先をリーナに向けた。
「それにリーナ。あんたいくら変わったからってメトロン様を殴りに行かせるなんて、あんたなに考えてんの!?」
「あー、それもそうなんだがー......」
サラの言葉にリーナは歯切れの悪そうにサラから視線をずらす。
「私も一度メトロン様には痛い目に会えばいいと思ってな」
「あんた、それ本気?........」
「本気だ」
嘘のない、真っ直ぐな目。
このリーナの言葉にサラは信じられないという顔をする。
まぁ、リーナにも事情がある。
前のリーナしか知らない奴には分からないだろう。
「あんた、いったいどうしちゃったのよ.......」
「その、実はなーーーー」
未だ信じられない顔をするサラに、リーナは今まで自分の身に起きた事の全てを話した。
メトロンに裏切られ、俺と一緒に【零の世界】に閉じ込められた事。
そこでブラックドラゴンに襲われた事。
そして、それを隠蔽された事。
話の途中、サラは様々な形の驚き顔を見せていたが、最後までちゃんと話を聞いていた。
「ーーーーこれが私がメトロン様を殴るのを許可した理由だ」
「そう........」
全てを話終え、サラは深く考え込む様に目を瞑る。
まさか、自分の仕える神がそんな事をしていたなんて思ってもみなかっただろう。
考える所があるんだろうな、きっと。
考え込むサラを見て俺はそう感じていると、何かを決めたのか目を開かせ、軽い感じに言った。
「それは殴りに行くべきね」
迷いのない、屈託のない言葉。
先程の反論は何処へやら。
清々しい程の手のひら返しに、俺は軽くやるせない気持ちになった。
「いいのかよ」
「いいに決まってるでしょ。そんなことされたなら誰だってそう思うわよ。私だったら自分から殴りに行くわ」
そう思っていく内に島での事を思い出したのか「あー、何か私も腹が立ってきた」と言って、一人イライラを募らせている。
なんとも軽い奴だな。
考え込んでたんじゃないのかよ。
反対していたと思ったら、事情を聞いただけで迷いなく即決する。
いい性格してるな。
サラを見て俺は微妙な気持ちになっていると、途端にサラは少し不安そうな顔をしだした。
「あ、でも、これであんたがメトロン様を殴りに行ったら、私が危ないわね」
そう言った後、小声で「減給......」と聞こえた。
やはり、殴るのは賛成でも世知辛い社会事情には勝てないか。
不安そうに言うサラに対し、俺は問題ないとばかりに言う。
「大丈夫だ。そこら辺は考えてある」
「考え?」
「あぁ、元々メトロン殴ったらお前だけでなく、リーナまで疑われる。そう思って前もって対策は考えてある」
俺の言葉に安心したのか、サラはホッと息をつく。
「ならいいわね」
「そういうことだ。それじゃあ早速ーーーー」
「駄目、です」
サラの不安を取り除き、俺は改めて魔法陣に向かおうとしたが、今度はさっきまで固まっていたメルが立ちはだかってきた。
「ここから先は行っては駄目、です」
そう言ってメルはサラと同じように両手を広げる。まだ守ろうとするのか。忠実なことで。
健気に魔法陣を守ろうとするメルを見て俺はそう思うと、サラがメルに現実を突きつける。
「さっきも言ったわよね。メトロン様はあんたの事なんて忘れたって」
「まだ、そうと決まった訳ではありません、です」
口では否定するメルだが、サラの言葉が胸に突き刺さるのか、自信のない雰囲気を醸し出している。
それでも、メルは抵抗を止めない。
「それに、あの魔法陣は私でなければ動かせないので、行ったところで無駄、です」
え、そうなのか?
メルの口から出る重要な事に俺は驚きの顔を露にする。
「あれは、事前にマスターから頂いた魔力から成り立っているもの、です。私やこの建物も同様にマスターの魔力でなければ作動しない、です」
「もし、俺の魔力で使おうとすれば?」
「起動しません、です」
なんてこった.........。
予想外な事に天を仰ぐ。
てことは、この魔法陣はメルじゃなきゃ動かせないってことか。
この事実に俺はどうしたもんかと頭を悩ませたが、サラの言葉に反応していたメルを思い出す。
「なぁ、気にならないか?メトロンがお前の事をどう思ってるか?」
「......どういう意味、ですか」
警戒しながら聞くメルに、俺は口許をつり上げ、悪どい笑みを浮かべる。
「だったら、お前も一緒にメトロンの所に行こうぜ」
次回、やっとメトロンをボコす。
おまけ
【責任放棄】
「あんたって本当に変わったわね。リーナ」
「そうか?」
「そうよ。ていうか、あんたあんなことまでされて、自分から殴りに行こうとは思わないの?」
「いや、それはそうなんだが。流石に自分でメトロン様を殴るのはちょっと......」
「そこは変わらないわね」
「それに......」
「それに?」
「殴ったら首だぞ」
「それは嫌ね」
「だから他人に任せるのに限る」
「そうね、ばれても知らない振りすればいいだけだし」
「お前らちょっと話し合おうか」
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