やっぱ魔法って便利だよな
いきなり上からさやが降ってきて、俺は敵がいるのも忘れ、上に釘付けになる。
よく見るとさやだけではない。
夏蓮もリーナもロウガも、同様に落下してきている。
いったいどうなってんだ?
何であいつらが?
上を見ながら俺は首を傾げるが、そんなことを考えてる暇はない。
「助けるか」
俺は転移でさや達の下まで移動し、落下中のさや達を受け止める。
「よう、無事か」
「夜兎君!!.....」
空中で俺に抱えられ、さやは歓喜の顔を示すが、そんな感動の場面は何時までも続かず、直ぐに夏蓮達も落ちてきた。
「おっと」
「おー」
「ぐお゛っ!!」
後から落ちてきた、リーナと夏蓮が俺の両肩にのし掛かる様に、俺にぶら下がる。
落ちてきた衝撃と全体重が俺の両肩に乗り、俺は空中でバランスを崩しかけるが、何とか堪えた。
「わん!(主ー!)」
「ぐふぉ!」
そして、最後にロウガが覆い被さるようにして俺の顔に落ちてくる。
顔が仰け反りまたバランスを崩しかけたが、そこはレベルと魔法のお陰で何とかなった。
い、息苦しい。そして、前が見えない。
「これは、おも.....」
「何か言った?」
「い、いえ.....」
三人の重さで俺の率直な言葉に、夏蓮に鋭い目付きで見られ、口ごもる。
危ない危ない。つい言ってしまう所だった。
ノーマルゴーレムより断然軽いが、これはこれで体勢やら何やらでやりづらい。
「ロウガ、お前は一旦戻れ」
「わん!(はーい!)」
顔に乗っていたロウガを戻し、俺は改めて今の状態を確認する。
両脇にはリーナと夏蓮、真ん中にはさやに抱きつかれ、これだけなら何処のハーレム野郎だと言いたくなるが、状況が状況だ。
俺は乗り掛かってくる三人に堪えながら、ゆっくりと地上に戻る。
地上に戻り、俺は三人を降ろすと、ふぅっと息を吐く。
「そういえばリーナ、お前落ちなくても空飛べるだろ?」
今思えばリーナなら【天使化】で空を飛ぶことができる。何で使わないんだ?
俺はそう聞くと、リーナは何気なく言った。
「あれは、メトロン様から許可がなければ戻す事は出来ないんだ」
そうだったのか。
何か何時も当たり前の様に変身してたから気がつかなかった。
リーナの返答に俺はへーっと思っていると、
「それに......」
リーナは何か言いかけた。
顔が少しにやつき、落下した後とは思えない微笑みを見せている。
「それに?」
「.......いや、いい。やっぱり何でもない」
そう聞く俺に、リーナは取り繕った様ににやけ顔から真面目な顔に変わるが、夏蓮の一言にその顔は一気に崩れた。
「抱き付けてちょっと嬉しかっただけでしょ」
「ちょ、夏蓮殿!?」
夏蓮に言われ、リーナは途端に慌てだす。
「別に隠すことない」「だ、だからと言って........」と二人は何やら言い合っているが、まぁ、過ぎたことはどうでもいい。
そんな言い合っている二人を余所に、倒れているサラにさやは心配の言葉をかけていた。
「大丈夫?」
「え、えぇ」
いきなり話しかけられてサラは少し戸惑っている。
そうだ、こいつの怪我治してなかったな。
そう思い、俺はサラの怪我を治そうと膝を折り、サラの足首に手をかざす。
すると、サラの足首は優しい光りに包まれ、紫色に腫れた足はたちまち元に戻っていった。
「これで大丈夫だ」
「あ、ありがとう」
足を治して貰い、サラは少し照れながらお礼を言う。
元を正せば俺の作戦のせいだからな、これぐらいはする。
俺が魔法で怪我を治す所を見て、さっきから黙っていたメルが驚きの声をあげた。
「どうなってる、ですか。何で魔法が.......」
目を開き、訳が分からないとばかりに言うメルに対し、さっきまで夏蓮と言い合っていたリーナが簡潔に答えた。
「ここの建物に展開させていた魔法無効化の魔法陣を破壊させて貰った」
「そ、そんな.........」
先程の慌てぶりはどうしたのか、猛然と、そして堂々とリーナは言う。
それを聞いて、メルは有り得ないとばかりに呟き、呆然とする。
「お前らそんなことしてたのか」
「まあな」
「私が見つけた」
「少しでも夜兎君の力になりたくて」
少し関心気味に言う俺に、リーナと夏蓮は「やってやったぜ」、みたいな顔をしている。
若干さやは勝手なことして申し訳ないと思っているのか、少し腰が低い。
そんなさや達に対し、俺は微笑みかける。
「ありがとうな。お陰で助かった」
微笑みながら言う俺のお礼の言葉に、三人は頬を緩ませ、顔を見合わせる。
ぶっちゃけ本当に助かった。
あれがなかったら今頃どうなっていたか。
お礼の言葉を言い終わると、俺は依然とそびえ立っている赤いノーマルゴーレムに目を向けた。
「さぁ、決着をつけるか」
俺のやる気満々な言葉で我に返ったのか、呆然としていた顔から顔を引き締める。
「まだ、です。例え、魔法が使えても、このノーマルゴーレムにはーーーーー」
「悪いが、お前はもう手も足も出ねぇよ」
「っ!?!!」
言葉の途中、後ろに転移した俺に、メルは口が動くのが止まる。
突然俺の声が後ろから聞こえ、メルは振り返るが、もうそこに俺はいない。
「爆発拳」
メルが振り返った瞬間、赤い炎を纏った拳がノーマルゴーレムの胸に突き刺さる。
拳が赤い石に触れたと同時に爆発が起き、その衝撃でノーマルゴーレムは胸の石が砕け、尻餅を着く。
「余所見はするもんじゃないぜ」
メルを見ながら、俺はふっと笑う。
笑う俺の顔が癪に触ったのか、メルは驚いた顔から僅かに顔をむっとさせ、攻撃をしかける。
「やっちゃえ、です!」
少し荒い声で指示され、ノーマルゴーレムは尻餅を着けた状態で指先の石を俺に投げつける。
「言ったろ、もう手も足も出ないって」
投げつけられた石は、俺に向かって真っ直ぐ伸びていきーーーー右に曲がった。
「え?」
この現象にメルは目を疑った。
何も障害物がないのに、石は俺を避ける様にして曲がっていく。
次々と投げられる石達も同様に曲がっていき、俺から避ける。
「そんな、どうして.....」
いったいどうやって石は曲がっているのか、その理由は勿論俺の魔法だ。
【風魔法】を使い、石の軌道を曲げた。ただそれだけだ。
所詮は石が飛んできてるだけ。
魔法の妨害も付与もされていない。
軌道を曲げるなんて造作もないことだ。
全て投げ尽くしたのか、やがて石が飛ぶのが止む。
「これで終わりか?」
挑発するように俺はメルに問いかけると、メルは諦めず半ばヤケクソ気味に指示を出す。
「まだだ、です!」
尻餅を着いた状態のまま、指がなくなった手で、ノーマルゴーレムは俺に拳を放つ。
伸びてくる拳に俺は避けようとせず、ただ空中で棒立ちする。
拳は真っ直ぐと伸び、俺に届こうとしたが、
「削除」
拳が俺に届くことはなかった。
見ると、先程まで俺に向かって伸びていた拳が消え、片腕がなくなっている。
俺の【削除魔法】によりノーマルゴーレムの片腕が消滅し、メルはその光景に目を見開く。
「な、なんで、いったい........」
もう何がなんだか分からない。
いったい何が起きてるんだ。
声を震わせ、メルは今起きた事が呑み込めずにいた。
俺の【削除魔法】はあらゆるものを消せるが、生命に直接影響が出るようなものは消すことは出来ない。
よく考えてみて欲しい。こいつ、生き物じゃないだろ?
生きているとすればそれは核だし、それ以外の石なら消せるということだ。
なら何故全部消さないのかというと、ここまでされて直ぐに終わらせたくないというだけだ。
「終わりの時間だ」
俺は手を前に突き出し、止めの攻撃を繰り出す。
「爆殺の箱」
俺が念じた瞬間、ノーマルゴーレムの周りに四つの魔法陣が現れる。
四角で囲うように現れた赤いそれは、ノーマルゴーレムを箱に包むかのように囲い、その中心に淡い光りが輝く。
「これまでの分を倍にして返してやるよ」
魔法陣の中心に現れた淡い光りは、徐々にその強さを増していく。圧縮され、今にも爆発しそうなくらいに。
メルはもう指示を出す気にもなれないのか、それをただ呆然と見つめる。
そして、限界まで圧縮された光りはーーーー 一つの巨大な爆発に生まれ変わった。
ドガァァァアァアアァァン!!
魔法陣の内側で爆発したそれは、外側には一切漏れず、赤い光りが激しい爆音と共に輝きだす。
衝撃は漏れてしまうようで、爆発がする間地響きが鳴るが、爆発が消滅したと同時に地響きも消えた。
爆発が止み、地響きが消えたその場所に残ったものはーーー何もない。
跡形もなく、地面に僅かな焦げた跡や煙が立ち込める以外は、何もかもがなくなっていた。
これにはメルはもう言葉がでない。
「まぁ、魔法があればこんなもんだろ」
少し満足げに、俺はその場所を見て思った。
おまけ
【もしポン】
もしも、夜兎がポンコツだったら
「やっちゃえ、です!」
ヒュン!
「言ったろ、もう手も足も出ないっーーぶへぇ!!」
「まだだ、です!」
「さくじゅ。やべ、噛んじゃった。ざくじょ、あれ?さくじーーーーぶはっ!!」
「これは、おも......」
「何か言った?」
「重いって言った」
「ギルティ」
「いた!!ちゃ、まっ、落ちるぅぅぅぅ!!」
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