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ご都合主義に感謝を

「.......ねぇ、本当にやるの?」

「当たり前だろ」

「考え直さない?」

「直さない」



 今からやることが不安なのか、サラは何度も聞きに来る。

 さっきまでやるとか言ってた癖に何を今さら躊躇してるんだが。

 まだメルがこっちに気づいていないんだから早くやらなきゃ間に合わないぞ。

 何度も聞きに来るサラに対し、俺は即却下する。



「さっき倒せるなら何でもやるって言ったよな?」

「い、いやだって、これ.......」



 口をひくつかせながら、サラは自分が取っている体勢を確認する。



「今にも投げられそうなんですけど......」



 サラが今置かれている体勢。

 俺に首根っこを掴まれ、半ば引きずられ気味に地面に腰をつけている。 

 


「そりゃあ、投げるからな」

「分かってるわよ!でもあんたの作戦何か私の負担大きくない!?」


 

 しれっと言う俺にサラは不満の声をあげる。

 俺がサラに言った作戦、それは俺がサラをノーマルゴーレムの胸の真ん中に投げて核を壊す。

 それだけだ。シンプルイズベスト。



「そんなことないぞ。お前なら出来る」

「そんなことあるわよ!!」



 俺は頑張れよとばかりに、にこやかとエールを送る。

 まぁ、こいつの言う通りこの作戦はサラの負担が大きい。

 何故なら、サラのハンマーなら多分核まで充分届く。



 俺の拳で壊せたんだ。それより威力のあるそれなら楽にいけるだろう。 

 だから、俺はサラを投げ飛ばすのとそのフォローだけだ。 

 これぞ、適材適所。こういうのは適した人がやるのに限る。


 

 それに、サラのスピードだと自力で核に辿り着くのは難しい。 

 俺が投げた方が早い。



 俺に首根っこを掴まれギャーギャーと騒ぐサラを無視し、メルの方を見ると、丁度長いこと上がっていた土煙が晴れかけていた。 



「何処、ですか?」



 煙が晴れかけメルは俺達を探そうとキョロキョロしている。  

 今がチャンスだな。



「それじゃあ、やるぞ。上手くやれよ」

「え?ちょ、ちょっと待って!!まだ、心の準備が........」

「行ってこい!!」



 時間が惜しい。未だ納得出来ぬサラの言葉を聞かず、俺はサラを放り投げる。



「ちょ、ちょっとぉぉぉぉおおお!!!」



 いきなり放り投げられサラは大声を出し、部屋中に響く。

 そんな大声をあげたせいか、メルがこちらに気付いた。 

 


「見つけた、です」



 飛んでくるサラに気づき、メルは防御の体勢を取らせようとするが、



「悪いが、邪魔はさせない」


   

 ノーマルゴーレムの手が砕けた。

 巨大な石を持ちながら俺は言う。

 手が砕けたことで、もう核を守るものはない。

 後はサラの仕事だ。

 投げ飛ばされ大声をあげたていたサラは、腹を括ったのかハンマーを核に向けて構える。



「砕けなさい!!!」 



 若干ヤケクソな声と共にサラはハンマーを降り下ろす。そして、核がある場所へと直撃する。

 


ドゴォォオォォォォオオン!!!



 飛んでいく勢いとハンマーの重さが合わさり、今までにない巨大な爆発を起こす。

 地面が揺れ、爆発音で耳鳴りが起き、部屋中に煙が舞う。 



「きゃ!」



 この巨大な爆発にはサラも堪えきれず、爆発が起きた瞬間小さく悲鳴をあげ吹き飛ばされている。

 これでどうだ?

 爆発の衝撃に堪えながら、俺はノーマルゴーレムの方を見る。

 すると、煙が晴れ、見えなくなっていたノーマルゴーレムが姿を現す。


 

「まじかよ.......」



 ノーマルゴーレムの姿に俺は目を開く。

 爆発の衝撃で倒れていたが、ノーマルゴーレムはまだ生きていた。

 核の周りが砕け、剥き出しの状態のまま、少し傷付いてはいるがまだノーマルゴーレムはピンピンしている。



「な、何でまだ生きてるのよ!?」



 これにはサラも有り得ないとばかりにノーマルゴーレムを見る。

 確かにあんな攻撃を喰らわせれば勝ったと思うだろうな。

 実際俺も思ったし。



「危なかった、です」



 ノーマルゴーレムが無事なことにメルはふぅっと一安心する。 

 あれ喰らって何で生きてるんだ?

 俺は疑問に思っていると、メルが応えてくれた。

 


「念の為に核の部分の石を厚くしてよかった、です」



 どうやら、そういうことらしい。

 まさか、石を厚くしていたとは。

 あー、くそー。

 


「駄目か」

「駄目かじゃないわよ!!」



 若干わざとらしく悔しがる俺にサラはきれっきれな突っ込みをあげる。 

 


「どうするのよ!?結局駄目だったじゃない!!」

「まぁ、そう慌てるな。取り敢えず.....」



 作戦が失敗し、ご機嫌斜めなサラを宥めつつ、俺は近くの石を持上げる。

 今ノーマルゴーレムは再生中で核が出たまんまだ。これを狙わない手はない。



「そりゃ」



 小さな掛け声と共に俺は核に向かって石を投げる。走ってたら間に合わないかもしれないが、こらなら届く。

 投げられた石は真っ直ぐ飛び、核に命中する。



 核に命中したのを確認し、俺は一瞬やったかと思ったが、核は傷一つついていなかった。



「核は固いので、そんなのは通じない、です」



 そうだったのか。驚きの核の固さに俺は軽く舌を打つ。

 核が固いとか、そんなん有りか。

 再生も終わり、核が再び石の中に埋もれ俺はどうするかと考え、もう一度出来ないかとサラに聞く。



「おい、今のもう一回やれるか?」

「あれはもう二度とやらないわよ!それに.....いた!」



 自分の足首を見ながらサラは痛みだし、悶絶する。どうやらさっきの爆発で吹き飛ばされた時に足首を捻ったようだ。紫色に腫れている。

 これじゃあ、もう戦うのは無理か。



「手詰まり、か........」



 魔法が使えない以上治すことは出来ない。

 どうする........。

 すると、手詰まりでヤケになったのか、サラがまた騒ぎだした。



「何であんた私の邪魔するのよ!!」 

「ここを守れとマスターに命令されているから、です」



 そんなメルの言葉に、サラは言ってはいけない真実を述べる。



「メトロン様に捨てられたのが今更邪魔しないでよ!!!」



 そのサラの一言に俺は固まる。



「あ、おまっ、バカ.....」



 そんな火に油を注ぐような事を言ったら......。

 俺は慌ててサラを訂正させようとするが、



「どういう意味、ですか?」


 

 メルは既にお怒りのようだ。 

 声のトーンは変わってないが、さっきのとは明らかに雰囲気が違う。

 そんなメルの怒りなんて無視し、サラは更に火に油を注ぐような言葉を放つ。



「私はメトロン様に言われてここに来たのよ。なのにメトロン様はあんたの事を一切言ってない。それってつまり忘れられたか、捨てられたって事でしょ!!」

  


 倒せなくてイライラしているのか、サラはでかでかと大声で真実を叫ぶ。

 続けざまに火に油を注ぐような言葉に、俺は頭を抱える。

 駄目だ、終わった......。



 そんなサラの言葉に、メルは俯きながら黙って聞いていると、



「.......違う」

 


 唐突に呟き出した。



「なによ?」

「そんなわけ、ありません!」



 さっきまでの抑揚のない声とは反対にメルは叫ぶ。最早語尾の「です」もない、まじな怒り。 

 


「マスターはそんな人じゃありません。勝手なことを言わないで下さい」

「あんたより私の方がメトロン様といた期間の方が絶対長いわ。たかが数週間一緒に居たくらいで分かった様なこと言うんじゃないわよ!!そっちこそ勝手よ!!」

「うるさい、です!分かっていないのはそっち、です!」


 

 互いに白熱する言い争い。

 どちらも一歩も譲らず、どんどん争いの熱が増していく。  

 やっぱりこうなったか。メルにそれを言うと面倒になるに決まってるのに。  

 未だ争う二人を見て俺はため息をつく。

 やがて段々とヒートアップしていき、遂にメルの怒りも頂点が立った。

  


「もう、許さない、です」



 その瞬間、ノーマルゴーレムの体に異変が起こった。

 突如ノーマルゴーレムの瞳が光り、体全体が赤く染まる。

 それは核の部分を中心に、周りへと一気に広がる様に染まっていく。

 


「マスターを悪く言う人は、許しません、です」



 まるでメルの怒りを表した様に染まるそれは、雄叫びをあげるかのようなポーズを取り、俺とサラを見据える。

 ほーら、言わんこっちゃない。

 こうなるのが嫌で俺は言わなかったのに。

 全く面倒な事をしてくれる。  


 

 更なる面倒な展開に俺はげんなりするが、赤く染まったノーマルゴーレムを警戒しながら、先手必勝と前に飛び出す。

 何かしてくる前にやるだけやってやる。

 一撃入れようと俺はノーマルゴーレムに向かうが、



「遅い、です」



 一撃入れる前にメルに気づかれた。

 だが止まるに止まれず、俺はそのまま駆け出すが、本能的に感じた微かな嫌な予感に思わず足を止める。

  


 ズドンッ!!



 嫌な予感がし、足を止めると、目の前に赤い石が落ちてきた。

 的が外れ、ノーマルゴーレムは伸ばした拳を元に戻す。後数十cm手前で、俺は冷や汗を掻く。

 あのまま行ってたらやばかったな。

 まさか、あそこまでパワーが上がっていたとは。スピードが段違いだぞ。



「なら、今度はこっち、です」



 この状態でも避けられたメルは俺を厄介に思ったのか、ターゲットをサラに移す。サラは狙いが自分に変わったと分かり、逃げようと足を動かすが、足首の怪我で動けない。



「この....いた!.....」

「くそ!」



 動けないサラを見て、俺は急いで駆けつける。

 だが、リーチの差か。俺が着くより先にノーマルゴーレムの拳がサラに届こうとしている。

 不味い、このままじゃ!



「先ず一人、です」

「い、いや.....」



 もう無理だと感じ、サラは諦めたかのように目を瞑る。

 くそ!届かない!

 俺は諦めず手をサラに向けて伸ばす。

 だが、そんな俺の意思を嘲笑うかのように、ノーマルゴーレムの拳は確実にサラと距離を縮める。

 


 このままではサラが危ない。

 俺は心から願う。

 頼む、届いてくれ!

 その瞬間ーーーーー俺の願いに応える様に力が湧き出てきた。

 

 

「ま、まさか......」



 心の芯が熱くなるような、なかったものが埋まっていくような、そんな感じ。

 突如沸いてくるこの力に俺は驚いたが、今はそんな場合じゃない。



 ノーマルゴーレムが放った拳は、動けないサラに向かって伸び、激突する。

 ズドンッ!!と音を建てながらノーマルゴーレムはゆっくりと拳を引く。


 

「!?これは.....」



 拳を引いたその跡を見てメルは驚愕する。



「いない、です?」



 そこにサラの姿がなかったのだ。

 跡形もなく消えた訳ではない。

 第一そこまでの威力はない筈だ。

 ではいったい何処に行った?

 

 

 メルは辺りを見回すと、サラの肩を担ぐ俺の姿を捉えた。



「ギリギリだったな」

「あ、あんた、どうやって......」



 ギリギリ間に合い、俺は安堵の息を漏らす。

 もう終わったと思っていたサラは、いきなり現れた俺を見て困惑する。

 まさか、ここにきて元に戻るなんてな。

 ご都合主義にも程があるだろ。

 

  

「転移魔法だ」 



 俺はそれだけ言うと、軽く苦笑する。

 何か出来すぎてる気もするが、お陰で助かった。嫌な奴でも、流石に死なれるのは後味が悪い。



「いったい、何をしたん、ですか」



 まさか、魔法を使ったと思っていないメルは軽く困惑している。

 正直、俺も困惑している。

 何で急に魔法が使える様になったんだ?

 


 俺はそんな疑問に刈られたが、次なる展開にその疑問が吹き飛んだ。 



「きゃぁぁぁぁぁ!!」



 魔法が使える様になったと思ったら、今度は上から聞いたことあるような悲鳴が聞こえた。

 その悲鳴に俺は上を向き、その悲鳴の主を見て驚く。

 あれ?さや!?

おまけ


 【出番はない、かも?】


「なぁ、夜兎」

「なんだ?おっさん」

「最近、俺の出番がないのは気のせいか?気のせいだよな?」

「気のせいじゃないだろ。何話出てないと思ってるんだよ」

「やっぱりかぁ!!どうせこんなおっさんが出たところで誰も喜ばないもんな!!」

「まぁ、そう悲観的になるな。出番はあるぞ」

「なに!?何時だ!」

「いつかな」 

「それは答えになってないだろぉ......」



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