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利用するのはお互い様

 夏蓮ちゃんに手を引かれて部屋の外に連れ出されてからずっと、私は夜兎君のいる方を見ていた。

 


「夜兎君.........」



 部屋を出てから何回か地面が揺れる音が聞こえる。きっと激しい戦いをしているのだろう。

 夜兎君は確かに凄い。

 普通じゃ出来ないことを当たり前のようにして、人間離れした力を持っている。

 あの力なら、さっきのあの石像みたいなのも簡単に倒せるかもしれない。



 でも、そうだとしても、やっぱり心配なものは心配。

 例え、尋常な力を持っていても、誰にも負けない強さがあっても、この心配な心が消えることはない。



(二度目は、嫌だよ........)



 大切な人が二度も居なくなるなんて、そんなの嫌。夜兎君はお父さんと似ているところがある。

 だから、どうしても重なって見えてしまう。

 また、大切な人が目の前から居なくなる。

 そう思うと、胸が苦しくて、嫌な不安が頭をよぎって仕方がなかった。



(力になるって決めたのに.......)



 自分も何かしたい。何か夜兎君の力になりたい。そう思っていたのに、このざまだ。

 所詮、何も力がない一般人の私には夜兎君の力になるなんて無理だったんだろうか。

 何も出来ない自分に歯痒さを覚える。

 唇を噛み締めながら、私は悔しい気持ちになっていると、自分の手を引いていた夏蓮ちゃんが急に立ち止まった。



「ここら辺」



 急に立ち止まり夏蓮ちゃんは辺りをキョロキョロしながら呟く。  

 いきなり立ち止まったことに私は驚きながら鼻を夏蓮ちゃんの背中にぶつける。



「いたたぁ.....。どうしたの夏蓮ちゃん?急に止まって」



 ぶつかった鼻を擦りながら、私は夏蓮ちゃんに聞く。

 何かを探してるのか、夏蓮ちゃんは未だ来た道を見回している。



「どうしたんだ?夏蓮殿。早くここから出るぞ」

「ここからは出ない」



 リーナちゃんの言葉に夏蓮ちゃんは即座に拒否した。 

 この夏蓮ちゃんの即答には、私もリーナちゃんも「え?」と驚いている。

 え、ここから出るんじゃないの?



「出ないって、何をする気なの?」

「あれの加勢する」



 あれとは勿論夜兎君のことだろう。

 加勢って、またあっちに戻る気なんだろうか。

 加勢と聞いて少し戸惑う私とは違い、リーナちゃんは夏蓮ちゃんを止めに入った。



「駄目だ。今戻ったって私達に何も出来ることはない」

「分かってる。それでも、何もしないのは、嫌」



 真っ直ぐな目でリーナちゃんを見つめながら夏蓮ちゃんは言う。

 本気なんだろう、真剣さがこちらにも伝わってくる。 

 その表情を見て、私は思った。

 夏蓮ちゃんも同じ気持ちだったんだ。



 聞いた話では夏蓮ちゃんも夜兎君に色々と助けられたらしい。

 私と同じで助けられてばかりで、何も力になれない。夏蓮ちゃんも、何か夜兎君の助けになることがしたかったんだろう。

 


(強いなぁ..........)



 私では到底出来そうにない。

 自分でなにかを見出だすことも出来ず、ただ待っているだけの私とは全然違う。

 自分でやれることを探し、それを実行する。



 流石は兄妹というか、なんというか。

 行動力がある。

 そんな夏蓮ちゃんに、私は少しの劣等感を抱いていると、夏蓮ちゃんは問題ないとばかりに言った。



「それに、別にあっちには戻らない」

「え?じゃあ何をするの?」



 そう言う夏蓮ちゃんに私は首を傾げる。

 あっち戻らないとしたら他に何をするんだろうか。そう思う私に、夏蓮ちゃんは悪戯な、そして得意気な誰かさんみたいな笑みを浮かべて言った。



「私達には私達に出来ることがある」









ーーーーーーーーーーーーーーー








 

 さや達が部屋を出ていってから。

 俺は覚悟を決め、ノーマルゴーレムへと向かっていく。

 体に【身体強化(特大)】をかけ、スピードが更に増していき、走って来る俺を見て、メルはノーマルゴーレムに指示をだした。



「やっちゃえ、です」



 メルの指示の下、ノーマルゴーレムはゴゴゴッ!!と関節部分から音を鳴らしながら拳を引く。

 でかいだけあって動作は遅い。

 避けるのは容易いが、こんなの避けるまでもないな。

 俺は拳を構えるノーマルゴーレムに突っ込むように跳躍し、空中で俺も拳を構える。   



「行け、です」



 メルがそう言った瞬間、ノーマルゴーレムの拳は俺へと放たれる。

 拳は俺へと真っ直ぐ向かっていく。

 その大きさは俺を軽く包み込めそうなくらいだ。

 だが、強そうなのは見た目だけだな。

 俺はタイミングを見計らい、ノーマルゴーレムの拳を殴り付ける様に拳を振るう。



 拳と拳。片方は石だが、俺とノーマルゴーレムの拳は互いにぶつかり合い、一瞬だけ硬直する。

 ドガッ!!と鈍い音を建てながら、少しの硬直の後、ノーマルゴーレムの拳にヒビが入った。

 ピキピキと俺の拳の当たったところから亀裂が走り、やがてノーマルゴーレムの右手全体に広がりながら、砕け散る。 



「やっぱり所詮はただの石か」



 砕け散る右手を見ながら俺は確信する。

 いくら体がでかく巨大でも、石は石。

 その強度は変わらない。



 素の状態でも石を砕ける俺からしたら、こんなのみてくれだけに過ぎない。

 これなら何時かのブラックドラゴンの方がよっぽど固かったな。



(これならいける)



 ノーマルゴーレムの右手を砕き、俺は内心そう思っていると、メルは何て事ないように言った。



「問題ない、です」



 その瞬間、砕け散ったノーマルゴーレムの右手の破片が突如元の右手に集まりだした。

 破片が次第に集まるにつれて、どんどん砕けた右手が修復されていく。



「再生可能、です」



 全ての破片が右手に集まり、砕けた右手は完全に修復された。

 そう簡単にはやらせてはくれないか。

 右手が完全に治り、俺は少し舌打ちをついたが、直ぐに次の行動に出た。



「そっちがその気な、ら!」

 


 先に核を潰すしかない。

 俺は再びノーマルゴーレムの方に向かって突っ込んでいき、今度は胸の真ん中に向かって跳躍した。

 真っ直ぐと核の方に向かっていき、俺は胸の真ん中を思いっきり殴り付ける。



「させません、です」



 だが、そうさせるほどメルも甘くない。

 俺が胸の真ん中を殴り付ける瞬間、ノーマルゴーレムは両腕をクロスさせ核を守る。

 俺の拳はクロスされた両腕に突き刺さり、左腕の真ん中が砕けた。



 くそ、ガードされたか。

 真ん中が砕け左腕が折れるようにして落ちるが、直ぐ様右手で左腕を掴み、まるでプラモのようにカチャッと左腕にくっつける。

 昔のロボットかよ。



「便利だな.......」

「確かに便利、です」

 

 

 取れた左腕をくっつける様子に俺はそう思った。

 しかし、いけると思ったがこれは中々面倒だな。

 体の何処を破壊しようと直ぐに再生し、核を狙おうとしてもガードされる。

 攻めるに攻めきれず、どうしたもんかと頭を悩ませていると、今度はメルが仕掛けてきた。



「今度は、こっちの番、です」



 そう言うと、ノーマルゴーレムの右手が思いっきり俺に向かって振り抜かれる。

 やっぱり遅いな。俺は拳を軽々避け、今度こそと胸の真ん中にジャンプする。

 だが、また左手で遮られてしまったが、そんなの関係ないとばかりに俺は左手ごと拳で殴る。



 左手は粉々に砕け、胸には届かなかったが、これで終わりじゃない。

 右手で殴った後、今度は左手で胸の真ん中を殴り付けた。



 俺の左手がノーマルゴーレムの胸に突き刺さり、胸の真ん中の石が剥がれる様にして崩れ去っていく。

 


「これが核か」



 石が剥がれると、中から赤いこれまた巨大な宝石のような石が顔を出した。

 これがリーナの言っていた核か。

 これを壊せばいいんだな。

 俺は早速核を壊そうとしたが、それをさせてくれる程メルは黙っていない。



「やらせません、です」



 すると、ノーマルゴーレムの右手が俺を掴む様にして、俺に迫ってきた。

 迫るノーマルゴーレムの右手に俺はぎりぎり回避し、一旦距離を置く。

 くそ、もう少しだったのに。



 後一歩のところで邪魔をされて、俺は悪態つく。後一手攻めたりない。

 やはり素手だけじゃ力不足か。 

 魔法さえ使えればな。

 俺は魔法が使えないことに嘆く。

 しかし、どうするか........。



 このままじゃ倒せはしないが、やられもしない。

 じり貧だ。いや、体力的に見るとこっちが不利だな。

 俺は少し方法を考えたが、なにも浮かばず、取り敢えず殴るだけ殴ることにした。

 


(このまま何もせずにいるよりはましか)



 やってればその内突破口とか見えてくるかもしれないし。

 俺はそう決め、いざもう一度攻撃を仕掛けようと前に出ると、

ーーーー突如地面が小さく揺れた。



「ん?」



 突然揺れたことに俺は一瞬気のせいと思ったが、その揺れは徐々に強さを増していく。



「何ですか、これ?」


 

 どうやらメルにも分からない様で、突然の揺れに動揺している。

 揺れの強さが増していくと同時に、次第に遠くから爆発音が聞こえ来た。

 その爆発音はどんどん鮮明に聞こえ、確実にこちらに近づいてきている。



(あれ?これって........)



 何かこのシチュエーション前にもあったな。

 前の記憶を探りながら俺は何なのかと思い出そうとする。

 あ、もしかして.......。

 俺は何かを思い出したと同時に、壁の方から爆発が起きた。



 爆発が起きた壁から土煙が上がり、次第にそれは姿を現していく。

 肩にハンマーを担ぎ、白髪の黒目に鬼の形相をした、サラの姿が。



「見つけたああぁぁぁ!!!」



 サラは俺を見つけた瞬間、大声をあげながら俺の所に走っていき、胸元を荒々しく掴む。



「あんた!さっきはよくもやってくれたわね!!お陰でまた一からやり直しをする嵌めになったじゃない!!!」



 「どれだけ苦労したと思ってるのよ!!」と俺の胸元をぐらぐらと揺らしながらサラはいきり立つ。そういえば、島の外まで俺が転移させたんだったな。すっかり忘れてた。

 


「意外と早かったな。よく一人でここまで来れたな」



 正直もう少しかかると思っていたんだが。

 外のモンスターじゃそんな時間は稼げなかったか。しかも、壁壊してきたってことはこいつ、非正攻法なやり方で来やがったな。


 

 何てせこいことをしてんだ、こいつは。

 胸ぐらを掴まれながら俺はそう思っていると、俺の目の前で何やら騒いでいるサラを見て、メルは思い出したかのように言った。



「途中から、忘れてた、です」 



 どうやらメルも忘れてたようだ。

 それじゃあ、こいつ外でモンスターに殆んど会ってないのか。

 何とも悪運がいい奴だな、こいつ。

 ぐらぐらと揺らされながら、俺は思う。

 取り敢えず落ち着かせるか。

 これじゃあ埒があかないし、脳が揺れて変な感じがしてきた。



「まぁ待て。今はそんなこと言ってる場合じゃないぞ。あれ見ろあれ」



 揺らされながら指差す俺に、サラは不機嫌気味にその方向を見ると、今まで気付いていなかったのか、盛大に驚いていた。



「な、何あれ!?」



 驚きのあまり俺を掴む手が離れ、俺は解放されてふぅっと一息つく。

 


「あれはこの遺跡のラスボスみたいなもんだ。あれを倒さない限り、あの魔法陣には辿り着けない」



 俺はそう言うと、サラに提案した。



「どうだ?ここは一つ共闘と行こうぜ」

「はぁ!?何であんたなんかと!」



 俺の提案にサラは即座に拒否をしようとしたが、俺は付け加えるように言った。



「あれを倒さない限りお前の目的は達成できないぞ」

「ふん!そんなの私一人で!!ーーーーー」

「ハンマーで大降りしか出来ないお前がか?そんなの一撃防いだだけで直ぐに来る二発目が来て終わりだぞ」



 俺の指摘にサラは確かにと思ったのか「うっ.....」と口を閉ざした。

 サラのあのハンマーの威力は高い。

 あれを使えばノーマルゴーレムを倒せるかもしれない。

 だが、一人だとハンマーのせいで隙が出やすくなる。

 そこを俺がカバーすれば勝機が見えてくるだろう。



 俺の申し出にサラは暫く深く考えるが、返事をする前にメルが仕掛けてきた。



「やられる前にやれ、です」



 メルの指示にノーマルゴーレムは拳を俺達に振るう。

 いきなり拳を振るわれ俺とサラは咄嗟に避け、拳が地面に突き刺さる。拳が当たった地面は陥没するように穴が開く。



「ひぇ.....」



 陥没した地面を見てサラはゾッとする。

 俺ならともかく、今のサラのレベルじゃ確実に潰されるからな。

 もし避けなかったらと思うと、ゾッとするのも無理はない。



「さぁ、どうする?やるのか?やらないのか?」



 急かす様に俺はサラに言うと、決心したのかノーマルゴーレムを見ながらハンマーを構える。



「言っとくけど、私は私の目的の為にやるんだからね。それにこの次はあんたの番よ!!」

「そうかい」



 流石にあれを見た後じゃ一人で向かう気にはなれなかったのか、いきり立ちながら言うサラに俺は肩をすくめる。

 それでもいい。利用するのはお互い様だからな。

 俺はそう思い、拳を構える。



「足を引っ張ったらただじゃおかないわよ!!」

「それはこっちの台詞だ」



 お互いに少し言い合いながらも、俺達は再度ノーマルゴーレムへと挑む。

 

おまけ


 【勘違いしないでよ!!】


「いい!!これは私の目的の為にやったことだからね。勘違いしないでよ!!」

「分かってる」

「いい!!勘違いしないでよ!!」

「分かった分かった」

「本当に勘違いしないでよ!!」

「だから分かったって」

「本当の本当に勘違いしないでよ!!」

「分かったって言ってるだろ」

「本当の本当の本当に勘違いしないでよ!!」

「だから.....」

「本当の本当の本当の本当に勘違いしーーーー」

「しつこい!!」



ーーーーーーーーーーーーー



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― 新着の感想 ―
[一言] 非正攻法はさすがに変かと 正攻法の対義語は「裏の手」「変化球」「奇策」「搦め手」といったあたりで
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