気合いの入れ方が違うな
4月14日 最後の所付け足しました。
メルが消えた後、俺達は遺跡の奥へと進んだ。
メルが言うには、ここから先はもう危険なトラップは殆んどないらしい。
ほぼほぼメルの自滅だったが、貴重な情報を得た。
存分に活用することにしよう。
「だが、それなら何故わざわざ魔法を禁止する必要がある?」
進む最中リーナが聞いてきた。
正直それには俺も同意だ。
魔法を禁止してるのに危険なトラップがないなんておかしすぎる。
いったい何がしたいんだ?
「他になにかあるのか?」
もしかしたら、危険なトラップがないというのは嘘で、本当はあるかもしれない。
あれは全部演技ということもある。
しかし、そう考えてたらきりがない。
どうしたもんかと俺はう~んと頭を捻りながら唸っていると、この遺跡の中を見てさやが呟く。
「なんかこういう所って、床のスイッチを踏んだらトラップが作動するってあるよね」
石造りの床や壁。
今にもなにかが出てきてもおかしくない雰囲気。これぞダンジョンといった感じから、さやはそう思ったのだろう。
この何気ないさやの呟きに、近くで聞いていた夏蓮がいけないとばかりに即座に反応した。
「さやちゃん、そういうこと言うとーーーー」
ガコンッ!
「へ?」
夏蓮が言い切る前に、さやの踏んだ石の床が突如凹み、さやは固まりながら変な声が出る。
ガコンッ!という音が聞こえ、俺達は黙ったまま揃ってさやが踏んだ床を見つめた。
おいおい、まさか........。
凹む床を見ながら感じる俺の嫌な予感に応えるように、突如さやの足元に魔法陣が現れた。
「え、ちょ、ちょ!?」
突然現れた魔法陣は輝きだし、徐々にその強さが増していく。
その魔法陣にさやは驚き困惑していると、直ぐにリーナがさやにそこから出るよう指示を出した。
「さや殿!早くそこからでるんだ!!」
「そんなこと言われても、動けないよぉ」
手をばたばたと振りながら、さやは動けないのをアピールする。
しまった、危険なトラップはないってやっぱり嘘か!
さっきのメルの言葉が演技だと分かり、俺は自分の失態を悔やんだ。
てか、さや何かさっきからフラグばっか建ててるな。天然で無自覚なせいなのだろうか。
ある意味厄介だ。
何回もフラグを建てるさやを見て、俺はそう思ったが、今はそんなこと言っている場合ではない。
「さや!」
俺はいち早くさやの所に行き、手を掴む。
このままさやを転移させれば......。
さやの手を掴みながら俺はそう考えたが、ここである重要な事を忘れていた。
「あ、やべ」
ここ魔法使えないんだった。
焦りのあまり頭の中から忘れていた。
手を掴んだまま俺はしまったと顔を固まらせるが、魔法陣は待ってはくれない。
さやの足元の魔法陣は更に輝きを増し、今にも発動しそうだ。
「くそ!」
もうこれでは他の策を考えている暇はない。
俺はさやを覆い被さる様にして抱き締め、さやの身を守る。
これだけステータスが上がってればそう簡単には死にはしないだろ。
俺は【身体強化(特大)】で体を強化し、トラップに備える。
頼む、堪えてくれ!
俺の訴えと裏腹に、魔法陣は輝きは頂点に達し、やがてその効果を発揮する。
「さや殿!!神谷夜兎!!」
“主ー!”
「お兄ちゃん!!」
「夜兎君!!」
リーナ達の叫びの声と共に、魔法陣の輝きが一瞬にして消えーーーーー
ガシャーンッ!!
上から何かが落ちてきた。
「へ?」
その物は俺の頭の上に落ち、音が遺跡内に響く。
上から来る痛くもない衝撃に、俺は呆気にとられた。
それは俺だけでなく、リーナ達も同様に落ちてきた物を見て、呆然としていた。
「何だこれ?」
「タライ」
“何か凄い音したねー”
銀色のスチール、昔ながらの形状。
それはコントでもよく見るタライそのものだ。
え?何でタライ?
上からタライが落ちてきて、俺は未だ事情が呑み込めず、たださやを抱き締めたまま立ち尽くす。
これにはさやも予想外すぎるのか、俺に抱き締められてるのを忘れ、タライを見つめたまま呆然としている。
何なんだ、いったい.......。
呆然としている俺達に、この状況を一気に説明してくれるある文字が現れた。
その文字が現れた瞬間、俺はこのよく分からない状況に全て納得したと同時にーーーー
『やーい!引っ掛かったー!!』
殺意が芽生えた。
「ほぉ......」
空中に浮かぶこの文字を見た瞬間、俺は最初メルが言っていた事に全て理解し、わなわなと肩を震わせる。
成る程、こういうとことか。
「や、夜兎君?」
わなわなと震わせる俺に、さやは何て声をかけたらいいか分からず、俺の顔を窺う。
これには流石に夏蓮やリーナもコメントしづらいようで、無言のまま顔をひきつらせる。
つまり、危険なトラップはないが、こういう人をおちょくるトラップばっかってことか。
多分メトロンは、あのクソガキは外のトラップよりこっちに気合いを入れたんだろうな。
魔法を封じてまでこれをやりたかったのだろう。気合いの込め方が違いすぎる。
空中に浮かぶ文字からクソガキの声が聞こえてきそうだ。
「許さん、絶対に」
人をこけにするとはいい度胸だ。
この屈辱倍にして返してやるよ。
俺の中のメトロンへの怒りを抑えつつ、俺は不敵な笑みを浮かべる。
不敵な笑みを浮かべる俺を見ながら、リーナ達はこれは手に負えないと感じたのか、諦めたように顔を見合わせる。
「何してるんだ?早く行くぞ」
「あ、あぁ」
「う、うん」
「そ、そうだね」
不敵な笑みのまま催促する俺に、リーナ達は若干引き気味に応える。
“僕も行くー!!”
そんな中でもロウガは俺の隣に立ち、元気よく言う。その意気だロウガ。
やはり俺の期待に応えてくれるのはロウガだけだな。
隣に立つロウガを見ながら俺はそう思い、遺跡の最深部へと進んでいく。
絶対にぶん殴ってやるからな。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ここが最深部か」
ふざけたタライトラップを抜けてから、俺達は更に遺跡の奥へと進み、何やら広い場所に出た。
天上は思わず見上げてしまう程高く、体育館の二倍の広さを持つ。奥には恐ろしいほど存在感を放つ巨大な石像があり、まさに最終局面って感じだな。
ここに来るまでに色々なトラップがあったが、そこは割愛。
ふざけたのが多すぎて正直思い出したくない。
斜面に転がる巨大な岩が実はダンボール、レーザー光線かと思えばただのレーザー、思い出しただけでも腹が立つ。
何より一番腹が立ったのはその時一緒に出てくるメトロンの文字だ。『なに本気になって逃げてんの?』とか『お前は既に死んでいる』とか、うざいことこの上ない。
(見つけたら百倍返しだ)
この溜まりに溜まった怒りを思いっきりぶつけてやる。
心の中の怒りを抑えていると、さやが何か見つけたのか指を差しながら声をあげた。
「あ、あれ!」
さやの声に、俺は指を差す方向に目を向ける。
「あれは.....」
目を凝らしながらそれを見続け、確信する。
間違いない、魔法陣だ。
石像の手前にある台の上で輝く細やかな模様。
それは誰にも邪魔されることなく、静かに輝き続けている。
魔法陣を見つけた瞬間、俺は早速魔法陣に近づこうとしたが、そこでやはり邪魔が入った。
「お待ちしてました、です」
空中に突如として現れるメルに、俺は立ち止まる。
やっぱり来たか。まあ、最初で待ってるとか言ってたから、当然と言えば当然か。
「待ってたって割には随分とふざけたトラップをしてくるな」
「あれは、私のささやかばかりの抵抗、です」
上から見下ろしながらメルは言う。
諦めてたなら抵抗はしないで欲しかったな。
メルの言葉に俺はそう思った。
「それで、これからどうする気だ?俺達を素直に通してくれるのか?」
空中に浮かぶメルに俺はそう聞くと、メルは首を横に振る。
「いいえ、ここを通すわけには行きません。マスターからの命令、です。ですからーーーーーー」
すると、メルは少し間を置き、言い放つ。
「ーーーーーーー最後の手段、です」
その瞬間、突如部屋に地震が襲った。
ゴゴゴッ!!
「きゃー!」
「な、なんだ!」
「地震!」
“揺れるー”
突如として襲いかかる地震にさや達は驚き、バランスを崩しそうになる。
何が起きるんだ?揺れる部屋に堪えながら、俺はメルの方を見ていると、奥にあった石像が動き始めた。
壁に埋め込むようにして置かれた石像は、組んでいた腕を動かし壁から這い出て、地面へと立つ。
さながらそれは魔法陣を守る守護神のよう。
見た目は石のゴーレムみたいだが、その大きさが尋常ではない。
下手したらこの高い部屋の天上に届きそうなくらいだ。
今まで見た中で一番巨大なモンスターだな。
「うわぁ.......」
目の前にそびえ立つ超巨大ゴーレムを前にして俺は呑気に思う。
え、何かガチな奴出てきた。
おまけ
【呼んだ?】
「そういえば夏蓮、さっき俺のことお兄ちゃんって言わなかったか?」
「言ってない」
「え?いや、さっき」
「言ってない」
「あの時」
「言ってない」
「.........」
「.........(じー)」
「夏蓮殿は何でそんなに呼んだのがバレるのを嫌がるんだ?」
「呼んだのがバレて夜兎君に妹扱いされるのが嫌なんだって」
ーーーーーーーーーーーー
ブックマーク、評価よろしくお願いします。




