ある意味強敵だな
その少女はかなり焦っていた。
少し所じゃない、かなりだ。
「不味い、不味い、です」
画面の中で未だ無事でいる夜兎達を見て、少女は焦燥に駆られていた。
何故こんなことになったのだろうか。
少女はそう思いたくなったが、目の前の現実を直視し、事の重大さを噛み締める。
今、夜兎達は、とうとう我がマスターに託された転移魔法陣の建物に辿り着いてしまったのだ。
ここに来るまで幾度となく妨害と排除を試みたが、その全てが返り討ち。
マスターに配置して貰ったモンスターやトラップが全て回避されたのである。
そうなった原因はこの男、神谷夜兎のせいだ。
「やばすぎる、です」
モンスターを出せば瞬殺され、トラップを仕掛ければ軽々と回避。
マスターの仕掛けたモンスターやトラップは、全て回避出来る程生易しいものではない。
それなのにこの男ときたら、もうこいつ人間かと疑いたくなる。
「どうしよう、です」
このままでは建物の中に入られて魔法陣のある部屋に辿り着いてしまう。
それだけは避けたい。
少女は顔に焦りの色を浮かべながら必死に考え、ある決断をした。
「やるしかない、です」
こうなったら自分が行くしかない。
少女はそう決断したのだ。
もう、これ以上は好き勝手させてはいけない。 マスターの命令は必ず遂行しなければ。
もし、それで駄目でも、最後の手段が残されている。
自分の中の決意の炎を燃やしながら、少女は夜兎達を待ち構えるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「遂に、遂に辿り着いた.......」
長かった道のり、いくつもの試練。
その全てを乗り越え、俺達はやっと見つけた。
メトロンの、あのクソガキが造った魔法陣のある施設に。
「やっと見つけたね」
「長かった」
「結構手間取ったな」
“楽しかったー!!”
さや達も目の前にある建物を見て少し感動しているのか、やりきった顔をしている。
ロウガはなんか楽しんでいたみたいだが、この際無視だ。今はこのやりきった感傷に浸りたい。
ここに来るまでに色々な罠があった。
触手モンスターだけでは飽きたらず、木の擬態からの不意打ちや、集団で攻めてくる猿のモンスター。
とにかく色々なモンスターが出てきた。
それだけならまだいい。そんな程度なら俺が瞬殺するだけだからな。
一番の問題はモンスターではなく、普通のトラップの方だ。
レーザー光線や転移トラップの他に、落とし穴や網などといった原始的なトラップなど多種多様にある。
ただでさえ感知しにくいというのに、対処するのにどれだけ苦労したか。
まぁ、ちゃんと全部回避したけど。
そんなこんなで、やっとここまで来ることが出来たわけなんだが、ここで一つ解せないことがある。
「何で遺跡風?」
目の前にある建物、あのクソガキが造った魔法陣がある施設は、何故か見た目が遺跡風になっている。
石造りの壁に、隙間には苔、上には何処から伸びているのかツタが生え、その見た目は完全に何処かの遺跡みたいだ。
「恐らくメトロン様の遊び心だろうな。大方、この雰囲気には遺跡が似合うとか思ったんだろう」
遺跡を見ながらリーナは言う。
流石はあのクソガキを信仰していただけあって、メトロンのことをよく分かっている。
リーナの言葉を聞いて、俺は確かにと思う。
何故ならこの遺跡、見た目古そうにしてるけど、ちゃんとした対策が施されている。
遺跡の周りには木々がなく、広々とした空間だ。
上から見れば一発で分かる程に。
これでもう分かるだろうか。
俺はこの島に来てから一度上空から島を見渡していた。なのに、この遺跡を見つけられなかった。
つまり、この遺跡はこの空間に入り込まないと視認出来ないようになっている。
見た目に似合わずこの設備、本当に周りの雰囲気に合わせたんだろうな。
遊んだというのがよく分かる。
「とにかく、中に入るか」
何時までもここにいてもしょうがない。
俺はリーナ達にそう言って、遺跡の中に入った。
中に入ると、中は思った以上に広く明るかった。
石造りで天上は高く、奥が長々と続いていて、まるで迷路のようだ。
電気があるわけでもないのにこの明るさ、どうなってるんだと思い好く見ると、壁や天上が光っている。
どんな原理かはしらないが、これが異世界的要素か。まるでダンジョンにでも来た気分だ。
「感じたか、神谷夜兎」
ダンジョンに入ってから何かを感じ取ったのか、リーナは神妙な顔つきをしながら俺に言った。
「あぁ、何か変だな」
俺はリーナの言葉に頷く。
ここに入った瞬間、何か変な違和感を感じた。
だが、体は何処にも異常はない。
俺は自分の体を見回していると、あることに気付いた。
「魔法が使えない」
「なに?」
唐突に放たれる俺の言葉にリーナは驚き、魔法を使おうとするが、なにも起こらない。
「本当に使えないな」
「どうやらこの中じゃ魔法は使えないみたいだな」
モンスターやトラップの次は魔法禁止か。
ほんと、遊び心満載なこって。
心の中で皮肉を言いながらも、俺は少し焦る。
魔法が使えないんじゃ転移が出来ない。
もし、この中でもトラップがあったら、やばいな。
(どうするか.......)
俺は少し迷ったが、今更悩んでいられないと頭を振る。ここまで来たんだ。だったらやるしかない。
俺はいざ覚悟を決め、遺跡内を進もうと一歩を踏み出したその時ーーーーー
「止まって、です」
またしても声が聞こえた。
しかし、今回はそれだけではない。
声が聞こえるのと同時に、目の前に一人の少女が現れた。
突然声が聞こえ俺は足を止め、その少女を見る。
体が透けている、立体映像か。
薄紫色のツインテールの髪にゴスロリ服、生命を感じさせない光のない目。
10歳くらいであろうその見た目に俺は確信した。
「お前が俺達にあんなのを送った張本人か?」
「そう、です。私は、マスターにより造り出されたAIーーーメル。この島の管理をしている者、です」
やっぱりか。
思った通りの返事に俺はそう思う。
AI。まさかそんなものまで造っていたとは、あのクソガキ遊ぶにも程あるだろ。
「可愛い」
「幼女」
「子供か」
“すごーい!透けてるー!”
メルを見てさや達は色んなことを言ってるが、今はそんな事どうでもいい。
「そのAI様が何のようだ?言っとくが帰れと言っても帰らないからな」
そう言う俺に、メルは黙り込み、俺をじっと見つめ、
「お願いします。帰ってください、です」
頭を下げた。
「は?」
まさか頼んでくるとは思ってなかった俺は、思わず変な声が出る。
え?今なんて言った?
「え、いや、何言ってるんだ?」
「だめ、ですか?」
戸惑う俺に、メルは俺に近づき「お願いします、です」と上目遣いで虚ろな目をうるうるさせる。
ある種の幼女好きなら堪らないポージング。
そっち派でもない俺でもこれは来るものがある。
なにこの可愛らしさ。
メルの可愛らしい上目遣いに俺は揺らぎそうになったが、ここで折れてはいけない。
「い、いやな.......」
「お願い、ですから......」
上目遣いからとうとう目が潤んできてる。
今にも泣き出しそうな顔だ。
ちょ、そんな顔されたら断りづらいんだが.......。
目を潤ませるメルに俺はどうしようかと頭を悩ませる。
「夜兎君.......」
「神谷夜兎.......」
「うわぁ..........」
それにメルに迫られて戸惑う俺を見て、さや達の俺を見る目がおかしくなっている。
ここで折れたら色々と大事なものをなくしそうだ。
「俺には、やることがある。だから、帰ることは、出来ない」
「お願いですから、どうか、お願いします、です。もう、追い返せるトラップが殆んどないん、です」
若干言葉に詰まりながら断る俺に、メルは諦めまいと俺に懇願する。しかも、懇願のあまり言っちゃいけないことまで言っているのは気のせいだろうか。
それに、そんな顔されても困るんだが.........。
未だ目を潤ませじっと俺を見つめるメルに俺は困惑する。
え?俺なにかしたか?そんな懇願される程なにかしたか?
懇願するメルを見て俺は更に戸惑っていると、見かねたリーナが前に出た。
「何をやっている神谷夜兎。そんな子供の言葉に惑わされ「お願い、します、です」る、なん、て......」
咎めようと前に出るリーナに、メルはリーナに対して懇願すると、リーナもこの幼女の可愛らしさに当てられたのか言葉を詰まらせた。
お前も人の事言えないじゃねぇか。
しかも、小声で「可愛いぃ.......」とか言ってるし。
「ちょ、ちょっとリーナちゃん!?」
「惑わされすぎ」
惑わされるリーナに今度はさやと夏蓮が前に出た。
「ダメ、なんですか?」
「うっ.....」
「可愛いい......」
だが、そこでもメルの懇願が入り、二人もその可愛らしさから惑わされる。
簡単かお前ら。俺も人の事言えないけど。
夏蓮とかお仕置きするとか言って癖に、この体たらく。
幼女ってこんなにも強いのか。
不味い、このままでは全滅する。
「俺にはやらなければいけないことがある。だから無理なんだ!そこを通してくれ!」
懇願するメルに俺は訴える。
俺の必死さにメルは諦めたのか、顔をしゅんとさせ引き下がった。
「そう、ですか.........」
とぼとぼと引き下がるメルを見て、俺はなにか罪悪感を覚える。
なんか、凄い悪いことしたみたいだな。
「分かり、ました。では、最深部にて、お待ちしてます、です」
メルはそれだけ言い残すと、すうっと消えていった。
な、何だったんだ?いったい......。
急に現れて急に消えたメルに俺は不思議に思う。
「可愛かったねぇ」
「そうだな」
「あれは卑怯」
“なにがー?”
メルのあざといまでの可愛いさに三人は驚嘆する。
ロウガは意味は分かっておらず、首を傾げているが、お前には分からなくていい事だぞ。
三人を見て俺はそう思ったが、俺はこの一連の流れを見て分かった事がある。
幼女って強いんだな。
おまけ
【ロリコン?】
「夜兎君、子供が好きなの?」
「え、いや、好きか嫌いかと言われたら、好きな方だが」
「そうなんだ」
「それってロリコーーーー」
「そういうことじゃないだろ」
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