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天使は意外とまともでした

 自分で天使だと名乗るサラは、何故か「凄いでしょ!」みたいな態度で若干上から目線でこちらを見ている。

 何をそんな自慢げになっているのかは分からんが、今見ればサラが天使だというのは頷けるかもしれない。



 少しウェーブの掛かったセミロングの白髪に黒目。

 その見た目は、天使であるリーナと似ている所がある。

 背中にその体とは不釣り合いなハンマーを背負ってるのが、何とも天使と言い難い所だがな。



 巨大なハンマーを見ながら俺は思ったが、それよりもサラが天使だと分かり、俺は一つ感じたことがある。


 

「天使ってリーナみたいなのばっかだと思ってたけど、違うんだな」



 俺と出会った頃のリーナは狂ってる程あのクソガキに狂信してたけど、このサラの様子からして、どうにもそうは見えない。

 俺の言葉にサラは癇に障ったのか、心外とばかりに不機嫌に言った。



「ちょっと、失礼なことを言わないでよ。あんな狂った様にメトロン様に尽くしてるのなんて、リーナだけよ」

「なっ!?だ、誰が狂った様だ!!」



 サラの清々しい程のストレートな発言に、リーナは思い出したくないのか、少し恥ずかしげに声をあげる。

 え?そうなのか?

 俺は意外そうな目でリーナを見る。

 おいおい、どういうことだ。



「確かお前、前に天使は皆神を尊敬し、神に仕えるのが最高の喜びとか言ってなかったか」  



 目を細めながら、何かを訴える目付きで言う俺に、リーナは取り繕う様に応える。



「あ、あの時は皆そうだと思っていたんだ。父上と母上にもそう教えられたし.......」 



 少し小声で、自信のない様子。

 じっと見つめる俺の目線に堪えきれなくなったのか、リーナの声は徐々に消えそうになる。

 周りの反応とか見て気付かないもんなんだろうか。俺は心の中でそう思う。

 リーナの言い分にサラは呆れ、ため息をついた。


 

「あんたねぇ、今時そんな古い思想持ってる人なんて極少数よ。神の使いなんて雇用条件がいいから人気があるだけで、別にリーナが言う程敬ってないわよ」 

 


 「敬愛より金よ」と、身も蓋もない言葉をサラは並べる。本当、世知辛いな天界。

  何かどんどん神が現実的に見えてきたぞ。

 このサラの言葉には、端から聞いていたさやと夏蓮も流石に苦笑いだ。 

 そんな中、ロウガは能天気にも“あの木おっきー!”と近くの大樹を見ながら関係ないことを口走っている。

 空気読んでくれ、ロウガ。



「そ、それよりも!サラは何故こんなところにいる。仕事はどうしたんだ?」



 これ以上醜態を晒したくないのか、リーナは強引に話を変えてきた。



「その仕事でこっちに来てるのよ。私はメトロン様に頼まれてこの島の転移魔法陣が設置してある施設を破壊しに来たの。でもあんなのがあるなんて聞いてないわよ」

「なに?転移魔法陣だと」



 転移魔法陣と聞いて俺は即座に反応し、「全く、どうなってるのよ!」と先程まで襲われてたのに対し憤慨しているサラに詰め寄る。



「なぁ、本当にこの島に魔法陣があるのか?」

「な、なに、あんた......」



 詰め寄る俺に、憤慨していたサラは怒りが消え引き気味になっていたが、今はそんなこと関係ない。

 


「どうなんだ」

「あ、あるわよ。昔メトロン様がここに来るときに必要だから、今も繋げてあるって」



 俺に気圧され、サラは若干小声になりながら応える。

 そうか、やっぱりあるのか。  

 これであいつの所に行けることが分かった。

 あのクソガキの所に行けることが確信に変わり、俺はクックックと悪役感満載な笑みを浮かべる。

 黒い笑みを浮かべる俺を横目に、リーナがサラに尋ねた。



「しかし、何故今更なんだ?」

「何でも、ゲルマの件もあって上の神様が最近他の神の様子を視察してるらしいのよ。それで無断でここを造ったのがバレるのは不味いから、私が来たってわけ」



 どうやら上の神も今回のことは失態に感じてるんだろうか。ちゃんと対策をしているようだ。

 サラがリーナの質問に応えると、今度はサラがリーナに質問をしてきた。



「で?あんたは何でこんなところにいるの?まさか、遊びに来たわけではないでしょ?」 



 腕を組ながら質問をするサラに、リーナは応えづらそうに応えた。



「すまないが、そのまさかだ」



 流石に遊びに来たと思っていなかったのか、リーナの返答にサラは目を丸くした。



「え、ちょ、本当に遊びに来ただけ?」


 

 サラの言葉にリーナは無言で頷く。

 まさか、本当に遊びに来ていただけとは。

 予想外なことにサラは頭痛がするように頭を抱える。



「あんた、変わったわね.....」

「そうか?」

「そうよ、いつものあんただったら「メトロン様が造った神聖な場所を汚すなんてゆるさん!!」とか言うだろうし。何より監視対象とここまで親しくなったりはしないでしょ」



 サラは俺を見ながら言う。

 サラがそう言うのも無理はない。

 確かに以前ならリーナは俺達をこんなところに連れていってくれないし、会話もしてくれなかっただろう。最近一緒にいすぎていまいち分からなかったが、クソガキがリーナを見限ったことで、リーナは確実に変わった。



「だからメトロン様も、こんな仕事をあんたじゃなく、私に言いつけたんでしょうね」

「なに?」



 変わったリーナを見て、サラは納得したように頷く。今の言葉は聞き捨てならないのか、リーナはピクッと反応した。



「メトロン様が言ってたのよ。「最近リーナの様子がおかしい」って。いや、この場合おかしいというより、まともになったというべきなんだろうけど」

 

  

 そう言って、サラは俺や夏蓮達を見渡す。



「でも納得したわ。こんなのと一緒にいるからそうなったのね。普通になったのは良いことだけど、天使としてはどうなのかしら」



 やれやれとサラは首を横に振る。

 皮肉混じりな言葉に、リーナは先程までの雰囲気とは逆に怒りの混じった声を出す。



「何が言いたい」 

「別に、ただそんな簡単にたかが人族に心を変えられるなんて、神に仕える天使として、少し情けないと思っただけよ」



 その一言にリーナの堪忍袋の緒が切れたのか、リーナがサラに向けて殺気が放たれる。



「........取り消せ」 

「何よ?」

「その言葉を取り消せと言っている」



 静かに、そして確実に怒りを表しているリーナの表情に、サラは背中のハンマーに手をかけ、身構える。



「なに?やる気?」 



 さっきの発言を訂正する気はないようで、サラとリーナの間にか一触即発な空気が流れる。  

 リーナは地球に来てからの日常を楽しんでいた。毎日俺達と会話をし、仲良く弁当を食べる。

 そんな日常をともに過ごす俺達をこんな人族と言われて、リーナは癇に障ったんだろう。

 好戦的なサラに対し、リーナは静かに怒る。



「神の使い試験でトップだった私に、勝てると思ってるのか」

「試験なんて昔の話よ。それに、聞いたわよ。あんた、どういうわけか知らないけど【白羽の裁きウィングジャッジメント】のスキル使えなくなったんだって」



 サラの言葉にリーナは何故知られたとばかりに目を開かせ、動揺する。

 あー、そういえばそんなこともあったな。



「何処で知った」

「私達の間じゃ結構噂よ。その様子じゃ本当みたいね」



 スキルが使えないことがバレたが、リーナは依然としてその強気な姿勢を変えない。



「だったらどうした」 

「お得意のスキルが使えないんじゃ、あんたに勝ち目はないでしょ」



 得意気にサラはそう言うが、リーナは一歩も引かなかった。

  


「確か、貴様のスキルは【衝撃爆破(クラッシュバン)】。衝撃を与えたところを爆発させるスキルだったな」

「そうよ。だからこの仕事を任されたってところもあるんだけど」 



 確かにそんなスキルだったらものを壊すのも楽勝だろうな。

 俺はこの今にも戦いが始まりそうな雰囲気に、呑気に思う。

 


「そんなのに私が負けるわけないだろ」

「その余裕すぐにぶち壊してあげる」



 罵り合いはここまでのようで、お互いに剣とハンマーを抜く。 

 あ、これは不味い。

 この今にも戦いが始まりそうな空気の中、俺は空気を読まず一人前に出た。



「ちょい待ち、二人とも。無駄な争いはそこまでだ」    



 急に間に入られて吃驚したのか、リーナとサラは動きを止め呆気に取られた顔をする。  

 だが俺はそんなことお構いなしに、二人に指摘を入れた。



「リーナ、お前の気持ちは分かるが、今はそんなことをしてる場合じゃないだろ。さや達もいるんだ。少しは冷静になれ」 

「うっ.......」

「お前もお前だ。思うのは勝手だが、わざわざリーナを煽ったりするな。面倒なだけだ」

「な、なによあんた。急に出てきて偉そうに.....」



 俺の指摘にリーナはしゅんとし、サラは反抗するが、俺がずいずいと近づいていくにつれて、その声は小さくなり途中で止まった。



「一つ確認するが、お前はメトロンが造った魔法陣を壊しに来たんだよな?」

「そ、そうよ。それがどうしたの」


 

 俺の確認に、サラは強気な姿勢で応えた。

 俺はその言葉に「そうか」とだけ言うと、手をサラの肩に置き、にっこり笑う。



「悪いがーーーーまた最初から来てくれ」

「へ?ちょーーーーーーー」



 俺の言葉にサラはなにかを言おうとしたが、その前にサラの姿が消えた。

 魔法陣を壊されるわけにはいかないんでな。

 悪いが、島の外まで転移させて貰った。

 なに、流石に海の上なんて酷なことはしないから安心しろ。   サラを転移させ終えると、リーナがサラの転移先について聞いてきた。

 

  

「サラを何処に飛ばしたんだ?」

「島の外だ」



 さらっと言った俺の言葉に、リーナ達は気の毒そうな顔をしている。あの嫌なトラップをもう一度味わう羽目になるんだ。

 そう思うのも無理はない。

 だが、これもメトロンの所に行くため。

 情けなんてかけてられない。


 

「先を急ぐか」



 気の毒そうな顔をしている三人にそう言って、俺達は転移魔法陣のある施設を再び目指した。

 きっとそこに声の主もいるだろう。

 サラが来る前にとっとと急ぐか。

 俺はリーナ達とともに施設を目指して歩いていった。

おまけ


 【もう一回】

 

 転移後のサラ


「え?ちょ、なにこれ!?どうなってるの!?ここ砂浜!?まさか戻ってきたの!?」

“侵入者は排除する、です”

「え?この声って......」

「ギュルォォォ!!」

「ギュァァァァァ!!」

「.......もしかして、もう一回?」

“です”

「いやぁぁぁぁぁ!!」



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