あれは近寄ったらいけません
段々近づいてくる爆発音に、俺達はその方向を見つめ、やがて爆発は目の前で起きた。
「あぁ、もう!しつこい!!」
爆発の爆風に乗り、一人の少女がこちらに向かって飛び出してくる。
手には巨大なハンマーが握られ、少女はそれを軽々と扱う。
そして、その後に少女を追い掛ける様に、一体のモンスターが出てきた。
「ギュルォォォォ!!」
地面を這いずり、邪魔な木を薙ぎ倒しながらモンスターは少女の前に立つ。
どちらもこちらに気付いていないのか、こちらを一切見ないまま、少女はモンスターの出方を窺う。
いきなりの展開に俺達は戸惑ったが、ハンマーを持つ少女よりも後から出てきたモンスターの容姿に、嫌な意味で釘付けになった。
「うわぁ....」
「うへぇ......」
「これは.....」
「キモい.......」
“すごーい!うねうねしてるー!!”
突如現れたモンスターの姿に、俺達はそれぞれの感想を述べる。
若干一匹だけ反応が違うが、普通こんなの見たら嫌悪感を感じるだろ。
全身紫でコーティングされた皮膚に、先程のスライムの様に体から出る触手、それに加えキモいの一言に尽きる様な顔。
目玉は飛び出てギョロギョロと動き、口の中はいくつもの牙が生えており、端からよだれを垂らす。
さっき出会った、タコとスライムを足して二で割ったって感じだな。
見ただけで背筋がゾッとする。
しかも、恐らくこいつ見た目に反して意外とスペック高いぞ。
俺の【気配察知】に反応しなかったということは気配を消す能力があるということだ。
他にも何かあるかもしれない。
そう思い俺はあのモンスターに【鑑定】を掛けた。
ダクドスライム スライム族 Lv69
体力 1590/2790
魔力 1765/2770
スキル
触手 擬態 隠密
やっぱり、俺の感じた通りだ。
あのモンスター中々厄介なスキル持ってるぞ。
(大丈夫なのか?あの娘)
俺はダクドスライムと対峙している少女に手を貸そうかと考えたが、それより先に少女が動いた。
「いい加減死になさい!!」
強気な声と共に少女はダクドスライムに突っ込み手に持っていたハンマーを振りかぶる。
巨大なハンマーを振ってるにも関わらず、その速度は速く、一瞬にしてダクドスライムとの間合いを詰めた。
「ギュル!!」
だが、その少女よりダクドスライムの方が一枚上手の様だ。
ダクドスライムは触手を巧みに使い、近くの木に巻き付け、そこから引っ張られる様にして、少女のハンマーを回避する。
何とも上手いことをするな。
俺はダクドスライムの華麗な動きに内心称賛する。少女のハンマーは空振りに終わり、そのままそれを地面に叩きつけた。
すると、突如ハンマーで叩きつけられた地面が割れる様にして、爆発を起こした。
「ちぃ!!また外した!!」
ドゴォォォン!!と盛大な爆発音を鳴らしながら地面が深くえぐれる。
爆発音の正体はこれだったのか。
俺は爆発音の正体が分かったのと同時に、少女の凄さに気付いた。
「タフだな、あいつ」
至近距離で爆発を受けたというのに、少女は平然とダクドスライムにハンマーを振るう。
ダクドスライムは何回も避け、その度に地面が爆発を起こす。
あんなん至近距離で受けて平然としてられるって、いったいどんな体してんだ。
「いや、それよりも、何かあの娘......」
「危ない感じがする」
“地面がバーン!!ってしたー!!おもしろーい!!”
爆発するハンマーを目の当たりにして、さやと夏蓮が危機感を覚える。
ロウガは何か興奮してるけど。
確かにあっちはこっちに気付いてないから、下手したら巻き添えくらうかもしれない。
さっきからハンマーぶんぶん振り回してるし。
「......少し離れるか」
これは距離をとった方がよさそうだな。
このままじゃ、いずれこっちに来そうだ。
俺は皆に指示を出し、少し下がらせるが、リーナが何やら考え事をしていた。
「うーん......」
「どうした?リーナ」
「いや、あの娘、何処かで見た気がして」
戦う少女を見てリーナは頭を捻る。
もしかして知り合いなのか?
俺はリーナにどんな時か聞こうとするが、ダクドスライムが動きだし、そちらに目をやる。
ハンマーを避けた後、ダクドスライムの体がすうっと消え始めた。
これが【擬態】か。完全に姿が見えなくなった。
ダクドスライムの姿が完全に消え、少女は周囲を警戒しながらハンマーを構える。
「どっからでも来なさい!!」
少女は今にもぶっ潰してやる言わんばかりの気迫を放ちながら、ダクドスライムを待ち構える。
何かされたんだろうか。並々ならぬ気合いだ。
少し遠くから見ている俺は構える少女にそう感じていると、ダクドスライムが右から少女を襲うとしているのに気付き、咄嗟に叫ぶ。
「右だ!!」
俺の声に反応し、少女は右横にハンマーを振り回した。
ハンマーはピンポイントにダクドスライムに当たり、少女は思いっきり振り抜く。
「死に去らせぇ!!」
怒りに満ちた声と共にダクドスライムの体は爆散。
紫色の物体があちこちに飛び散り、完全に死んだのかやがてその物体も光の粒子になって消えていった。
ダクドスライムが消えるのを確認すると、少女は消えたダクドスライムの方を向かって叫ぶ。
「ざまぁみなさい!!いきなり人の体まさぐるからこうなるのよ!!」
息を切らし、怒りと羞恥の交じる顔。
少女はダクドスライムにまさぐられたのを思い出したのか、少し顔を赤くする。
だからあんな凄い気迫放ってたのか。
そりゃあ、そんなんされたら誰だって怒るだろうな。
俺は一人少女の気迫に納得すると、倒し終えて冷静になったのか、少女がこちらに近付いてきた。
「助けてくれたのは礼を言うわ、ありがとう。でも、あんた達何者?ここは普通の人が来れるとこじゃないわよ」
素っ気ない言い方で少女は礼を言う。
いや、そんな態度で言われても、礼を言われた気にならないんだが。
俺は少女の態度を見てそう思う。
礼を言うのとは逆に、少女はこちらを警戒したままハンマーを握り、いつでも振れる状態になっている。
警戒心丸出しだな。
「それはこっちにも言えたことだ。お前こそ何者だ」
強気な姿勢のまま、俺は聞き返す。
何者かが気になるのは俺も一緒だ。
もし敵なら、悪いが容赦はしない。
俺と少女はお互い沈黙し、空気が重くなる。
それを夏蓮は俺と同じ様に黙ったまま少女を見つめ、さやは俺と少女を交互に見ながらおろおろし、ロウガは“主ー、やっちゃえー!”と既にやる気だ。
このままでは争いごとに発展するかと思われたが、次の少女の一言でこの重たい空気が全て壊れた。
「あれ?リーナ?」
後ろの方にいたリーナに気付き、少女は緊張が途切れた様な声をあげる。
一方、リーナは少女の言葉でやっと思い出したのか、少女の名前を呼んだ。
「もしかして、サラか?」
お互いに名前を呼び、本人だと確め合う二人。
俺は名前を呼び合う二人を見て勘づいた。
あれ?リーナの知り合いってことは、もしかしてーーーー
「お前天使か?」
リーナの知り合いだと分かり、俺は少女に聞く。
リーナが居たことにより警戒が少し解けたのか、少女は俺の問いに答えた。
「そうよ、私はサラ。リーナと同じメトロン様に仕える天使よ」
おまけ
【もしダク】
もし、サラがいつまで経ってもダクドスライムを倒せなかったら。
「ひゃははは!!死ね!!死になさい!!」
ドゴォォォン!!ドゴォォォン!!
「.......なぁ、あれほっといたらどうなるんだ?」
「島が沈むな」




