流石にこのお約束は許容出来ない
その少女は少し焦っていた。
右か下かも分からない暗い空間の中、映像で写し出された無事な夜兎達を一人見ながら顔を曇らせる。
「不味い、です」
まさか侵入者がこんな実力を持っているとは。
計算外な事に少女は少し驚く。
侵入者の排除の為に送ったモンスターが撃退された。
あのモンスターは我がマスターがもしもの為にと配置してくれた貴重なモンスター。
『このモンスターはきたる時だけに使うんだよ』マスターはそう教えてくれた。
どんな時かと聞いたら『女の子が沢山来たらそれを使うんだ。きっと色々な人が喜ぶよ』そう言われ正直何を言ってるのかは分からなかったが、その時が来たと思い少女は使った。
だが結果はこの通り、惨敗だ。
使い方が悪かったのだろうか。
少女は少し考えたが、結局は分からなかった。
折角マスターから授かったモンスター。
それを無駄に使ってしまい少女は次はもっと有効に使おうと反省をした。
「次は、上手くやる、です」
若干片言口調な少女はむんっと気合いを入れる。
そうと決まれば次の手を考えよう。
そう思い少女は侵入者達が写された映像を見る。
何やら会話をしているが特に目立った動きはない。
少女のいる空間では島のあちこちの映像が写し出されている。
360度、全方位に写し出された映像は島の細部まで確認出来る。
少女はこの島の中枢的存在。
この島で見れない所はない。
「次はこれ、です」
何かを選択したのか少女はこれでいけると思い、微笑む。
こっちはこれで大丈夫だろう。
これはマスターが『これぞお約束』と言いながら設置していたモンスター。
きっと撃退出来る事が約束されてるんだろう。
少女はそう考え違う方の映像を見る。
「こっちにはこれ、です」
もう一つの方を見て少女はまた何かを選択する。
まさかもう一人侵入者が出たことに少女はいったいどうなってるんだと言いたくなるが、これも長年任され続けたマスターからの命令。
少女はそれを果たすだけだ。
「誰にも、近づけさせない、です」
少女は真剣さが籠る声で侵入者達を見る。
やらせはしない、絶対に。
その気持ちを胸に少女はもしもの時の為に更なる思案をたて始める。
全てはマスターの命令のままに。
ーーーーーーーーーーーーーーー
島の鬱蒼とする木々の中に入り、俺達は道なき道をひたすら歩く。
上からでは木に覆われて見えたが実際は明るく、所々光が差し込む。
虫や動物の気配がなく、鳴き声の一つも聞こえない。とても静かだ。
「妙だな.......」
俺はこの様子に疑問を感じる。
「どうしたの?夜兎君」
「静かすぎる」
幾ら周りから探知されないように造ってあるからといっても生き物一匹もいないなんておかしすぎる。
何かあるのか?俺は周囲を警戒しているが何も反応がない。
「確かにおかしいな」
リーナもそう感じたのか周囲を注意深く見渡す。
「き、気のせいじゃないかな」
「それはただのフラグ」
さっきの威勢は何処にいったんだか。
さやは弱腰になりながら言った。
タコの件もあったからか、かなり弱気になっている。
それに対し夏蓮はしっかりとした物腰でさやに指摘を入れ、さやは「夏蓮ちゃ~ん」と涙目で訴えているが、「しっかりする」と夏蓮に言われ落ち着かされる。
流石は我が妹、肝が据わってるな。
俺はそんな二人の会話を聞いて夏蓮の肝の据わりっぷりに苦笑していると、突如前方から魔力反応を感じた。
「全員止まれ!」
突如感じた魔力反応に俺は全員を止め前方を注意深く見つめる。
“主ー、何か来るー”
「分かってる」
警告するロウガに俺は前を見つめたまま言う。
すると前方から幅数メートルの魔法陣が現れ、光を放ちながらあるモンスターが召喚された。
「お、おい、これって.......」
「スライム、だな......」
目の前に召喚されるスライムを見てリーナと俺は口を開けたまま呆然と見る。
スライム相手に何を呆然としているのかと思いたくなるが、このスライムは普通のスライムと明らかに違う。
「.......でかくね」
俺の目の前にいるスライムは緑色をしていてその巨大な体をぬるぬると動かす。
その余りの大きさにスライムの周りにあった木々がスライムに絡まり、一層気持ち悪さが増している。
「タコの次はスライムか.....」
これまたお約束感のあるモンスターだな。
俺は木々に絡まるスライムを見ながらあることを想像する。
森の中にいる三人の美少女、そして目の前には今にも襲いかかってきそうな巨大スライム。
......不味いな、ここからは大人の世界だ。
呑気に俺はそんなことを考えていると、突如スライムの体が変化を始めた。
体の一部が触手の様に突出し、狙いを定めるかの様にしてこちらに向ける。
やる気満々じゃん。
「さや殿、夏蓮殿!私の後ろへ!!」
“二人とも僕が守るー!”
流石にこれには危機感を感じたのか、リーナとロウガは速やかに二人を自分の後ろに隠す。
よく見れば触れている木がじゅわじゅわと溶けている。
捕まるとまじでやばそうだな。
にしてもまたラノベにあるテンプレ展開。
正直興味がないわけではないが、流石にこれは許容出来ない。
「凍れ」
手を前に出し、短く鋭い一言をスライムに向けて発する。
すると手から吹雪の様な白い風が吹き出し、スライムはそれに当てられ徐々に凍りついていく。
抵抗なく全身が凍り付けになり、スライムは動かなくなった。
動かなくなったスライムに止めとして、俺は凍ったスライムに拳を一発突き立てる。
ピキピキと亀裂が走りスライムの体は徐々に崩れ去り、粉々に砕け散った。
これでよし。スライムが死んだのを確認し、俺は三人の方を振り向く。
「大丈夫か?」
「う、うん」
「平気」
「倒せたみたいだな」
“主すごーい!!”
俺の言葉に、さや達は頷き無事を告げる。
しかし何だろうな。タコに触手スライム。
何でこうお約束物ばかり出てくるんだ?
「こんなんばっかなのか?ここは」
「遊び半分と言ってたからな。きっと面白そうだからと言う理由で配置でもされたんだろ」
一人愚痴る俺にリーナが少し呆れ気味に答えた。自分の主人がこんな下らないことしてると思うと呆れもするだろうな。
俺は呆れるリーナに同情し、とっとと先に進もうかと皆に呼び掛けようと口を開いた瞬間ーーーーー
ドゴォォォン!!
遠くの方から爆発音が聞こえた。
「い、今の音って....」
「爆発?」
「でも何故こんなところで」
遠くから聞こえた爆発音に三人は驚きながらもその方向を見る。
リーナの言う通り何故こんなところで爆発が起きたんだ?
ここは俺達以外人はいない筈だ。
俺は爆発が起きた原因について考えていると、ロウガが俺の前に立ち俺に警戒を促す。
“何か来るよ、主”
ロウガの警告に俺は【気配察知】確認するが気配を感じない。
気配でも消してるのか?
更なる疑問に俺は頭を捻るが、爆発音が段々とこちらに近付いていくのが分かる。
本当にこっちに来てるみたいだ。
「全員気を付けろ。何か来るぞ」
俺は三人に警戒させ爆発音の正体を待ち構える。
さぁ、何が来る。
おまけ
【触手】
「触手、スライム、タコ......」
「どうしたの?夜兎君」
「いや、何か出てくる敵が偏ってる気がして」
「気のせいだろ」
「考えすぎ」
“あ、僕知ってるー!!そういうの、触手ぷーーー”
「言いたいことは分かったがそれ以上は言うなよ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ブックマーク、評価、よろしくお願いします。




