海といったらお約束のあれ
青い空、白い雲、輝く太陽。
この三拍子が揃う無人の常夏の島。
この景色に美少女三人は感嘆の声をあげていた。
「わー!綺麗!!」
「いい景色だな」
「これぞ、海」
さや、リーナ、夏蓮はさざ波を打ち光の様に輝く海を見てはしゃいでいる。
サンダルのまま海水をばしゃばしゃと音を建て、海の冷たさを堪能しているその姿を眺めながら俺は思う。
「確かにいい景色だな。色々な意味で」
綺麗な砂浜に美少女三人。
何とも絵になる光景だ。
海だけでも綺麗だが、そこに美少女が加わると更に綺麗さが増すな。
最初はあのクソガキを殴りに行こうとしたんだが、これはこれで来てよかった。
終業式も終わってからとうとう夏休みに入り、俺達は今メトロンが造った島に来ている。
夏蓮がいるのは俺が島に行くと言った時に一緒に行きたいと言われたので連れてきた。
特に駄目な理由もないからな。
島への行き方は勿論俺の転移だ。
どうやって転移したかというと、リーナが島の場所をさりげなく聞いていたらしく、それを頼りにリーナと共に海を探し回った。
探すのは大分苦労したんだよな。
なんせこの島は外部から見つからないように魔法とかで探知されないようになっている。
だから自力でどうにかするしかなかった。
苦労はしたが、結果的には見つかったからよしとしよう。
(だが、寧ろここからが本番って感じだな)
俺は背中にある鬱蒼と茂っている木々に目をやる。
ジャングルかと思えるその木々は島の殆どを覆っていて、上からでは確認しきれない程だ。
リーナの話ではこの森の中にメトロンが使ったであろう転移装置があるらしい。
あくまで可能性の話だが、確率は十分ある。
(必ず見つけ出してやる)
俺は一人やる気に燃えた。
だがそれでも困ったことに問題がある。
実は最初【空間魔法(効果範囲 特大)】を使って島を探ろうとしたが、何も反応がなかった。
どうやら島の中も魔法を妨害する何かがあるらしく、俺の魔法じゃ調べれないのだ。
これではまた自力で探すしかない。
しかしこの程度で俺は諦めたりはしない。
歩いてでも探す。
そしてあのクソガキを一発ぶん殴る。これ絶対。
“主ー”
俺はそんなことを思っていると、いきなりロウガが話し掛けてきた。
何か久し振りに声を聞いたな。普段は家の犬小屋でぐーたらしてるからあんまり話さなかったからだろうけど。
「どうした?ロウガ」
“あれ何ー?あのきらきらした湖ー?”
「あれは海だ。しょっぱい大きな水溜まりみたいなもんだな」
俺はロウガにそう説明すると興味が出たのか、ロウガは少し興奮気味に俺に海に行きたいとせがんできた。
“僕も海行きたーい!”
「いいぞ、ほら」
俺はロウガを召喚するとロウガは元気一杯に海へと走っていった。
直ぐにでもメトロンが使った転移装置を探したい所だが、今は海水浴だ。
俺の独断でリーナは兎も角さやと夏蓮を連れ出す訳にもいかない。
だから最初は海で遊ぶ。
転移装置探しはその後だ。
「わんわん!」
「あ、ロウガちゃんだ」
「ロウガ、お手」
ロウガが来たことに、さやと夏蓮は楽しそうにじゃれていて、それを横からリーナが接しずらそうに窺っている。
そういえばリーナはロウガと初めて会ったのが足に噛みつかれた時だったな。
また噛まれないか不安なんだろうか。
「どうしたの?リーナちゃん」
「あ、いや、その、気にするな」
「リーナちゃんも撫でてみたら?可愛いよ?」
そう言ってさやはロウガを持ち上げリーナの前に突き出す。
それにリーナは緊張の顔をするのに対しロウガは愛くるしい表情でリーナを見つめる。
暫くの間リーナとロウガは互いに見つめ合う。
やがてそのロウガの愛くるしさに負けたのかリーナは恐る恐るロウガに手を伸ばそうとする。
「いや、やっぱりちょっと......」
だがまだ無理なのかリーナを手を引っ込める。
「大丈夫だって。もう一回やってみて」
さやに励まされリーナはもう一度チャレンジするが結果は同じ。
直ぐに手を引っ込めてしまった。
手を伸ばしては引っ込め、伸ばしては引っ込め。
その動作が何回も続きやがて見ていてイライラしたのか見ていた夏蓮が痺れを切らした。
「じれったい。ロウガ、行け」
「わん!」
夏蓮の号令の下ロウガはさやの手から離れ、リーナへと飛びつく。
急な事にリーナは驚き尻餅を付きその上にロウガが乗る状態になる。
「わ、ちょ、止め、止めろぉぉ!!」
上に乗られ顔をペロペロと舐められながらリーナは焦った顔をする。
その様子に夏蓮とさやは面白そうに微笑んでいた。
(何やってんだか、あいつら)
一連の茶番を眺めていた俺は呆れながらも少し微笑む。
何か見ていて気が抜けてきたな。
気負い過ぎてたんだろうか、俺。
俺は肩の力を抜き、さや達の所に行こうと足を踏み出した瞬間、
“侵入者は排除する、です”
突然声が聞こえた。
「え?」
突然聞こえてきた声に俺は足を止め周りを見渡す。何だ、今の声。
その声は女の子、しかも幼女みたいな声で島から聞こえた様な気がした。
(いったいどうなってるんだ?)
俺は今聞こえた声に不思議に思っていると、今度はさや達の方から悲鳴がした。
「きゃぁぁぁぁ!!」
突然さやの悲鳴が聞こえ俺は咄嗟に振り向く。
すると海から超巨大なタコがさや達の前に現れていた。
タコはうねうねと動く八本の足を動かしながらさや達を眺める。
俺はこの時察した。
夏の海、巨大なタコ、そして美少女。
この要素が揃ったシチュエーションといったら一つしかない。
「キュォォォォ!!」
「え、ちょ、何!?」
「な、何だ!?」
「こ、これは.....」
タコはさや達を眺め、そのデカく太い足でさや達を絡めとる。
咄嗟の事にさや達はタコの足に拘束され身動きがとれなくなり、悲鳴をあげた。
あ、やっぱりそうなったか。
この光景に俺はお約束感を感じながら呑気に眺める。
幸い絡めとられてはいるが特に何もされていない。それに、さや達は今は水着ではなく服を着ている。これで水着だったら大変な事になってたかもしれないが、こんなラノベでしかないようなお約束、ちょっと見ていたい気持ちになる。
「わんわん!」
だがそれを邪魔するかの如くロウガが直ぐに助けに入った。
ロウガはタコの足に噛みつき引きちぎり、さや達を解放していく。
「キュォォォォ!?」
タコはそれに対抗しようと他の足でロウガを叩きにいくが、そんなスピードじゃロウガには当たらない。
俺との修行以来ロウガのレベルは着実に上がっている。
今更そんな攻撃通用しない。
「わんわん!」
ロウガはタコの周りを走り回りながら足に噛みつき引きちぎっていき、あっという間に全ての足がロウガによって引きちぎられた。
「ギュォォォォァァア!!」
足を引きちぎられタコは悲鳴をあげ勝てないと踏んだのか、海中に逃げていった。
倒したか、どうせならもうちょっと見ていたかったな。
こんなラノベ的お約束滅多に見れないのに。
早くもタコを倒され俺は少し残念な気持ちになった。
「いたた、酷い目に遭った........」
解放されたリーナはお尻を痛そうに擦っていると、ロウガが近寄り大丈夫かと言っているように声をかけた。
「わん!」
「お前が、助けてくれたのか?」
「わん!」
「あー、その、ありがとうな」
照れくさそうにリーナはロウガにお礼を言い恐る恐る手を伸ばし、頭を撫でる。
リーナに撫でられロウガは気持ち良さそうに「くぅ~ん」と鼻を鳴らした。
気持ち良さそうにするロウガを見てリーナは感動を覚えたのか「おぉ.....」と小声で呟きながら嬉しそうな顔をして頭を撫で続ける。
何か通じ合ったみたいだな。
「大丈夫だったか?」
俺はロウガの頭を撫で続けるリーナにそう言うと、リーナは何か言いたげな目をしながらこちらを見てきた。
「神谷夜兎、貴様どうして直ぐに助けに入らなかったんだ?」
「え?あ、あぁ、お前らが人質に取られて身動きが出来なくてな」
探りを入れるリーナに対し俺は少しドキッとしながら言い訳を建てる。
「ほー?捕まってた時に一瞬だけ見えてたが、貴様私達がタコに捕まってるのを見て何だか楽しそうにしてなかったか?」
その言い訳を見抜くかの様にリーナは俺に疑いの目を掛けながら言った。
やばい、ばれてる。
「き、気のせいじゃないか?」
「それ本当、夜兎君?」
言い訳がばれ焦る俺にここで更に追い討ちが掛かる。
俺は後ろを振り向くと怒った顔をしたさやと夏蓮が立っていた。
「いや、これはだな.....」
「夜兎君、ちょっとこっちに来て」
「お説教」
「.........はい」
何故か感じる威圧感に俺はもう無理だと悟り大人しくついていく。
一方ロウガは未だリーナと戯れているままだ。
こんなことならちゃんと助けるべきだったな。
俺は二人に正座させられお説教を受けながら密かに思ったのだった。
おまけ
【居場所】
「わんわん!」
「んふふ~、ロウガちゃんやっぱり可愛いね」
「確かに可愛いな」
「流石家の犬」
「........何か居場所がなくなってる気がする」
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