あの顔には勝てません
日差しが熱い午前授業。
教室の中は冷房が効いてそれほど熱くはないが日差しが刺す窓際の俺の席は若干熱く感じる。
何時もの俺ならこんな午前授業は怠く思いながらもリーナの目がある為仕方なく聞いているかもしれないが、今日は違う。
「.........神谷夜兎、何処か体調でも悪いのか?」
隣のリーナが俺の様子を見て心配そうに小声で俺に尋ねる。
いや、今の俺を見て何処が体調悪そうに見えるんだよ。
今俺は背筋をピンっと伸ばし目をぱっちりと開けながら授業を聞いている。
何時もの怠そうな感じは一切なく、ちゃんとノートに板書を書き写すその姿は至極真面目だ。
「いや、そんなことはないぞ」
「嘘をつけ。貴様がそんな真面目に授業を聞くわけがないだろ。熱でもあるんじゃないか?」
とことん失礼な奴だな。
日頃の俺の行いのせいかもしれないがそこは信用してくれてもいいんじゃないか。
しかも悪ふざけではなく、本気で言っている辺りがまたたちが悪い。
それに加えそう思ってるのは多分リーナだけではない。
何人かはチラチラと奇異な目でこちらを覗いている奴がいる。
それは教師も同類で授業中何度もこちろを目を向けてきている。
正直そこまでかと言いたくなるが、そこは堪えよう。
自業自得な所もあるしな。
まぁ、リーナにそんなことを言われようがクラスに変な目で見られようが俺は授業態度を変える気はない。
その理由は今の俺の気分にも関わっているわけだが、最大の理由は別にある。
それはーーーーもうすぐ夏休みだからだ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「もうすぐ夏休みだね」
昼休みになりさやは嬉しそうに声を少し弾ませる。
「そうだな」
さやの言葉に俺も少しうきうきしながら言う。
これまで色々あったがとうとう夏休みだ。
夏休みに入ったら俺のやることは決まっている。
宿題なんぞ初めの内にやって後はとことんだらけるぞ。最大限ベットの上で過ごす。怠惰な生活が俺を待っている。
俺はこれからの生活を考えて楽しくなっていると、俺の顔を見てリーナが察した様に言った。
「成る程、そういうことか」
「え?何が?」
ため息混じりに言うリーナにさやは意味が分からず首を傾げる。これは俺からしたら重要な事だ。これまで本当に色々あったからな。
そんな俺に少しの休暇もあっていいと思う。
我ながら子供みたいに思えるがこればかりは仕方ない。
「ーーーーということだ」
「あー、だから夜兎君今日無駄に元気だったんだ」
「無駄っていうなよ」
リーナに事情を説明してもらったさやは納得したように俺を見る。
人が授業にやる気を出しているのに無駄とか言わないで欲しいんだが。
何だろう、何か最近さやも俺への扱いが変わってきているのは気のせいだろうか。
これも友好関係がより親密になった証なんだろうか。
「だって何時もやる気なさそうな感じを見てると、何かねぇ」
言いたいことは分かるがそこは褒めたりしてくれてもいいだろ。
人が珍しくやる気出してたというのに。
リーナとさやの言われように俺は段々やる気が削がれてきたが、ここでさやが急に話を変えてきた。
「そういえば二人とも、夏休み何か予定とかあるの?」
弁当を食べながらさやは唐突に聞く。
「俺は特にないぞ。あるとしても母さんの実家に行く位だろうし」
「私も特にないな。メトロン様から何か指令がなければだが」
「それなら夏休み皆で何処か遊びに行かない?」
特に予定もない俺とリーナにさやは提案する。
「遊びに行くのは構わないが、何処にいくんだ?」
「うーん、夏らしく海とか?」
「男苦手なのにか?」
水着を着る海じゃさやなら絶対注目の的になるぞ。
俺の指摘にさやは思い出したのか申し訳なさそうに言った。
「すいません、無理です........」
しょんぼりとしながらさやは謝罪する。
まぁ、そうだろうな。
ただでさえ男と話せないさやが海なんて行ったら大変な事になりそうだ。
しょんぼりするさやに俺とリーナは苦笑すると、リーナが何か思い出したかのように言った。
「そうだ、実はメトロン様から聞いた耳寄りな情報がある」
「耳寄りな情報?」
そう言われて俺はリーナに聞き返す。
「これはメトロン様への定時報告の時に聞いたんだが、どうやらこの世界にメトロン様が造った島があるらしい」
「島?」
島と聞いて俺は首を傾げる。
何でそんなもんがあるんだ?
「島って、無人島?」
「あぁ、だから皆でそこに行くのはどうだ?」
さやの問いにリーナは頷く。
それを聞いてさやは目を輝かせ少しはしゃぎだした。
「いいね行こうよ無人島!ね!夜兎君!」
嬉しそうにしながらさやが俺に話を振ってきた。
「無人島かぁ........」
無人島と言われ俺は少し悩んだ。
別に悪くはないが俺には日がな一日だらけるという使命が........。
海水浴かだらけるか。その二つを天秤に掛け俺は悩んでいると、さやが不安そうな顔をしながら聞いてきた。
「もしかして、駄目?」
あ、これは駄目だわ。
不安そうな顔をしてくるさやの顔を見て俺の中の天秤は一気に傾いた。
それは反則だろ。
「いや、行くよ。行かせて貰う」
降参したかの様に俺はさやに言うと、さやの顔は一気に明るくなる。
全く、そんな顔されたら勝てないな。
そんな俺の様子を見ていたリーナも流石に呆れたのか苦笑している。
あれには勝てないだろ。
「それじゃあ決まりだね!」
太陽に勝る程の明るい笑みでさやは言った。
さようなら、俺の怠惰な生活。
明るい笑みのさやとは逆に俺は少し残念がる。
早くも俺の理想の生活が崩れたな。
まぁ、最初だけならいいか。それ以降は絶対にだらける。フラグじゃないからな。
俺は心の中でそんなことを思った。
「だがさや殿、体の方は大丈夫なのか?この前体育見学していただろ?」
リーナがさやに尋ねる。
すると忘れてたのかさやは少しきょどりながら応えた。
「だ、大丈夫だよ......多分」
多分って、自信ないんだな。
そういえば最初さやと会ったときも倒れてたな。
確かスキルに【虚弱体質】ってのがあってそれが原因だった。
しょうがない、ここは俺が何とかしよう。
「それなら大丈夫だ。ーーーーーー削除」
さやを見ながら俺はそう呟く。
突然の事にさやは呆気にとられていたが、これでもう大丈夫だ。
「今のでさやの病弱な体質は直ったぞ。多分な」
「え?本当?」
俺にそう言われさやは自分の体を見回すが何も感じないんだろう。何が変わったか分からず首を傾げている。
「さやの体質はスキルにも出てたからそれを消しといた。もう普通に運動も出来るんじゃないか?」
「え、あれスキルだったの!?」
「そういえば貴様そんなことも出来たな」
俺の話す事実にさやは驚き、全てを理解したリーナは俺の力に呆れながら言った。
【削除魔法】って便利だよな。
「だから途中倒れるなんて事はないから安心しろ」
「夜兎君、ありがとう!」
俺の言葉にさやは嬉しそうに満面の笑みでお礼を言った。
途中で倒られたら大変だからな。
それに他ならぬさやの為だ。これくらいは当然だ。
「にしても何でメトロンは島なんて造ったんだよ?神はあんま世界に干渉してはいけないんだろ?」
俺の疑問にリーナは思い出すようにして応えた。
「そうだな、あれはメトロン様の定時報告の時だーーーー」
自分の中の記憶を辿りながらリーナはその時の事を語り始めた。
あ、これもしかして回想入る感じ?
おまけ
【寝ていい?】
一時間目
「.....神谷、保健室に行くか?」
「いえ、大丈夫です」
二時間目
「神谷君、体調でも悪いのかい?」
「いや、そういうことじゃないんです」
三時間目
「神谷、熱でもあるのか?」
「いや、あの、そういうわけじゃ.....」
四時間目
「神谷、お前今日大丈夫か?」
「それはもう寝てろって事ですか」
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