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クラスの試練

今回もう少し日常パートをやっていくつもりでしたが、話の流れからしてもう思い付かなかったので早くも異世界組の話です。

 異世界召喚から四ヶ月後になっています。テンプレ感満載です。

 場面は変わり一方その頃、天上院輝(てんじょういんひかる)が率いる異世界組は、ある一つの試練を迎えていた。



「ハッ!!ハッ!!ハッ!!」



 何時もの城の訓練場で天上院は一人剣を振っている。額から汗が滲み出て、息も荒い。

 きっと長い間剣を振り続けたんだろう。

 訓練では汗一つかかない天上院がここまでになるまでいったいどれくらい剣を振り続けたのか、見ただけで窺える。

 そんな天上院を心配な目で見つめている一人の人影があった。

  


「天上院君.......」

「........美紀」



 建物の影から見ていた天道美紀(てんどうみき)が天上院に傍に近寄ると、天上院は剣を振るのを止め息を整えながら顔が俯かせ気味になる。

 


「やっぱり、気にしてるの?あの事」


 

 心配そうに言う美紀の言葉に天上院は黙って頷く。

 あの事とは異世界召喚から四ヶ月。

 天上院達のクラスにとうとう死者が出たのだ。



 名前は三鷹蓮(みたかれん)

 特に目立った所はない普通の学生だ。

 能力もクラスの平均とそんなに変わらず友達も少なからずいる。

 唯一特徴があるとすればそれは蓮が重度のアニメ好きだったということだ。

 それは蓮が死んでから分かった事だが今となっては関係のない。



「僕が、僕があの時しっかり皆の事を見ていれば........!!」



 天上院は悔しそうに顔を歪ませ剣を持つ手をぎゅっと握る。  

 蓮が死んだ原因はダンジョンでのトラップだ。

 今回二回目のダンジョン探索で蓮は運悪く引っ掛かりダンジョンの奥深くに落とされた。

 

  

 一緒に来ていた騎士の人達が言うには蓮が引っ掛かったのは転移系のトラップらしい。

 対象をランダムに飛ばす物らしく、その場所は誰にも分からない。極めて珍しく探知も不可能。

 まさに運が悪いとしかいようがない。

 当然天上院達は蓮を探そうとした。 

 だがそんな天上院達を騎士達が止めた。



 天上院達が行っているダンジョンは未だ誰も制覇したことない未知のダンジョン。

 当然何階層あるかなんて分かる筈がない。

 そんな広さも分からないダンジョンで貴重な勇者達を探しに行かせられる訳がなかった。

 だからダンジョンに一緒に来た騎士の人達は口を揃えて言う。 

 「もう、彼は助からない」、と。



「僕がもっと強ければ、こんなことには!」

「そんなことない!天上院君は何も悪くないよ!」



 自分を責める天上院に美紀は必至に慰める。

 天上院はクラスの中心、謂わばリーダー的存在だ。

 その自覚は天上院自身にもあり、そんなリーダーとしての責任が今の彼の心に酷くのし掛かっている。

 


「あの時僕は今更ながら思い知らされたよ。これはゲームじゃないって」



 悟ったように顔を見上げながら天上院は言った。

 異世界に来て初めての死者。 

 この事実がクラスには相当精神に来たのだろう。

 だから今日は訓練を行っていない。

 皆それぞれの部屋に籠り、色々な思いに駆られているだろう。



 天上院達は知らず知らずの内に思っていたかもしれない。自分達は最強の勇者で、誰にも負けない。だから死ぬことはない。

 そんな気持ちが芽生えていたから、こんな事態になるなんて予想もしていなかった。



「人も殺したのにね.......」



 空を見上げながら天上院は呟く。

 人殺しは盗賊団の殲滅で既に経験している。 

 なのにいざ今度は自分がそうなると思うと途端に体が震えてくる。

 人は殺した癖に自分は嫌だ。  

 矛盾してるな。

 


「天上院君.........」



 空を見上げ目を瞑りながら儚げに呟く天上院の姿に、美紀は何て声を掛けていいか分からなかった。好きな人が目の前で一つの壁にぶつかっている。美紀は直ぐにでも助けてあげたかった。支えてあげたかった。



 なのに何故か言葉が出なかった。     

 大丈夫何て気休めも言えず、私が何とかするなんて無責任な事も言えず、ただただ重くのし掛かるリーダーとしての責任に堪える天上院を見つめているだけ。



 何とかしてあげたい。

 そんな思いを胸に抱きながら美紀はそう思っていると、建物の影からまた一人の人影がこちらに近付いてきた。



「天上院様」

「王女様.........」



 表情を変えず、真顔のままやや速歩きでルリアーノは天上院の下に歩み寄ると天上院を真っ直ぐ見つめながら言った。



「天上院様は強くありませんよ」

「え?」



 来て早々唐突にルリアーノは言う。

 唐突に言われ天上院は何を言っているのか理解出来ていないが、そんなのはお構いなしにルリアーノは喋り続ける。



「確かに天上院様は勇者様達のまとめ役として常に最前線で頑張られています。誰よりも努力をし他の勇者様達の配慮も忘れない。素晴らしいと思います。ですがそれは強さとは関係ありません。天上院様、今貴方がするべき事は何ですか?」

「僕の、するべき事.......」



 ルリアーノの言葉に天上院は魅入られる様にして呟く。 



「今貴方がするのはここで鍛練をすることではありません。今まで天上院様は、勇者様達は一人で戦ってきたのではないんですから」



 そう言ってルリアーノは優しく天上院の手を掴み微笑む。



「ここまで言えばもう分かりますよね?」

「王女様......はい!!行ってきます!!」



 全てを理解した天上院はルリアーノから手を離し皆が居るであろう城の中へと走っていく。 

 そこ顔には迷いはなく、何時もの真っ直ぐな顔をしていた。

 これでもう大丈夫でしょう。

 走っていく天上院を見送りながらルリアーノは思った。

 


 満足げにルリアーノは微笑むが、隣で見たいた美紀は何やら解せないという顔をしている。

 


「何時から見てたの?」

「さぁ?何の事でしょうか?」



 じと目で見つめる美紀にルリアーノは白々しい言い方をしながら未だ微笑む。

 本来ならお礼の一つでも言うところだが美紀はこればかりは言わずにいられなかった。

 考え込んでいた天上院は気付かなかったが美紀には分かる。   



 ルリアーノの出てくるタイミングが良すぎるのだ。

 きっと美紀と同じでこっそり覗いていたんだろう。美紀はそう確信している。



 別にそれだけならまだいい。

 自分では助けられなかった天上院に希望の光を与えてくれたんだ。

 そこは感謝している。

 だが何よりも解せないのがもう一つある。



「手を繋ぐ必要あった?」



 それはさりげなく天上院と手を繋いだ事だ。



「天上院様に心の安らぎを与える為には必要な事ですよ」



 握った手を嬉しそうに見ながらルリアーノは言う。この様子はあからさま狙っていたな。

 そんなルリアーノの態度に美紀は少し悔しい気持ちになったが、諦めた様にため息をついた。



「まぁいいや。天上院君が元に戻ったし」



 今回に関しては自分は余り言える立場ではない。そう思った美紀は今度は悔しい気持ちとは裏腹に感謝の言葉をルリアーノに述べた。



「ありがとう。ルリ」

「どういたしまして、美紀」



 お互いに顔を見合い少し笑い合う。

 何だかんだ言ってこの二人は呼び捨てで呼び合う程仲良しである。

 好きな人が同じだと通じるものでもあるのだろうか。その後も二人は一緒に仲良く走っていった天上院を追っていった。

 


 異世界召喚から四ヶ月、天上院達クラスは今また一つの試練を乗り越え、最大の目標である魔王討伐へと近付いていくのだった。

おまけ


 【ストーカー?】


「本当に何時から見てたの?ルリ」

「美紀様と同じ位からですよ」 

「本当に?」

「えぇ、本当です」

「......天上院君相当長い間剣を振ってたよね」

「そうですね。まさか朝からずっと振るとは思いませんでした」

「最初っから見てたんじゃん」



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