改心しすぎは逆に面倒
まだ眠気が取れない朝の時間。
朝の光が差し込む教室でさやは一人ボーっとしながら机に肘を付け窓の外を眺めていた。
「どうしたんださや?そんなボーっとして」
「うーん、何かこうして普通に生活を送ってると昨日あんなことあったとは思えない感じがして」
そう言ってさやはクラスの中を見回す。
そこにはそれぞれ友達と会話をしている人や、今日出す宿題を急いでやっている人、本を読んでいる人と何時もの光景が広がっている。
昨日あんな目にあったのにその翌日には何時もの日常。
それにさやは違和感を感じているんだろう。
「まぁ、そう言うのも何となく分かるぞ。俺はもう慣れたけど」
これまで幾度となく厄介事を相手にしてきた俺だ。そんなのはとっくに慣れた。
テロリストにモンスター出現、天使にドラゴン、遡ればきりがない。
いやほんと、俺今までよくやってきたな。
俺は目を瞑って染々とこれまでの出来事を思い返す。
「そ、そうなんだ。大変だね........」
俺の様子にさやは苦笑いをする。
さやには昨日話の途中で俺のしてきたことの一部を話してある。
お陰で少し同情したようだ。
染々とする俺にさやは話を変えようと別の話題を喋り出した。
「そ、そういえば昨日大変だったね」
さやの言葉に俺は思い返すのを止め相槌をうつ。
「そうだなぁ、あれは大変だった」
昨日リーナが帰ってきてからは色々と大変だった。なんせ記憶を消して気絶した俺にはもう魔力がないから帰れなかったんだよな。
仕方なくリーナにまた魔力を貰おうとしたんだけど、何故かリーナに拒まれた。
『あ、あれを人前でやれというのか!?』
リーナ曰く魔力を他人に与えるのは難しいらしく、体を密着させなければ出来ないらしい。
だから人前で抱き合うのはリーナの羞恥心が堪えられないみたいで全力で拒否された。
顔を赤くしながらそれはもう全力で拒否され、流石にこれでは俺も頼めない。
「リーナちゃんも可愛い所あるよね」
「俺は別によかったんだけどな」
昨日のリーナの慌てぶりを思い出してさやは微笑む。
俺は抱き着く位なら別に気にしないんだけどな。非常事態でもあるし。
それからも散々拒否されたが、結局は妥協して手を握って魔力を送る形で終わった。
ただ効率が物凄く悪く、十分な魔力を得るのに無駄に時間がかかったな。
「そういえば、安久谷君大丈夫かな?」
するとさやが唐突に言った。
「大丈夫だろう。あいつ変わったし」
あの時根暗野郎はゲルマと一緒にさや達の所に連れてきていたんだが、転移させるのをすっかり忘れて放置していた。
起きるまですっかり忘れてたんだよな。
やがて根暗野郎は目を覚まし起き上がり、俺はさやと帰ってきていたリーナは一緒にそれを見つめていると、
『沙耶香、ちゃん?』
第一声でさやを呼んだ。
普通ならそこは「ここは何処?」とか「俺何してたんだ?」とか言うものなのにこれである。
これにはさやも怖かったのか俺の後ろに隠れ俺とリーナは根暗野郎を威圧する準備を始めたが、次の根暗野郎の行動に俺達は呆気を取られた。
「あれには驚いたね」
「そうだな」
あの根暗野郎の行動を思い出し俺とさやは苦笑する。
起きて第一声がさやの名前を呼ぶ次にした根暗野郎の行動とは。
『すいませんでしたぁ!!』
謝罪である。
しかも地面に頭を擦り付けた完璧な土下座での謝罪だ。
これには俺達も予想外すぎて何て言えばいいか分からなかったな。
急な謝罪と土下座に俺は根暗野郎に理由を聞くと、根暗野郎は地面に頭を付けたまま答えた。
『僕は沙耶香ちゃんにとんでもない事をしてしまいました。今思えばこんなことをしても沙耶香ちゃんは僕になびく所か嫌われるだけだって分かるのに。謝って許して貰えるとは思っていません。でもこれは今の僕の精一杯の謝罪です!!』
正直聞いていたときは自分の耳を疑った。
あの狂った思考をしている根暗野郎が何を言っているんだ。
そんな気持ちになったが、一応俺は根暗野郎に顔を上げる様に言うと、その根暗野郎の顔に更に呆気に取られた。
見ると根暗野郎の顔は前の薄気味悪い印象がすっかり消え、まるで汚れでも落ちたかのように真面目そうな爽やか少年へと変化していた。
『『『誰 (だ)(だよ)!?』』』
俺達三人はその根暗野郎の顔を見て一斉にハモった。
暗い不気味な顔から明るい爽やかな顔。 こんな劇的な変化どうやったら起こるんだろうか。これではもう根暗野郎とは呼べないな。
爽やか野郎と言うべきだろうか。
俺はこうなった原因を少し考えたが、一つだけ思い当たる事があった。
それは俺がゲルマを根暗野郎の体から追い出す為に使った【心の光】だ。あれは光の中で悪の心を浄化する魔法。
それのせいで元々持っていた根暗野郎の心も浄化されたんだろう。
思わぬ事態に俺とさやとリーナもどうしたもんかと頭を悩ませたが、取り敢えず何処かに飛ばそうと転移しようとしたら、
『僕は沙耶香ちゃんに許して貰おうなんて思っていません。だからこれからは僕の罪の償いとして、もう沙耶香ちゃんに近付くことはしません。それに僕は決めたんです。今まで何度も人を切り捨ててきた僕は今度は人の為に生きようって。だから地方のボランティアに参加して世の中の為に働いていこうと思います。ですから沙耶香ちゃん。どうかこれからを頑張って生きてーーーーー』
何やら熱く語ってきた。
とっとと転移させたかった俺は話の途中で爽やか野郎を転移させたが、このまま放置してたら何処まで語ってただろうか。
改心したのはいいがここまで来ると逆に面倒だな。
「安久谷君今何してるんだろうね」
「さあな、どっかでまたボランティア活動でもしてるんだろ」
そう言うさやに俺は少し興味なさげに言う。
何処であいつが何をしようが興味はないが、改心したならもうさやに手を出すこともない。
これで一安心だろ。
「そういえばリーナちゃん遅いね。どうしたんだろ?」
俺の隣の席を見ながらさやが言った。
そういえばまだ来てないな。
「さあな。もしかしたら休みだったりして。お!そうなると久し振りに寝られーーーー」
「させると思うか?」
リーナが来ていないことに俺は少し嬉しそうに話すと、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
俺はその声にゆっくりと後ろを振り向くと、リーナが腕を組ながら笑顔で立っていた。
「お、おはよう。リーナ」
「おはよう。それで、何か言ったか?」
「いえ、何でもありません」
顔は笑顔だが確実に怒っているリーナに俺は反論出来る筈もなく自分の席へと戻る。
それを見てさやは楽しそうにふふっと笑う
まさか、後ろに居たとは。
狙ってるんじゃないだろうな。
余りのタイミングの良さに俺は少し疑ったが、
「今日も授業頑張ろうな。神谷夜兎」
「........はい」
リーナからの圧にそれ以上考えるのを止めた。
それから俺は授業中寝ることなく真面目に受けた。
今日も何時も通りだな。
ーーーーーーーーーーーーーー
「リーナちゃんって一人暮らし何だよね?」
昼休みの時間、弁当を食べながら雑談している途中さやが唐突にリーナに質問してきた。
「あぁ、そうだぞ」
「天使の家ってどんな感じなの?」
「あ、それは俺も気になるな」
さやの言葉に俺も乗っかった。
確かにリーナがどんな家に住んでるのかちょっと気になるな。
何か凄い感じだったりして。
少し興味ありげに聞く俺とさやにリーナは少し困った笑みを浮かべた。
「何か期待しているようで悪いが、至って普通の家だぞ」
「へー、そうなんだ」
「何なら家に来てみるか?」
「え?いいの!」
リーナの提案にさやは嬉しそうに言った。
リーナの家か。俺も気になるな。
「俺も行っていいか?」
「別に構わないぞ」
「それじゃあ放課後皆で行ってみようか!」
リーナからの了承も得て、俺達はリーナの家に行くことになった。
それじゃあ天使の家へお宅訪問といくか。
おまけ
【神谷争奪戦】
「おい聞いたか!」
「何をだよ?」
「神谷が釜石さんの事をとうとう名前で呼んでるみたいだぞ!」
「なに!?ってことはとうとう釜石さんは神谷と!」
「いや、それが違うらしい。さっき女子がそれとなく聞いたが反応からして違うみたいだ」
「そうか。だがこれで前進したな」
「あぁ、釜石さんも神谷の事名前で呼んでたみたいだしこれは神谷争奪戦一歩リードだ」
「勝てるといいな。釜石さん」
「そうだな」
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