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ただの事故だから他意はありません

 私のお父さんは警察官だった。

 市民の安全を守り何時も周りの人には優しく接している。

 住民の人も皆お父さんを慕っていて同僚からの信頼も厚い。

 ちょっと不器用な所もあるけどそんなお父さんは私の憧れだった。

 


 でもある時、そんなお父さんは突如行方不明になった。

 朝何時も通り仕事に出掛けてその後帰って来なくなったのだ。

 お父さんがいなくなったからは皆必死になってお父さんを探した。



 同僚の警察官や何時もお父さんにお世話になっている住民の人も総出でお父さんを探したけど、結局は見付からなかった。 

 その事にお母さんは凄く悲しんでいた。

 毎日部屋の中で泣いていたけど、私がいたからだろうか。

 お母さん立ち直り私と二人で暮らしていく事を決めた。



 今でもお父さんは行方不明のままだ。

 何処に行ったのかは未だ謎のままだけど、私は何となく生きている気がする。

 


(何でかなぁ、お父さんはまだ何処かにいる気がするんだよね)



 確証はないけど。 

 私はそんな事を思っていると、ふとある出来事を思い出した。

 


(そういえば、あんなことあったなぁ)



 何時の頃だっただろうか。

 昔私はお母さんと一緒に行ったお店に行きたくなり黙って一人で出掛けたことがある。

 道も覚えていたつもりだったから行けると思ったんだろうな。



 でもそこで私は迷子になった。

 最初は帰れると思って歩き回ったけど全然帰れなくて、段々不安になり寂しくもなった。

 周りには誰もいない、何処かも分からない場所。

 空も暗くなり私は一人寂しく道を歩いていた。



『おとうさん、おかあさん、ここどこぉ.....』

 


 弱々しい声で私はお父さんとお母さんを呼んだ。

 涙が出そうになる目を擦りながら私は歩き続けた。知らない道、知らない風景、当時小さかった私にはそれは恐怖でしかなかった。

 もう駄目だ。私は諦めて立ち止まろうとしたその時ーーーーーーー



『見つけた』

 


 お父さんが私を探しだしてくれた。



『おとう、さん?』 

『大丈夫か沙耶香。怪我はないか?』



 勝手に出ていった私を怒ることもせずお父さんは私の頭を撫でる。

 相当走り回ったんだろう。

 額から大量の汗が流れている。

 その優しい言葉に私は抑え込んでいた気持ちが緩み目から溢れんばかりの涙を流した。



『もう大丈夫だ。お父さんがついてるぞ』



 泣きじゃくる私をお父さんは優しく抱き締めながら言った。

 それは暖かく、思いやりに溢れていた。

 泣きわめいていた私は暫くして泣き止みお父さんと一緒に手を繋ぎながらお家に帰った。

 お家に帰ると心配していたお母さんに少し怒られたけど、これはこれでいい思い出だ。



(懐かしいなぁ)



 私は目を瞑って昔の思い出を懐かしむ。

 あれ実はお父さんだけじゃなくて近所の人達も探してくれたみたいで後でお礼を言いに行ったんだよね。皆心配してくれていた少し嬉しかったな。

 昔を懐かしむ私はふと間近で寝ている神谷君を見てあることを思った。



(お父さんと神谷君って何か似てる気がする)



 性格とか顔とかの事じゃなくて、雰囲気とか、人の事助けてくれるとことか。

 神谷君何時も怠そうにしてるけど、何だかんだいって助けてくれるし。

 だから私最初神谷君を見ても怖がらなかったのかな?

 だとしたら何か納得出来る気がする。

 


 あの時もそうだ。

 私が安久谷君と再会して神谷君が間に入った時も。

 


『大丈夫、俺がついてる』



 あの微笑みながら言う姿がお父さんと重なって見えた。

 あの時お父さんと神谷君の両方に支えられている気がしたからあんな事言えたんだろうな。

 

 

(本当、私って助けられてばかりだな)

 


 助けられてばかりな自分に少し嫌気が刺すが今の私には神谷君を直接助けられる手段はない。

 ないものは仕方ない、でもきっと私にも何か出来る事がある気がする。

 それが直接的じゃなくても間接的であっても、神谷君の助けになるのなら私は何でも頑張れるだろう。


 

「ありがとう、神谷君」

  


 私は寝ている神谷君にそっと囁いた。

 今はこのぐらいしか言えないけど、何時か何か神谷君の助けになることが出来る様になったら、今度は私が神谷君を助ける。

 それに私の覚悟が出来たら今度こそ言うね。私の気持ちを。

 


「ん、んぅ...........」



 私の囁きで少し眠りが妨げられたのか神谷君は体をモゾモゾとしだした。 

 突然の事に私は顔を近づけたまま動けないでいる。

 多分それが原因なんだろう。

 この後起こった唐突の事故を回避出来なかったのは。



 神谷君が体をモゾモゾとさせ顔が少し動くとーーーーーー私の唇と神谷君の唇が重なりあった。



「っっ!!!?!?」



 突然の事態に私は一瞬呆けたが直ぐに顔を真っ赤にさせ顔を思いっきり上げた。

 思わず声が出そうになったが、寝ている神谷君に悪いと思い寸での所で声を抑え、声にならない声を出す。



(え?い、今、わ、私、神谷君と、き、キスしちゃった!?)



 思わぬ展開に私は身体中が熱くなる。

 今にも頭から湯気が出そうなほど熱くなり私はもうどうしていいか分からなくなった。

 こんな状態でまともな思考が出来る筈もなく、私は目をぐるぐると回す。

 


(え、いや、ちょ、ど、どうしよう!!まさかこんなことになるなんて!べ、別に嫌とかじゃないけど、寧ろ嬉しいというか、やったーというかぁ。で、でもやるならもっとちゃんとお互いの事知ったからにしたいし、まだ付き合ってもいないし。それにもっと素敵なシチュエーションのほうがぁ.......って何言ってるの私!!)

    

  

 手で顔を覆い顔を左右に振る。

 最早自分で何を言っているのかすら分からないがこの事実だけは分かる。

 私は神谷君と事故ながらもキスをした。

 その事実だけでもお腹一杯である。

 私は暫く神谷君のキスとの恥ずかしさと自分の思考の中の妄想の恥ずかしさに悶えながら神谷君が起きるのを待った。



(この事は内緒にしておこ)



 一人悶えながらも私はこれだけははっきりと誓うのだった。

おまけ


 【なにもしてません】


「そういえばさや殿、私がいないときに何かあったか?」

「え!?な、何急に......」

「いや、気絶しているとはいえ何が起きるか分からんからな。神谷夜兎とは何もなかったか?」

「え、ナ、ナニモナカッタヨ」

「何故そんな棒読みなんだ?もしかして何かあったのでは....はっ!!まさかあいつに何かされたんじゃ」

「されてないされてない!!寧ろしたのは私ぃ.....」

「本当に何があったんだ?」

「お願い、何も聞かないでぇ......」

「いや、しかし」

「もしこれ以上聞いたら......許さない」

「分かった。もう聞かない。だからそんな血走った目で見ないでくれ」



ーーーーーーーーーーー



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