人目がなくなると気が大きくなるタイプ
転移でリーナ達がいるさっき俺がいた所とは違うビルの屋上に向かい、
「おーっす」
軽いのりで挨拶をした。
つい先程まで元神と戦っていた男とは思えない発言だが、それとは対称的に釜石さんとリーナは心配そうにしながら俺に駆け寄ってくる。
「神谷君!?大丈夫?何処か怪我してない?」
「怪我をしているなら私が治すぞ!」
俺の体を見回しながら二人は言った。
どうやら相当心配してくれたみたいだ。
それは嬉しいんだが、二人とも心配の仕方が過剰すぎる気がするんだが。
心配する二人に俺は苦笑いする。
そんな近付きながら言われても反応に困るんだけど。
それに治療なら俺の方が治癒魔法は得意だぞ、リーナ。
「見ての通り大丈夫だ。それよりリーナ、こいつ引き取ってくれ」
そう言って俺は担いでいたゲルマを無造作に地面に置いた。
「あぁ、こいつか。分かった、私が責任持って引き取ろう」
相手が神じゃなくなると本当に男にはドライな対応。
地面に置かれたゲルマを興味なさげに横目で見ながらリーナは言う。
そんなリーナの対応に釜石さんは苦笑していたが、もう片方の腕で担がれている根暗野郎を見て窺うようにしながら俺に聞いてきた。
「ねぇ神谷君、安久谷君、生きてるの?」
「そりゃあな」
服もボロボロで生きているかも分からないくらいにぐったりしているからか、釜石さんは疑いながら聞く。
見た目はあれだが傷は俺がちゃんと治療してある。先ず生きてるのは確実だ。
「直に目を覚ますぞ」
「そ、そうなんだ......」
俺はいい加減重たいから根暗野郎を地面に置くと、釜石さんはさりげなく根暗野郎から遠ざかった。死ぬのは嫌でもやっぱり怖いか。
後でどっか転移で飛ばしておこう。
「神谷君.....」
すると嫌悪感のある目で根暗野郎を見ていた釜石さんが急に神妙な顔付きなりこちらを向いた。
「リーナちゃんから聞いたの。神谷君がこれまでしてきたこと」
どうやらリーナから俺の事聞いたようで釜石さんは何か言いたそうにしていたが、俺はそれに一度待ったをかけた。
「ちょっと待ってくれ。悪い釜石さん、その話をする前に一つやることがある」
「え?やること?」
「何をする気なんだ?」
待ったをかけた俺に釜石さんとリーナは首を傾げる。
まだ下に居る一般人達の記憶を消していない。
ゲルマとの戦いでかなり注目を浴びただろうからな。こういうのは早めに消しておいた方がいい。
だがそれをするとまた魔力切れで気絶するだろうけど、それも仕方ないか。
釜石さん達もいるんだ。大丈夫だろう。
「今から下にいる人達の記憶とそれに関するものを消す。そうすると俺多分気絶するから」
「へ?気絶?」
「そんなわけで、後よろしく」
既に【空間魔法(効果範囲 特大)】で範囲指定は済ませてある。後は削除するだけだ。
俺はそう言うと【削除魔法】を発動させ下の人々の記憶を消した。
何時も通り体が急に力が抜ける様な感覚に襲われると、突如視界が歪み意識が遠退き始めた。
(来たか。【精神耐性(極)】があるからもしかしたら気絶はしないかなと思ったが、流石に無理だったか.........)
だが前よりは気絶時間が短くなっているだろう。俺は遠退く意識の中、目の前にいる釜石さんに倒れ込む様にして気絶していった。
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神谷君が急に倒れ込んで来て私は少し動揺していた。
「え、ちょ、神谷君!?」
抱き着くようにして倒れ込まれ私は顔を紅くしながら神谷君の体を揺する。
抱き着かれるのは嬉しいけど、そういうのは二人っきりの時とかが.......って何言ってるの私!?
神谷君に抱きつかれパニックになる私にリーナちゃんが冷静に言った。
「落ち着けさや殿。さっき神谷夜兎も言っていただろ。気絶しただけだ」
冷静なリーナちゃんに言われ、私はそうだったと思い途端に冷静になる。
だが冷静になったにはなったが、神谷君に抱き着かれた状態だというのは変わりはない。
(ど、どうしよう..........)
抱き着く神谷君に私はどうしたらいいか分からず、私はそのまま固まって動けないでいた。神谷君の顔を見つめるとその顔はまるで寝ているかのように気持ちよさそうにしている。
(寝顔、可愛いなぁ........)
何時も眠そうで死んだ目をしているけど、寝ている時の顔は何処か可愛いらしさを感じる。
普段とは違った感じの神谷君の表情に私は思わず神谷君の寝顔を見続けていると、
「あー、さや殿、そろそろ神谷夜兎を寝かしてやったらどうだ?寝顔を見るのはそれからでもいいだろ?」
見かねたリーナちゃんが声をかけてきた。
「!?そ、そうだね!!」
突然声をかけられ私はビクッと少し体を跳ねさせ、勢いよく地面に腰を下ろした。
そういえば隣にリーナちゃん要るんだった。
うぅ、目の前でガン見しちゃってたよ.....。
リーナちゃんの前で神谷君を見つめていた事に私は少し顔を俯かせ恥ずかしくなる。
寝かせるのはいいけど地面にそのまま寝かせるのはどうなんだろう?
何か頭に敷いた方がいいかな?
このままコンクリートの固い地面に寝かせるのもどうかと思い私は少し考えると、ふと自分の膝が目に入った。
そうだ、私の膝の上に神谷君の頭を置けば少しはよくなるかな。
そう思い私は神谷君の頭を膝の上に乗せ神谷君を寝かせた。
「うっ......ひ、膝枕か」
私が神谷君の頭を膝の上に乗せる姿を見てリーナちゃんは何か言いたそうにしながら呟く。
「?どうかした?」
「い、いや、何でもない」
私の言葉にリーナちゃんは顔を背ける。
だったら何でそんな羨ましそうな目で私を見ているの?
私はそんな目で見てくるリーナちゃんを見て首を傾げた。
膝枕ってそんな凄いことなのかな?
リーナちゃんは未だ顔を背けながらチラチラとこちらの様子を窺っている。
途中小声で「膝枕.....」とか「これが天然.....」とか聞こえてきて、何だが非常にやりづらくなってきた。
「あの、よかったら代わる?」
「な、何を急に言っているのだ!?べ、別に私は代わって欲しくは!」
「でもさっきからチラチラと羨ましそうにこっち見てたよね?」
私に図星を突かれたのかリーナちゃんは「うっ!!」と黙り込んだ。
あ、やっぱりそうだったんだ。
神谷君の膝枕を代わるのは少し残念だけど、独り占めするのは流石に気が退ける。
私はリーナちゃんに膝枕を代わってあげようとしたが、恥ずかしいのかリーナちゃんは急に話を変え始めた。
「わ、私はこの堕神を引き渡して来るのでな!後はさや殿に任せる!それでは!!」
素早く話を切り上げリーナちゃんは慌てながら堕神の服の襟を掴み何処かへ飛んでいった。
そんなに恥ずかしがることないのに。
私は飛んでいくリーナちゃんを見送った。
やっぱりリーナちゃんって天使だったんだなぁ。
飛んでいくリーナちゃんを見て私は思った。
リーナちゃんから一通りの話は聞いてるけど実際に見るとそれが本当だと感じさせる。
神谷君も同じ様なこと出来るんだよね。
あんな凄いこと出来るんだもん。
(でもどうして私には教えてくれなかったんだろう?)
言いたくなかったのかな?
それとも言わなかっただけかな?
もし私にだけ言いたくないとかだったらどうしよう。私神谷君に嫌われてたのかな....。
そう思っていく内に段々不安になり、再び神谷君の寝顔を覗いた。
(やっぱり、寝顔可愛いなぁ.......)
何度見ても私は神谷君の寝顔を見て思わず頬が緩む。見てると考えていた不安がなくなっていく感じがする。
そういえば神谷君は何時も寝てるけどこんな間近でじっくりと見ることなんてなかったな。
学校では机に突っ伏して顔が見えないし、見ようと思っても人目があるし、昼休みの時も寝顔を覗こうとなんて考えたこともなかったし、何で今まで覗いて来なかったんだろう、私。
そう思いながら私は神谷君の寝顔を見つめていると、次第に慣れ始めたからか少し強気な行動に出た。
(もう少し、顔近づけてみようかな.....)
こんなシチュエーションもう二度とないだろうし、ちょっとだけいいよね。
周りに見ている者は誰もいないからか私は段々気が大きくなり、顔を神谷君に近づけ始めた。
「す、少し、だけ........」
そう言いながら私は徐々に顔を近づけ神谷君を見つめる。
ち、近いなぁ.....。
私は限界まで顔を近づけ、間距離数cmまで近づいた。
鼻先と鼻先がちょくちょくぶつかり神谷君の寝息が鼻にかかる。
ここまで男の人に近づいたのなんて人生で初めてだろうなぁ。
私は顔を近づけたままそう思っていたが、ここであることを思い出した。
そういえば、神谷君以外にもう一人いたっけ。こんなにも心許せる人が。
その人の名は釜石玄。今亡き私のお父さんだ。
おまけ
【天然】
「それじゃあ堕神ゲルマは預かるわね」
「あ、あぁ」
「?どうしたの?そんな顔を紅くして」
「い、いや、何でもない。ただ......」
「ただ?」
「天然というのは恐ろしいものだな」
「本当にどうしたの?」
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