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久しぶりに本気で怒った気がする

 人質を取るゲルマに俺はそう思っていると、釜石さんの体がピクリと動き出した。



「う、うぅ~ん.......ここは?」



 ゆっくりと瞼を開ける釜石さんの目には上空から見る街の景色が飛び込んできた。

 


「!!?」



 その余りの高さや体から感じる浮遊感に釜石さんの意識は途端に覚醒し、驚きの余り顔を仰け反らせる。

 驚き過ぎて声も出ない釜石さんにゲルマは声をかけた。

 


「おや、お目覚めのようですね。気分はどうですか?」

「ひぃ!!」



 目覚めた釜石さんにゲルマは顔を近付け耳元で囁く。

 聞き覚えのある声に釜石さんは小さく悲鳴を上げながらゲルマから顔を離す。

 目覚めたら空中にいて隣には安久谷の姿をしたゲルマ。次から次へと起こるこの事態に釜石さんはもう何がなんだか分からなくなっていた。



 ただ唯一分かることは、自分は今危険な状態にいるということだ。 

 気が付いたら空中にいて安久谷の姿のゲルマに抱き抱えられている。

 安久谷だけでも震えものだというのにこの仕打ち。

 これには釜石さんは震えを通り越して固まっていた。



「さや殿!!大丈夫か!!」



 リーナの叫びを聞きここで釜石さんはやっと俺達の存在に気づき、こちらに向かって応えるように叫ぶ。



「リーナちゃん!!神谷君!!」

「貴様!さや殿を離せ!!」



 リーナは激昂し怒りを露にする。

 リーナの怒りとは反対にゲルマは何が楽しいのか口許を緩める。

 


「離せと言われて離すわけないでしょう。それにこの人族はこの体の願いの一つでもあるのですから」

「願い?」


  

 ゲルマの言葉に俺は反応する。



「そうです。この体は貴方の抹殺の他にこの人族を手に入れる事を願いました。だからここに来る前に回収してきたんですが、やはり効果はあったようですね」



 釜石さんを盾にされ急に大人しくなった俺とリーナにゲルマは更に気分をよくする。

 あいつそんなのも願ってたのかよ。

 てっきり俺だけかと思っていたが釜石さんも狙われていたのか。

 こんなことならあんなに早く別れなきゃよかったな。

 俺は少し悔やみながらも気分をよくしているゲルマに冷静に言った。



「それで、釜石さんを盾にしてお前は俺達に何をさせたい。言っておくが古今東西悪が人質を取って上手くいった試しはない。だから大人しく離した方が身のためだぞ」



 冷静に、そして睨む様な目付きでゲルマに言う。下手に憤慨したところで何にもならない。

 相手に隙を作るだけだ。

 俺の冷静な物言いにゲルマはただの強がりと思っているのか未だ勝ち誇った笑みを浮かべる。



「私は悪ではありません、神です。そんな虚勢を吐いた所でどうにもなりませんよ。そうですねぇ、先ず手始めにーーーー」



 そう言った瞬間ゲルマの体から黒い霧が噴き出し釜石さんにまとわりつく。

 


「な、何!?......うぅ゛!」



 ゲルマに掴まれ何も抵抗出来ずに釜石さんは黒い霧に包まれ苦しそうにうめき声をあげる。

 


「この霧に包まれた人は精神や脳を侵食され増悪に支配される。止めるには私を倒す以外にありません。そしてーーー」 



 ゲルマは続けざまに釜石さんを掴む手と反対の手を空に向け黒い魔力を放出した。

 黒い魔力を放出し続けるとやがてまた空に禍々しい雲が出現し、中心から黒い霧が噴き出る。



「これは念のための保険です。これがあれば私の体は少しずつですが徐々に回復していきますのでね」



 見るとゲルマの体は少しずつだが本当に傷が塞がっていくのが見える。

 また空に雲が出されたか。

 これじゃあまた雲を消しても無意味だな。

 

 

「う、う゛ぅ.........」

「さや殿.....!!」



 黒い霧に包まれ釜石さんはうなされるようにうめき声をあげ続ける。

 それを何も出来ず黙って見ることしか出来ないリーナは悲痛な顔をしながら歯がゆい気持ちになる。

 手に力が入り、視線だけで殺す程の目付きでゲルマを睨む。

 


 だがそんな中俺はそれを黙って見続けた。

 怒りを露にせず、悲痛な顔をせず、ただ真顔で見続ける。

 別に俺の中に怒りがないわけじゃない。

 寧ろその逆。俺の中の怒りはふつふつと沸き出て今にもぶちギレそうな程煮えたぎっている。

  


 正直今からでも前に出てあいつをぶっ飛ばしたいがタイミングがまだだ。

 まだ出る時じゃない。

 釜石さんを助けれるその瞬間まで堪える。

 そしてその時が来たら絶対あいつをぶん殴る。絶対にだ。



 俺がそんな状態である事を露知らず、ゲルマは段々と気分を良くしたのか俺達にある要求を突き付けた。



「さて、準備も終えた事ですしここからは先ず余興として天使さん、貴女があの男を殺しなさい。そうすればこの人族の黒い霧を解いてあげましょう」

「なっ!!?」



 ゲルマの要求にリーナは息を呑んだ。

 なんともありきたりな要求だな。  

 俺はそんなゲルマの要求の前でも目線を変えることなくゲルマを睨む様にして見続けた。

 だがゲルマは釜石さんという盾を持っているせいかそんな俺の視線なんぞどうってことないといわんばかりに余裕な笑みを浮かべる。



 一方リーナはゲルマの要求なんぞ聞ける筈もなく動けないでいると、ゲルマが楽しそうに催促を始めた。



「ほら、早くしないとこの人族の体がどんどん侵食されていきますよ」



 楽しそうに催促をしながらゲルマは釜石さんの頬を手で擦る。

 釜石さんは黒い霧にうなされているせいか抵抗出来ずにいたが、その瞬間目から涙が溢れた。



「い.....や.....」


 

 意識がしっかりしてなくても体は覚えているのか、釜石さんは小声で拒絶する。

 それを見た瞬間、俺の中で何かが切れる感じがした。

 あ、これもう駄目だな。

 


「リーナ、釜石さんを頼むぞ」 

「え?まて貴様、それはどういーーー」



 リーナの言葉を聞く前に【時空転移魔法】でゲルマの後ろに転移し、ゲルマの肩に手を置く。

 


「何汚い手で触ってんだよ」

「っっ!!!?」



 肩に手を置いた瞬間俺は更に別の場所に転移しゲルマと釜石さんを引き離す。

 一瞬の出来事にゲルマは反応出来ずただただ驚く。

 俺はそこから手に思いっきり力を入れ拳に風を纏わせた状態でゲルマの顔をぶん殴った。 



疾風拳(ヴァンナックル)

「ぐほぁ!!」


 

 肉眼では捕らえられない程の速度の拳がゲルマの顔に突き刺さり、ゲルマはそれを諸に喰らう。

 空中をまた遠くに飛んでいくゲルマを俺は見送ると、釜石さんはどうなったかと振り向いた。



 釜石さんは未だ黒い霧に包まれたままだが、リーナに抱えられ無事でいる。

 俺はそこに早く向かおうと転移をし釜石さんの傍に向かった。



「神谷夜兎、さや殿が!!」

「分かってる。ーーー削除」

  


 慌てるリーナに俺は冷静に釜石さんのまとわりつく黒い霧を削除する。

 黒い霧は一瞬にして消え、うめき声をあげていた釜石さんは落ち着きを取り戻しゆっくりと目を開けた。



「神谷君、リーナちゃん.......」


  

 目を開け釜石さんが無事と分かり俺とリーナはホッと一安心する。



「よかった。さや殿怪我はないか?何処か痛むところは?」

「う、うぅん。大丈夫だよ」  



 心配するリーナに釜石さんは大丈夫といわんばかりに微笑みながら言う。

 リーナを安心させ終えると釜石さんは今度はこちらについて説明を求めた。


 

「ねぇ神谷君、リーナちゃん。これってどういう状況なの?それにさっきから気になってたんだけど、どうして二人とも浮いてるの?それにリーナちゃん、その髪と目の色.....」

「あー、それはーーー」



 色々ありすぎて一周回って冷静になったのか、リーナの【天使化】を見回しながら聞く釜石さんに俺は応えようとしたその時、後ろから殺気を感じた。

 振り向くと、戻ってきたゲルマが怒りの形相で立っていた。  



「まさか、あの一瞬であんな攻撃をしてくるとは.........。今のは流石に効きました。それにあの状況で動くなんて......貴方にはもしかしたらあの人族が死ぬかもしれないという危惧はなかったんですか」



 声は冷静だが顔が完全に怒っている。



(危惧があったからさっきまで動かなかったんだろうが。それをお前が調子に乗るからつい手が出ちゃったんだよ)



 そんなゲルマの言葉に俺は内心そう思う。

 それにしてもまだ来るのか。執念深いというか何というか。

 俺はゲルマを見てそう思ったが、同時に少し嬉しくも思った。



「釜石さん、悪いが話はまた後だ。リーナ、釜石さんを安全な所に連れていってくれ」



 ゲルマに視線を向けたまま俺は言った。

 俺の表情を見てリーナは伺うようにして聞く。



「貴様、怒ってるのか?」

「......少しな」



 俺はそう言ったがリーナからしたら少しではないだろう。

 俺から発せられる威圧にも似た怒りの魔力がだだ漏れしているからだ。

 それに普段怒る事をしないからリーナには新鮮に見えたんだろう。

 正直俺からしたら戻ってきてくれてよかった。

 拳一発じゃまだ俺の怒りは収まんないからな。



「そんじゃ、行ってくる」

「あ、待って神谷君!」



 ゲルマの所に行こうとする俺に釜石さんが待ったをかけた。

 俺はそれに顔だけ振り返り心配そうな顔をする釜石さんに向かって少し微笑んだ。



「安心しろ。殺しはしない。用があるのは中身の方だからな」



 俺はそう言って今度こそゲルマの下に向かった。

 向かうとゲルマは殺気の含んだ目付きで待ち構えていた。



「次こそは殺す......!!」

「悪いが殺される気はない。黙って俺にボコられな」



 お互いに殺気の含んだ目付きで睨み合う。

 さぁ、これで最終ラウンドだ。

おまけ


 【餌やり】 


 その頃のロウガ


「今日もロウガちゃん可愛いわね~」

「ほら、ソーセージあるけど食べる?」

「ハムもあるわよ」

「わん!(わ~い、食べ物だー!!)」



 近所の人にめっちゃ可愛がられていた。



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